[気になる映画人インタビュー]画面に登場し言葉を発するだけで、脇役にも関わらずそのシーンを根こそぎ持っていってしまう。俳優・佐藤二朗の求心力は凄まじい。
そんな佐藤が「ライフワークになっている」と語るのが、映画「幼獣マメシバ」「マメシバ一郎」で主演している38歳独身・ニートの芝二郎だ。そんな芝二郎が三度世間を騒がす最新シリーズ「マメシバ一郎 フーテンの芝二郎」がついに公開される。

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 キュートな子犬・一郎の飼い主であるややこしい性格の芝二郎を、佐藤はまるで地であるかのように演じ切る。濃い主役がひたすら作品を牽引していくという構図は、まさに佐藤の独壇場だ。そこにあざとさを感じないのは、佐藤の類稀なる演技力があるからこそ。そんな唯一無二の演技力の源には一体何があるのだろうか? 俳優を志したきっかけから、無名時代に豪華俳優陣の中で炸裂させたという役者としてのポリシーを教えてくれた。

 役者への道を自覚したのは、小学4年生のときに学芸会で披露した「お芋はこうして生まれた」という劇。主役は8人の芋だったが、佐藤が演じたのは芋を引率する猫の先生という助演だった。「でも主演の芋にはセリフがなかった、芋だからね。物語の8割を僕が演じた猫の先生が喋っていて、その姿に保護者たちは気が狂ったように笑ったんです。その時ですね」とルーツを語る。だが年を重ねるごとに役者でメシは食えないという現実を知り、大学卒業後はサラリーマンとして過ごす。
しかし役者への夢を、すべて捨てたわけではなかった。プロへの道は諦めたものの、趣味として劇団「ちからわざ」を旗揚げ。それが現在へと繋がる第一歩になるとは、その時の佐藤は知るよしもない。

 劇団「自転車キンクリート」の公演に客演したことをきっかけに、サラリーマン生活に終止符を打つ。そして舞台を観に来た映画「20世紀少年」などで知られる堤幸彦監督に気に入られ、本木雅弘主演のTBS系ドラマ「ブラック・ジャック」に出演。患者に癌を告知する医師役としての短い出演だったが、その演技が認められ現在の所属事務所に引き抜かれた。このとき佐藤は30歳。かなりの遅咲きだが「『自転車キンクリート』主宰の鈴木裕美さんの演出が今の僕の血肉になっているし、芝二郎シリーズの脚本家である永森裕二さん、それにテレビ東京系のドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズの福田雄一監督も僕に当て書きをしてくれた。これまでの僕はすべて、出会いによって生まれている」と恵まれた環境に感謝している。 もちろん恵まれた環境や運を呼び込んだのは、佐藤自身の俳優としての魅力があったからに他ならない。役柄を演じる上では「観客が『こんな人はいない』と思った瞬間に、観客はマッハの速度で引く。だから『自分の近くにはいないけれど、徳島県あたりにいるのでは?』と思わせるような『~かも』という引っかかりを常に大切にしている」という。
無名時代に刑事役として出演したCX系連続ドラマ「人間の証明」での捜査会議場面でのこと。「状況を説明するようなセリフを嫌がる役者さんもいるけれど、僕にとっては売り込みの場所。実際に捜査会議なんて見たことのある人はいない。だからこそ、そこで『~かも』を意識して、言葉を唄うように言ってみたんです」。竹野内豊、大杉漣、田辺誠一らベテラン勢が揃う中での大バクチ。だがそのポリシーが功を奏し、演出を担当した河毛俊作監督から「この作品の一番の収穫はお前だった」とまで言わしめた。

 どんな現場であろうと、萎縮する気持ちはないという。そこには「沢山の俳優さんたちと仕事が出来るんだから、そんな暇なんてない」という思いが先立つからだ。ちなみに普段は「香川照之さんから『体は本土くらいでかいのに、気持ちは離れ小島並み』と言われるほど気が小さい」らしいが「どこかの神経が切れているので、現場では思いついたアイディアを試す度胸が生まれるのかも」と笑う。

 そんな“切れた”佐藤の魅力を存分に堪能できるのが、最新主演作「マメシバ一郎 フーテンの芝二郎」だろう。しかも今回のサブタイトルには、日本を代表する喜劇俳優・渥美清さん主演の映画「男はつらいよ」シリーズが意識されている。ライバルは寅さん? と聞くと「ライバルとか、そういう恐ろしいことを言うな!」と喝が入ったものの「芝二郎の活躍の場がまたあるとするならば、僕個人としては続けていきたいですね」と長寿シリーズ化に前向きな姿勢。
佐藤に今後どんな出会いが待ち受けるのか、楽しみだ。

 映画「マメシバ一郎 フーテンの芝二郎」は2月9日より、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開
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