カウテール・ベン・ハニア監督による映画『The Voice of Hind Rajab(原題)』が、邦題『ヒンド・ラジャブの声』として、9月4日より全国公開されることが決定した。

【写真】ヴェネチア国際映画祭では驚異の8冠『ヒンド・ラジャブの声』場面写真

 本作は、世界が傍観した悲劇の実話を基に描く、魂が震える実録ドラマ。

第82回ヴェネチア国際映画祭にて銀獅子賞(審査員大賞・グランプリ)受賞を含む驚異の8冠を達成し、先日発表された第98回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートを果たした。

 2024年1月29日、パレスチナの人道支援組織・パレスチナ赤新月社のボランティアチームが緊急通報を受ける。それは、ガザ地区で銃撃下の車内に閉じ込められた6歳の少女ヒンド・ラジャブからだった。赤新月社のボランティアチームはラジャブとの電話をつないだまま、救出するためにあらゆる手段を尽くす――。

 監督・脚本を務めるのは、フィクションとドキュメンタリーの境界を探求し続けてきたチュニジア出身の気鋭カウテール・ベン・ハニア。第93回アカデミー賞で国際長編映画賞にノミネートされた『皮膚を売った男』(2020)、第76回カンヌ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされた『Four Daughters フォー・ドーターズ』(2023)など、確かなキャリアを積み重ねてきた彼女が新たに手掛けたのは、ガザの痛みを伴う真実の物語だ。

 本作は、パレスチナ赤新月社が記録した緊急通報を基に制作され、作中の電話シーンにおける音声には、この日の実際の通話記録が使用されている。監督がこの出来事を映画にしなければならないと考えたきっかけは、後日パレスチナ赤新月社が公表した、ヒンド・ラジャブが助けを求める短い音声クリップを耳にしたことだったという。彼女はその瞬間を「私の心の中で何かが揺らいだ」と振り返っている。

 このたび解禁となった場面写真2点には、車内から必死に助けを求め続けるヒンド・ラジャブの声を聞き逃すまいと、電話を取り囲むように見守るパレスチナ赤新月社のスタッフたちの姿、そして、ある目的を持って彼女の写真を出力し、オフィスのガラスに貼り付ける緊迫した様子が収められている。なお、この場面で使用された写真は、ヒンド・ラジャブ本人のものだ。

 ブラッド・ピット、ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラ、ジョナサン・グレイザー、アルフォンソ・キュアロンら映画界の錚々たる面々が製作に名を連ねた。
ヴェネチア国際映画祭でのプレミア上映後には、同映画祭史上最長となる23分間の記録的なスタンディングオベーションが巻き起こった。

 監督は授賞時に「私はこの賞を、パレスチナ赤新月社、そしてガザで命を救うためにすべてを懸けたすべての人々に捧げます。彼らこそが本当のヒーローです。ヒンドの声は、ガザそのものの声です。世界中に響き渡った“助けて”という叫び。しかし、誰も応えませんでした。彼女の声は、真の責任が問われ、正義が実現されるその日まで、響き続けるでしょう」と思いのたけをスピーチした。

 本作はヴェネチアをはじめ16もの賞を獲得(1月23日時点)。海外メディアからは「この10年間で最も重要な作品」(GQ magazine)、「涙なしに観ることは不可能だ」(BBC)、「圧倒的で強烈に没入する」(The Hollywood Reporter)、「激しく、緊迫感があり、心を揺さぶる」(The Guardian)、「これは彼女[ヒンド]の哀歌であり、追悼であり、声であり、顔である」(INDIEWIRE)など幅広い表現で称賛するコメントが相次いでいる。

 また、このたびのアカデミー賞ノミネートを受けて、監督は「このノミネートはヒンドのものです。彼女の声のものです。決して起こるべきではなかったのに、それでも起きた出来事のものです。
世界中から集まった美しい作品の中に、“ヒンドの声”が存在することを大変光栄に思います。“象徴”としてではなく。“歴史”として」と覚悟に満ちたコメントを発表した。

 映画『ヒンド・ラジャブの声』は、9月4日より全国公開。

※カウテール・ベン・ハニア監督のヴェネチア映画祭授賞式コメント全文は以下の通り。

<コメント全文>

■カウテール・ベン・ハニア監督 ヴェネチア映画祭授賞式コメント

 私はこの賞を、パレスチナ赤新月社、そしてガザで命を救うためにすべてを懸けたすべての人々に捧げます。彼らこそが本当のヒーローです。

 ヒンドの声は、ガザそのものの声です。世界中に響き渡った「助けて」という叫び。しかし、誰も応えませんでした。

 彼女の声は、真の責任が問われ、正義が実現されるその日まで、響き続けるでしょう。

 私たちは皆、映画の力を信じています。
今夜私たちがここに集っているのも、埋もれてしまいそうな物語を語る勇気を与えてくれるのも、映画なのです。

 映画はヒンドを蘇らせることはできませんし、彼女に対して行われた残虐行為をなかったことにもできません。奪われたものを取り戻すことは何もできないのです。

 しかし映画は、彼女の声を記録し、国境を越えて響かせることができます。なぜなら、彼女の物語は、彼女一人のものではないからです。それは、ジェノサイドに耐え続ける人々全体の物語であり、罪を問われることのないイスラエルの犯罪的な政権によって引き起こされた悲劇です。

 そして今夜、この物語は「記憶」だけではなく、「緊急性」を伴っています。ヒンドの母ウィッサムと弟のイヤドは、いまだガザにいます。

 彼らの命はいまだ危険にさらされており、恐怖、飢え、そして爆撃の空の下で毎日を迎える、数えきれない母親、父親、子どもたちと同じです。

 私は世界のリーダーたちに、彼らを救ってほしいと強く訴えます。彼らの生存は、慈善の問題ではありません。それは正義と人道、そして世界が彼らに最低限果たすべき責任の問題です。


 ヒンドの母ウィッサムから、皆さんにこの言葉をお伝えするように頼まれました。

 「あなたに、チームのみんなに、そしてこの映画を支えてくれたすべての人たちに感謝の気持ちを伝えたいです。私を支えてくれたこと、この物語を支えてくれたことに、心から感謝しています。本当は私も、今日皆さんと一緒に立っていたかったです。そして、世界がガザにおけるヒンドだけが特別な物語ではないということを忘れないでいてくれることを願っています。希望を待ち続けている子どもたちが、まだたくさんいます。この映画が戦争を止める助けになりますように」。

 私もまた、この耐え難い状況の終わりを求めます。もう、たくさんです。

 かつて、ネルソン・マンデラという賢人がこう言いました。

 「パレスチナの自由なくして、私たちの自由は完全ではないことを、私たちはあまりにもよく知っている」。

 今日、その言葉はかつてないほどの重みを持っています。


 ヒンドの魂が安らかに眠れますように。彼女を殺した者たちの目が、決して安らかに閉じることがありませんように。

 そして、パレスチナに自由を。

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