元ヤクザの“おじさん”と、両親を事故で失い、視力を失ってしまった不遇の少年との十数年間の友情を描く映画『港のひかり』で、特別な絆を築く二人として共演を果たした俳優の舘ひろしと眞栄田郷敦。お互いの存在に希望を見出していく男たちの強さ、やさしさ、生き様を鮮やかにスクリーンに刻み込んだ。
【写真】かっこいい舘ひろし&眞栄田郷敦のソロショット多数! 撮り下ろしフォト(10点)
ヤクザだった過去を捨てて生きる男・三浦(舘)と、不慮の事故で両親を亡くした盲目の少年・幸太(少年期:尾上眞秀、青年期:眞栄田)。二人はお互いの孤独な魂に寄り添いながら心を通わせていくが、血と暴力の歴史が彼らの未来の前に立ちはだかる――。数々の映画賞を総なめにした映画『正体』で、第48回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した藤井道人監督と、キャメラマン・木村大作が初タッグを組み、北陸の港町を舞台にした完全オリジナル脚本に挑んだ。
■「僕の憧れの男性像は、舘ひろしさん」(眞栄田)
――舘さんは、『ヤクザと家族 The Family』(2021)でご一緒した藤井監督と「映画をもう1本撮りたい」と熱望されていたとのこと。藤井監督や藤井作品に、どのような魅力を感じたのでしょうか。
舘ひろし(以下、舘):僕はこれまでにたくさんのすばらしい監督さんとご一緒してきましたが、皆さん、助監督から叩き上げで監督になられた方ばかりだったんですね。そういった経験のない監督は、どういった感性をしているのかとても興味がありました。だからこそどうしても藤井監督とご一緒してみたいと思っていたんですが、『ヤクザと家族 The Family』を撮った時に、やっぱりこれまでの監督とは違うものを感じて。映画少年がそのまま育ってきたような情熱がものすごく伝わってきたし、ぜひもう一度、映画づくりを共にできたらいいなと思っていました。
――眞栄田さんにとって、『ヤクザと家族 The Family』はどのような作品でしたか?
眞栄田郷敦(以下、眞栄田):『ヤクザと家族 The Family』を観てから、藤井監督や舘さんとご一緒したいとずっと願っていました。
舘:眞栄田くんとは『港のひかり』の前に、『ゴールデンカムイ』(2024)の撮影で初めてお会いすることができて。すごく魅力的な目をしているなと感じました。たくさんいる俳優さんの中でもまた違った雰囲気を持っていて、すごくいい俳優さんだなと思ったんです。
眞栄田:今回は舘さんとガッツリと共演させていただくことができて、本当にうれしかったです。僕の憧れの男性像は、舘ひろしさんなので。
舘:いやいや、よく言うよ(笑)!
眞栄田:本当です! 僕はある時期から、インタビューなどで目標などを聞かれると「人生を楽しむこと。やりたいことをやること」と答えるようになったんですが、そう考え始めたのは舘さんにお会いしてからだなと思って。『ゴールデンカムイ』の撮影の時に、「芝居以外での人生の経験を積むことは、役者としてとても大事なこと」というお話を聞かせていただき、その言葉にとても感銘を受けました。
■「画面をしっかりと支えられるのが映画俳優。眞栄田くんは、そういう存在です」(舘)
――それは人間としての生き様が、役に投影されるということでしょうか。
舘:僕は、芝居というのは人生のほんの一部を切り取ったものだと思っていて。その役者自身、人間として魅力的であることが大事だと感じています。いかに画面を埋めたり、支えることができるということが大事なんです。バストショットで映った時に、その画面をしっかりと支えられるのが映画俳優。石原裕次郎さんにしろ、渡哲也さんにしろ、出てくるとそちらに目が行ってしまいますよね。その人の存在感や魅力が画面を支えているわけで、芝居がうまい、下手は関係ないんです。
――それこそが、銀幕のスターという存在ですね。
舘:そうです。眞栄田くんはそういう存在で、眞栄田くんがパッと出てくるとそちらにみんな目が行きます。その存在感や目の輝きは、お父さんからいただいた財産ではないでしょうか。
眞栄田:舘さんは、いつもいい目をしていると褒めてくれるんです。すごくうれしいです。
――大人になった幸太の登場シーンから、彼が三浦の存在を胸に前向きに生きてきたことが伝わるような、まっすぐな目をしていたことも印象的です。眞栄田さんは、幸太を演じる上でどのようなことを大切にしていましたか。
