今年の8月にパルコがゲームパブリッシング事業に本格参入し、新レーベル「PARCO GAMES(パルコゲームズ)」を設立。同社は商業施設や演劇、映画を展開しているイメージが強かっただけに、ゲーム業界への参入には「意外」という声が多く上がった。

今回はそんな「PARCO GAMES」のメンバーであるゲーム事業開発部・西澤優一氏と清水喬介氏から、参入の経緯やインディーゲームへの思いなどを伺った。

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 「PARCO GAMES」はインディーゲームのパブリッシングを行うレーベルであり、11月にはドイツのゲームスタジオが手掛けた3D探索アドベンチャー『The Berlin Apartment』と2Dアクションアドベンチャー『Constance』を正式リリースした。両作ともPCゲームプラットフォーム・Steamのレビューは“非常に好評”で、ユーザーから高評価を獲得。また、今冬には南極を舞台としたサバイバルアドベンチャー『南極計画』のリリースも予定されており、ゲーマーから期待が高まっている。そんな、同レーベルにて、西澤氏は事業責任者を、清水氏は『The Berlin Apartment』、『Constance』のパブリッシングやプロモーションなどを務める。

――まずは、簡単におふたりの役職など自己紹介をお願いします。

西澤:株式会社パルコの西澤と申します。ゲーム事業開発部という部署の部門長で事業全体の責任者をしており、ビジネス的な事業計画やジャッジを担っています。

清水:同じくゲーム事業開発部の清水と申します。私は11月に発売された『The Berlin Apartment』、『Constance』のパブリッシングを担当しておりまして、主にアジアでのプロモーションやマーケティングをそのタイトルの開発者さんと向き合いながらやっています。

――パルコは商業施設の会社というイメージがあったので、ゲーム業界への参入はかなり意外でした。「PARCO GAMES」というレーベルを設立するに至った経緯を教えてください。


西澤:当社のゲーム事業は、2023年の9月にチームを立ち上げ今に至っています。国内での我々は“商業施設のPARCO”という印象が強いと思うのですが、会社の歴史としてはもう1つの軸で、エンターテインメント事業も長くやっています。例えば、演劇や音楽、あと映画関連の事業などですね。なので、様々なカルチャーとそのクリエイターさんたちと一緒に仕事をしながら、様々なカルチャーとの接点を持ってきました。

そのときに、昨今のゲームカルチャーの盛り上がりを、国内だけでなく世界的な規模で感じていまして、じゃあ僕たちが持つノウハウだったり、審美眼みたいなところを活かしてゲーム業界でも何かやれるんじゃないかな。という発想から設立に至りました。

――なるほど。長年多くのカルチャーに触れてきたパルコだからこそのスタートだったのですね。

西澤:表現が難しいんですけれど、「ゲームカルチャーと何かをしよう」「何かができるかもしれないよね」っていうR&D(リサーチ アンド ディベロップメント:企業が新しい知識の発見と、それを基にした新製品・新サービスの創造を行う活動)みたいな、小さい種から始まったのが2年前なんですよ。なので、その時点では当社のゲーム事業として何をやるのか明確に定まってはいなかった状態でした。そこから何をやるのか、すべきなのかっていうところを、私が旗を振りながらチームメンバーと一緒に作っていき、着想したのがゲームパブリッシャーでした。

――実際にレーベルを設立されて、社内やユーザーからの反響はいかがでしたか。


西澤:我々は、先ほど話した映画で出資・配給をしたり、あるいは出版・書籍の事業もやっていますので、ゲームパブリッシャーもゲームを流通・配給していくという意味では近いところにあると感じており、そう解釈すると社内に理解してもらうことはできましたね。また、カルチャーと常に向き合っていく会社の風土があるので、その点も加えて認知されやすかったのかもしれません。

そして、ユーザーさんからはやはり異業種参入なので「なぜパルコが?」と驚かれました。ですが、我々が何を目指していきたいのか、ゲームと一緒にこんな魅力を届けたいんだとかを、オフラインのイベント出展などの場や様々な活動を通じてお伝えさせていただくと「なんかちょっと面白そうだな」という意見が見え出して、私としてはポジティブに捉えています。

――清水さんから見てもユーザーから「意外」の声が上がるだろうという想定でしたか?

清水:そうですね。多くの人が抱いている印象通り、“商業施設としてのPARCO”のイメージが1番先にくると思いますので。あと、現場レベルですとクリエイターさんとのやり取りの中で「パブリッシャーとしてもうちょっと手前のところから向き合いたい」という話をさせてもらうと、割とすっと受け入れてもらえたような印象がありました。

西澤:なのですごく突拍子もないことをしたというつもりはなくて、僕たちの感覚からするとこれまでに行ってきたゲームのギャラリーやポップアップイベントから広がっていった新しい領域がゲームビジネスにすごく近い場所にあるんじゃないかなと感じたんです。社内的にも対外的にも、ご理解いただける範囲が大きかったのは、動いてみてわかったところもありますね。

――昨今はインディーゲームが非常に盛り上がっており、映画会社や出版社がゲーム事業に参入していますが、パルコだからこそできる強みはありますか?

