[気になる映画人インタビュー]「幽霊は出ない、超常現象は起きない、音楽で恐怖を煽らない、過度な演出はしない、日常から逸脱しない」。恐怖を語る際に必要不可欠な要素を、大胆にも禁じ手にしたホラーオムニバスシリーズ「トリハダ ~夜ふかしのあなたにゾクッとする話を~」。
2007年3月の深夜帯にフジTV系でひっそりと放送されたにも関わらず、インターネットを中心にその怖さは大きな話題を呼び、2012年9月には完全オリジナルストーリーの映画「トリハダ -劇場版-」が公開されるなど、異例の出世を遂げたカルト作品だ。

<フォトギャラリー>「トリハダ」シリーズを振り返る

 インターネットで本作を検索すると、聞き慣れない女優の名前が目につく。2009年3月に放送された「トリハダ5」に出演した笹野鈴々音(りりね)だ。しかも作品ファンの間では笹野が重要な役を演じた「気づくことが恐怖のはじまり」がダントツで怖い、との声もある。笹野が演じたのは、深夜の公衆電話ボックスの中に佇む女性。その強烈な存在感を表すように、テレビ版DVDジャケットには笹野の顔が採用され、劇場版にも進出した。

 新世紀のホラー女優の誕生をスクリーンに映し出した劇場版DVDがリリースされたことを記念して、笹野にインタビューすることができた。普段は舞台を中心に活動しており、「トリハダ」が本格的ドラマ&映画出演となる。作品出演後に大きな反響を肌で感じたという彼女が、自身のルーツについて、そして劇中で醸し出した恐ろしい雰囲気とは似合わぬ、意外な活動経験を教えてくれた。

 どんな人なのか、不安とともに待っていると、明るい声と共にパタパタと部屋に入って来た小柄な女性。笑顔を大きく覗かせながら「インタビューはほとんどしたことがないので緊張しちゃいます」と頭をポリポリとかく姿に、「トリハダ」感は皆無だった。表現者を目指したのは、幼少期に観劇した宝塚歌劇団による「ベルサイユのバラ」がきっかけ。
きらびやかな世界に感銘を受け、中学校入学後に演劇部に所属し、横浜市が主催するワークショップにも積極的に参加。そこで様々な舞台関係者と出会い、舞台女優という道を歩もうとする。

 だが高校時代に一つの転機が訪れる。お笑いとの出会いだ。「学校生活に退屈していた時期に、テレビでお笑い芸人さんの姿を見て、『よし、私も世の中を笑わしてやろう』、そう思いました。そこから友達とトリオグループ『アフロリーナ』を結成。当時は3人で売れよう! と意気込んで活動していました」と振り返る。路上アーティストがメジャーに踊り出た時代だったこともあり「その波に乗ろうと、アフロヘアのカツラとかぼちゃパンツを身に着け、路上お笑いライブを定期的に敢行していました。固定ファンの方もできて、オヒネリもたくさんいただきました。もしかしたら今よりも勢いがあったのでは?」と笑う。ちなみに「全員がボケてそれを全員で突っ込むというスタイルで、横浜をベースに活動していたことから、『自分たちが肉まんだったら、どうしよう~』などのネタをやっていましたね」と斬新さを物語る。 かなりのお小遣いを稼いだアフロリーナだったが、メンバー3人の目標が変わり徐々にフェードアウト。
そして本格的に女優を目指すことになる。笹野の138cmという身長は、漫画家・手塚治虫が生み出したキャラクター、鉄腕アトムと同じという。今でこそ個性として機能している背の低さだが、女優を目指すうえで足枷になったことはないのだろうか? 「芝居の世界では、自分の身長について気にするきっかけはありませんでした。逆に演劇の世界がそういったことを気にしないでいさせてくれたようなところもあります」と笹野。学生時代、イジメと捉えてしまえばそれに値することはあった。だが「それらを気にすることなく過ごせたのは、お笑いやお芝居があったから。何もない日々を過ごしていたら、コンプレックスの塊になっていたと思いますね」と胸の内を明かす。

 その身長によって開かれた扉もある。それが「トリハダ」だ。「出演後の反響はすごく感じまして、それこそ“トリハダ”でしたね。この作品を通して私を知ってくれた方も多く、ブログやツイッターの閲覧者の数は数百単位で増えましたし、中には『こんなホラー女優がいたとは驚き』というようなコメントも頂いたり。ホラー女優にカテゴライズされるのはいかがなものかと思いますが、嬉しい悲鳴ですよね」と実感を込める。
実は大の怖がりといい「自分でやっていて怖かったけれど、鏡に向き合ってニタニタ笑ったり、笑い声を出したり、勇気を振り絞りました」と努力をにじませるが、「ホラー度合がまだ足りない。笑い声も笑い顔も、もっと上を目指せたはず」と自己満足はしていない。

 目標にしている女優は、個性派の樹木希林。「役柄として存在せず、そこに素でいるようなお芝居をされるのが本当に凄い。稽古や役作りを重ねて洗練されてきたはずなのですが、演技が自然に見えるところが素敵です」と目を輝かせる。今後は時代劇に挑戦したいそうで「顔だちが薄い方なので、時代的に溶け込めるのではないかと思いますね。それと28歳ですが、すでにおばあちゃんの役柄にも興味があります」と抱負を語る。なおプライベートについては「普段の生活が見えないような、謎めいた部分を持っていたいですね。まるで織田裕二さんのように」と不思議な理想を語ってくれた。
編集部おすすめ