デビュー15周年を迎える三代目 J SOUL BROTHERSのパフォーマーとして日本のエンタテインメントシーンの最前線を走り続ける一方で、俳優としても着実にキャリアを積み重ねてきた岩田剛典。かつては俳優という仕事に対し、強いコンプレックスを抱いていたという。

その頑なさが、数多の経験を経て「どうでもいい」と笑えるほどのしなやかさに変わった今、彼は何を思うのか。最新主演映画『金髪』で自身が演じた30歳の教師・市川への共感、36歳になった自身の現在地、そして「ワクワクしたい」というシンプルな衝動に導かれる、世界への思いを語った。

【写真】大人のカッコよさ漂う岩田剛典、撮り下ろしフォト(6点)

■共感を集めた“痛い男”とSNS時代のリアル

 ポップなビジュアルポスターとは裏腹に、観る者の心にずしりと問いを投げかける映画『金髪』。岩田が演じるのは、うだつの上がらない30歳の高校教師・市川だ。本音は心の内に溜め込み、愚痴めいた独白を繰り返す。一見すると捉えどころのないキャラクターを、岩田は「日常にある違和感の集合体」だと分析する。

 「日常にある、なんでもないことなんですけど、なんでもない違和感を集めて、このキャラクターにやらせるみたいな、そういう役だと思いました。心の声のナレーションは、すごく感情的なセリフなのですが、あえて無感情でやってほしいと言われて。そのギャップが面白いところかなと思います」。

 本音を言わず、建前で生きる。その姿は、多くの人が心の内に抱える感情を代弁しているかのようだ。心の声を吐き出す市川の姿に、観る者は共感を覚えるかもしれない。


 「日本って本音を言わない建前の社会。だから、市川を見てスカッとするんじゃないですかね。こういう、自分の代わりにこいつが言ってくれているみたいな感覚になるんじゃないかなと。『わかるわー』みたいな」。

 そして、心の中で抑えた感情が匿名で噴出するSNSの存在も、この物語では辛辣に描かれる。現実とネット空間の歪んだ関係性は、現代を生きる我々にとってあまりにも身近なテーマだ。

 「すごくリアリティのある脚本だなと思いました。今や何気なく暇つぶしに携帯をいじってしまう時代なので。そっちの世界にすがるというか、ある意味そっちの世界とこの現実世界で自分のメンタルを保っているという人は結構多い気がするんです。現実逃避の一つとして、SNSはすごく大きな存在。そこも作品の中で、共感できる部分の一つとしてうまく伝えていると思います」。

 自身にとってのSNSでの発信は「仕事の一部」でもありつつ、世の中の情報を得るツールとなっている現実も認める。
それはまさに、映画が描く世界の中で生きていることの証明でもある。

 「自分の公式アカウントでやっているようなことは仕事という認識。でも、タイムラインに上がってくるものを見てしまうのはその通りですし、最近は情報をそこからしか見ていないかもしれない。アプリを開くまでは能動的ですけど、あとはもう受動的に入ってくる情報しか得ない。本当にネットニュースで流れてくることだけが、世の中の情報になってきてしまっている。いかに世間に無関心かということだと思うんです。自分の今見えている世界とか、自分の生きている生活が、まあ正直全てだから」。

■「どうでもいい」と笑う――俳優としてのコンプレックスを脱ぎ捨てた先

 瀧本智行監督、石井裕也監督、入江悠監督、白石和彌監督などの作家性の強い監督作品から、ポップなエンタメに特化した作品まで、岩田のフィルモグラフィーは、驚くほど多彩な監督陣の名前で彩られている。そのバランス感覚には、俳優業に対する確固たるビジョンが透けて見える。しかしその裏には、アーティストという出自を持つがゆえの、長い葛藤があった。

 「俳優ってやっぱりイメージ商売だと思っていて。演じる役柄でその人のイメージが固まっていく仕事だから。
僕は、この10年ぐらいは、どうしたってグループでデビューしているので、アーティストというかアイドルというか、そういう側面がある。俳優からスタートした人とは、やっぱり見られ方も違うという中で、どうやったら俳優として見てもらえるのかなというのを考えてやってきました」。