眞栄田:映画には描かれていない、舘さん演じるおじさんと幸太が再会するまでの空白の12年間を大切にしていました。幸太を引き取り、育ててくれたおばさんへの複雑な想いがありつつも、おじさんと出会ったことで、その後の幸太は幸せに充実した人生を送っているという姿を見せられたらいいなと思っていました。
――三浦と幸太の再会シーンは「会いたかった」という二人の思いがあふれだす、とても感動的な場面となりました。
舘:あのシーンは、本作にとってとても大事なシーンで。『港のひかり』というタイトルにある“ひかり”というのは、幸太のことだと思うんです。僕はそのつもりでやっていましたが、あのシーンはそれがとてもよく伝わる場面です。三浦も弱い男で、おそらく彼は幸太の中に自分自身を見たんじゃないかと。強くなっていく幸太と、やっぱり弱い男である三浦が描かれる。これが本作のいいところだと思っています。
眞栄田:僕は、三浦のおじさんが“ひかり”だと思っていたので、今の舘さんのお話を聞いて『なるほどな』と。
舘:やさしさや温かさというより、いい加減さじゃない(笑)?
眞栄田:こうやって隙を作ってくださるところが、またカッコいいんですよね。
■舘ひろしが、石原裕次郎さんと渡哲也さんから受け継いだものとは?
――若手随一の実力派である藤井監督と、日本映画界を代表するキャメラマンである木村大作さんがタッグを組んだことでも話題の本作。全編フィルムで撮影が行われ、藤井監督は「木村大作さんとの共同作業は、発見と勉強の連続だった」とコメントしています。撮影現場で目にしたお二人の様子について教えてください。
舘:大作さんは“映像はキャメラマンのものだ”という考えがあるので、監督がモニターを見ることを拒否するんですね。つまり、藤井監督はモニターを一切見ずに撮影を乗り切ったわけです。これまで藤井監督は、ずっと一緒にやっているキャメラマンと「もうちょっとこうした方がいいね」と画を決めながら撮影してきた。でも今回は、初めて藤井監督が自分で画角を決めずに挑んでいる。そういった点でも、すごく意味のある映画だと感じています。
きっと藤井監督は、不安だったと思います。でもその不安が、いい方向に作用している気がしていて。例えば、ここにペットボトルが置いてあり、その横に倒れそうなコマがあったとすると、誰もがコマの方を見ると思うんです。エンタテインメントや俳優も同じで、きっと人は安定しているものより、不安定なものに惹かれるんじゃないかな。
――たしかに三浦、そして幸太も不安や揺れる心を抱えながら突き進んでいきます。
舘:そうなんです。三浦や幸太と同じように、藤井監督も戦っていたわけです。
眞栄田:監督にもこだわりがあって、大作さんにもこだわりがあって。大作さんは厳しいけれど愛がある方なので、みんなが生き生きして撮影に臨んでいました。そういった現場に参加できて、とてもうれしかったです。
――舘さんは、藤井監督と企画について議論を重ねる中で、三浦という役柄や強い男とは何かを考えた時に「石原裕次郎さんや渡哲也さんの生き様が頭をよぎった」とのこと。お二人との出会いによって、ご自身にどのような変化が起きたと感じていますか?
舘:不良がまともになったということでしょうね(笑)。
――眞栄田さんにとって、“強い男”とはどのような人になりますか?
眞栄田:男性に限らず、強い人というのは“弱さを知っている人”なのかなと思います。幸太も幼少期にいろいろと大変なことがあって、弱さを知っているからこそ、強く生きようという意志が芽生えて、人にも思いやりを持つことができるようになった。そう感じています。
舘:強い男なんて、いないんです。男は弱いもので、強くなろうとしている男がいるだけなんだよね。
――必死に強くなろうとするからこそ、三浦と幸太はカッコよく魅力的なのかもしれません。
眞栄田:僕にとって追いかけたい背中は、舘さんです。でも絶対に同じようにはなれないと思います。
舘:いやいや、なれるよ! というかすでに追い越していると思うよ!
(取材・文:成田おり枝 写真:松林満美)
映画『港のひかり』は、11月14日より全国公開。
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