西澤:ひとつは、先ほど触れました商業施設の側面がありますから、オフラインでのイベント展開などを、ゲームに対して提案できる部分だと思っています。ゲームって基本的にはオンラインがまず主体で、その中のコミュニティがオフラインだと思いますが、僕らからするとその逆ベクトルで、オフラインの場をきっかけにオンラインにアプローチするとか、そういったこともできると考えています。

一方でパブリッシャーも始めましたので、僕らはオンライン起点のアクションもできるようになりました。
オンとオフをインタラクティブにやれるようになったのは、今後PARCO GAMESの強みになってくるんじゃないかと思います。

――パブリッシングを行うゲームについて、選定基準などがあれば聞いてみたいです。

清水:アートワークやストーリーもそうなんですけど、クリエイターさんがその作品に込められた思いなども含めて伝えたい物語があるかどうかっていうのを大事にしています。そして、その物語と思いに僕らが共感できるかどうか、広めたいと思えるかっていうところも大切な選定の軸になってます。そういった背景が見える作品には、僕たちも積極的に協力をしていきたいです。

――つまり、作家さんのバックボーンみたいなものも重視しつつ、ジャンルなどは特に問わないと。

清水:そうですね。ジャンルでの線引きは一切していないので、それよりも作品を通して何を伝えたいのか、僕らがシンパシーを持てるかを大事にしています。ですから、国やジャンルも問わないフラットなレーベルです。

■パルコが掲げるキーワードは「インキュベーション」&「キュレーション」

――パブリッシャーは基本的にゲームを販売することが仕事だと思いますが、クリエイターさんとのやり取りの中で、内容に意見を出したりすることはありますか?

清水:ゲームのパブリッシングもそうですし、ポップアップとかイベントを作るときにもクリエイターさんと担当者がガッツリ向き合って、何を伝えたいのか、どういう風にしたいのかっていうのを話していきます。話し合ったことがより伝わる、そのために改善できる点があるんじゃないかと思った部分があれば忖度なく伝えるようにしていますし、それを取り入れる取り入れないはクリエイターさんに委ねてはいるものの、そこで僕たちが口をつぐんでしまうということはないようにしています。

西澤:一言でパブリッシャーと言っても、単純にゲームの流通や配給に重きを置いて数多く取り組むスタイルもあれば、クリエイターさんと意見交換をしながらひとつのゲームのクオリティをじっくり上げていくようなスタイルもあったりすると思います。
僕らはどちらかと言うと後者をやっていきたいと思っているんです。そのゲームがひとつの作品としてより良くなるためにはどうしたらいいかをクリエイターさんと一緒に悩みたいし、その結果、ゲームがさらによくなってユーザーの方も喜ぶみたいな。そういうサイクルを意識したパブリッシャーを目指しています。

当社のどのエンターテインメントの事業もそうなのですが、僕らは「インキュベーション(支援)」と「キュレーション(編集)」というキーワードを大切にしていて、ゲーム事業に関しても同様な想いを持ちながら、ひとつひとつのコンテンツにしっかり向き合いたいです。

――11月には『The Berlin Apartment』と『Constance』がついにリリースされ、ユーザーからも高評価を獲得しています。今のお気持ちはいかがですか?

西澤:ほっとしているのが正直な感想です(笑)。ゲームの高評価については、僕としては自信はうっすら持っていたというか、パブリッシャーとして自信を持たなきゃいけないなっていう感覚でした。でも、ユーザーさんからの反響は蓋を開けてみないとわからないので、楽しみな反面どうなるんだろう…と思っていました。なので、Steamのレビューが“非常に好評”となっていることについては、本当にほっとしています。

清水:この2作とは昨年の「東京ゲームショウ2024」で出会ってから1年間一緒に歩んできているので、思い入れも相まって私も根拠のない自信はありました。最初に開発者さんへお声をかけた時点から、ある程度国内で受け入れられる要素と可能性がしっかりあり、それに足るクオリティの作品であることも実感してました。とはいえ、『The Berlin Apartment』は舞台がドイツの話なので、これが日本を含めたアジアのユーザーにどれだけ共感してもらえるか未知数であり、こうして高評価をいただけたのはかなり安心しています。


――今年は「東京ゲームショウ2025」や「デジゲー博2025」を始め、海外のインディーゲームイベントにも精力的に参加されておりました。試遊された参加者からの生の声でも高評価が多かったですか?