 “俳優”として見られたい。その一心で、岩田は「頑な」だったという。パブリックイメージという名の鎧を自ら壊し、新たな自分を築き上げる。その繰り返しだった。

 「俳優業界のスタッフの方からも中途半端な人間だと思われているような気がしてしまって。だから、いつしかキラキラした役のオファーをいただいても、もう全部断っていましたし。それを続けていっても、10年後の自分に残るものがないと思っていたんです。代わりはどこからでも出てくるから。俳優としてチャレンジしたかったというのがこの10年ぐらいでしたかね」。

 しかし、10年の時を経て、岩田の心境は劇的な変化を遂げる。
かつて頑なに守ろうとしていたこだわりも、今では笑い飛ばせるようになった。

 「それでずっとやってきたじゃないですか。こうやって10年経って今、マジでそれすらも“超どうでもいい”んですよね。小さいなって(笑)。歩んできた道は自分でしかないから、もうそれが自分の人生の色なんですよね。別に人と比べることもなくなったし、俳優とも思っていないし、アーティストとも思っていないというか。もう、岩田剛典としてここまで生きてきちゃったから、この先、岩田剛典として生きていくしかない。だからもう、最近は『こうしよう、ああしよう』とブランディングしていくなんてことは、全く思わなくなりました」。

 その変化は、何か特別なターニングポイントがあったわけではないという。様々な現場で「いろんな味を知った」からこそ訪れたものだ。経験という財産が、岩田を意固地な自分から解放した。

 「この歳で、色々経験したなと思っていて。
そうなると、なんとなく着地点が見えるというか。昔みたいに意固地になって『これはやりたくない』とかもないです。ありがたいなと思って、本当に毎回。肩の力が抜けたというか、格好つけることに疲れたというか(笑)」。

 以前は、メディアで発する言葉一つひとつに気を遣い、肩ひじを張っていた。だが今は、そんな自分からも自由になった。自然体でいられる今が「何よりも楽しいですね」と笑う。

■ときはアッという間に流れる! ワクワクを求めて世界へ

 映画の中で一つのテーマとなる「誇れる大人」。作中ではそれすらもシニカルに描かれるが、岩田自身は「大人」という存在をどう捉えているのだろうか。

 「10代の時なんか、もう僕の今の年齢なんて本当におじさんだと思っていたので。でも実際なってみたら、全然大人じゃなくて(笑)。本当に時間だけが過ぎていく感覚。
20代後半の頭ぐらいから、本当に時間だけが過ぎて今がある感じです。10年後ももしかしたらそんなことを思っているかもしれない」。

 加速していく時間の流れに、ふと「このままだとすぐ死ぬな」と感じることさえあるという。だからこそ、今この瞬間を大切に噛み締めたい。そして、自らの心を突き動かすものに、正直でありたい。

 「ファンの方の前とかでも『このままだと時間だけ過ぎてすぐ死んでしまう』とか言うと笑われる。でもなんか本当にそう思っちゃうぐらい。だから、最近は意固地にならない代わりに、自分がワクワクすることをやっていこうと強く思うようになったんです。いまそういうフェーズに入っている気がします」。

 その「ワクワク」が今、岩田を日本という舞台を超えて世界へと向かわせている。今年2月にユニバーサルミュージックと新たにタッグを組むことを発表し、音楽、そして俳優として、新たな挑戦の舞台を見据える。

 「いま36歳なのですが、まだ間に合うと思っているので。自分の人生を充実させることが、自分の今やりたいことだし、チャレンジできる最後のチャンスかなと。どうなるか分からないけれど、やらずに後悔するより、やっぱりやってみようと思って。もちろんストレスがかかることだし、安牌じゃないから疲れると思う。色々ネガティブなことはありますが、でも『やりたい』って思っちゃっているから、多分やると思います」。

 俳優でもアーティストでもない。「岩田剛典」という一つのジャンルとして、これからも道を切り拓いていく。「とにかく行動していきたいですね」。そう語る岩田の瞳には、まだ見ぬ未来への期待が映っているようだった。(取材・文:磯部正和 写真:松林満美)

 映画『金髪』は、11月21日より全国公開。

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