清水:多かったですね。あと、参加者さんのプレイを後ろから覗かせていただいたりもしたんですけれど、途中でプレイから脱落する方も少なくしっかり最後までプレイしていただけました。また、中には近しいジャンルの作品で遊ばれている方もいたので、そういう方には操作感やゲーム性についてもお話しを聞いて、システマチックな部分でも生の声で評価を得られたのはイベントに出てよかったなと感じています。

西澤:11月には韓国と中国でのイベントに参加してきまして、そこでも試遊台はひっきりなしにプレイしていただけるような状況だったんですね。韓国の方も中国の方も、そもそもパルコのことをあまり知らないはずなので、純粋に僕らが持っていった3タイトルのアートスタイルやゲームシステムなど何かしらに関心を持ってくださっているんだろうなっていうところは掴めました。

――『The Berlin Apartment』はSteamのほか、PS5やXbox Series X|Sでもリリースされておりますが『Constance』と『南極計画』については現時点(2025年12月)で対応プラットフォームがSteamのみになっております。両作は家庭用ゲーム機での展開も視野に入れてるのでしょうか?

西澤:その可能性はもちろんゼロではないです。『Constance』ですとSteamのストアページで公開しているロードマップに「コンソール版の発売(Nintendo Switch、XBOX、PS5)」と記載しているのと、『南極計画』も同様にマルチプラットフォーム化は積極的に検討したいと思っています。やっぱり多くのユーザーに触ってもらえることはいいことなので。

――例えばの話にはなりますが、今後はパブリッシングだけでなく、自社開発でのタイトルも展開したいといった展望はありますか?

西澤:あります。具体的にお話しできることは今はありませんが、兼ねてから自社でゲームのIPを開発するというのは、事業ポートフォリオの中のひとつとしてターゲットに入れています。
とはいえ、開発機能を内製で持ってない現状や、そこに至るまでの様々なハードルもあったりするので、どのタイミングでどういったものを目指すのかしっかりとコンセプトを固め、その上で開発に踏み込んでいきたい。そして、自社でパブリッシングできたらいいよねと考えています。

清水:それこそチームが発足した当初から、そこは常に視野に入れながらパブリッシングやイベントでクリエイターさんと向き合ってきました。その場限りで終わらないお付き合いを僕らも意識的にするようにしていますし、先ほど出た「インキュベーション」と「キュレーション」はパルコとしても大切にしてきた部分であるので、お互いによくなっていこう、面白いことを一緒にどんどんやっていこうみたいな思いは常に持ってお付き合いをするようにしてます。

――今までにお話しに上がった3作に続く、第2弾のパブリッシングタイトルは決まっていたりするのでしょうか?

西澤:現時点ではお話しできるものがないのですが、11月29日にオンラインで開催された「INDIE Live Expo」にも我々は参加しておりまして、その中で流させて頂いたPVで最後にチラっとネクストのことを触れたりはしてるので、何かはありますって感じですかね。ぜひご覧になってください。

――「ご期待ください」ということですね。

西澤:そういうことです(笑)。

――最後に「PARCO GAMES」の展開を楽しみにしているユーザーや、気になっているインディーゲームクリエイターへメッセージをお願いします。

西澤:レーベルを立ち上げてまだ半年経っていないくらいですので「PARCO GAMES」ってなんなんだろうとか、どういうものを発信していくんだろうみたいな期待値を僕らがもっと上回るようなものを出していかなきゃいけないんだろうなと強く感じます。それはユーザーさんに向けてもそうですし、業界に向けても同じです。

そして、パートナーの方と一緒にステップアップしていきながら仲間たちをどんどん広げていくような感覚で、ゲーム業界の発展・成長により貢献できたら嬉しいなと思っています。そういった活動の中で「次はどんな発表があるんだろう」と皆さんに気にかけていただけるような存在になっていきたいですね。

清水:今はまだ「PARCO GAMESです」って名乗っても「あのパルコですか?」と言われることが多いんですけれど(笑)、創業当初からずっと演劇や映画などのカルチャーと向き合ってきた私たちだからこそおすすめできるゲームをユーザーの皆さんには一緒に面白がってもらえると嬉しいなと思っています。

ゲームの開発者さんに関しては、伝えたいと思っていることを広める“文化の発射台”として私たちをいい意味で使ってもらえればなという感じです。そういう寄り添える存在でいたいなと思っていますし、ひいてはそのゲームがカルチャーとして根付いていくまで、僕らも協力できれば幸いです。一緒に作品の魅力を伝えさせてほしいので、お問い合わせフォームから気軽にご相談ください。

(取材・文:舘はじめ 写真:吉野庫之介)

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