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まず三池監督が「『日本映画ってこういうものだよね』という枠を、観客ではなく、作り手側が持ってしまっていた」と厳しい表情で撮影当時を振り返ったが、続けて「そのストレスで、いま頬が腫れ上がってしまっています。記者の方は、画像加工ソフトでかっこ良く修正してから使ってくださいね」と笑いを誘い、作品の演出さながらの巧みな緩急で、記者たちの心をつかんだ。
芸術志向の強いラインナップにあって、エンターテインメント大作の本作がカンヌに選ばれたことへの感想を問われ、「本当にびっくりしたが、映画は観客によって発見をしてもらうもの。先入観にとらわれることなく、作り手は作りたい映画を作り続けていくのが大事だということを、カンヌのスタッフに認めてもらえたのではないか」と本作への手ごたえを語った。大沢も「今夜の公式上映を控えているので、厳しくジャッジされるという面では、楽しいだけではなく緊張もしています。空港でいろいろな方から『がんばってください』と声をかけられ、(いまさらがんばりようがないんだけどな…)と思いつつもそうは言えず(笑)、がんばりますと言ってきました」と自然体の受け答え。対照的に緊張の面持ちの松嶋は「16年前に『劇的紀行 深夜特急』というドラマの撮影で、大沢さんと一緒にこの地を訪れました。再び来れたことに運命を感じつつ、連れてきてくださった三池監督に感謝したい」と喜びをかみしめるように語った。
海外の記者から、「カンヌ映画祭ディレクターのティエリー・フレモーが、ハワード・ホークス作品を引き合いに出してたとえていたように、古典的なスタイルに変わりつつあるように感じるが…」という質問に対して、三池監督は「自分自身が変化しているというより、出会う作品が変わることによって環境が変わっている。これからも、よりエッジが効いた作品で、オーソドックスに真っ正面からテーマに対して取り組みたい」と答えた。さらに、師匠にあたる今村昌平監督が『楢山節考』で最高賞のパルムドールに輝いてから30年が経つことを聞かされると「あれから30年か…ということは、いつか僕らも今日のことを、同じように感じるのではないかな。今村監督からは直接に言葉で言われた訳ではないが、自分の中にあるものを見つめて撮っていけ、映画は“人とは違う”ということを表現するための道具ではない、と教えられた。
実は、この「個性を意識することはない」という発言は、2年前に同映画祭のコンペ部門に『一命』で参加した際にも、三池監督が繰り返していたことだ。次回作を何本も同時に抱え、あらゆるジャンルで走り続けながら創作しているかのような三池監督の創作スタイルは、先入観にとらわれずに、その状況や条件に自らを巧みに適応させた結果だということがよく分かる。それが、世界に絶賛される“三池監督の作家性”を生み出していることが面白い。
一方で、走り続けたあとには道が残される。本作での台湾ロケも、「監督として独り立ちした頃に低予算作品を作り続ける中で、台湾のスタッフの支援のもと、自由に撮影させてもらった。日本で今回のような大きな予算を使えるようになっても、道路を封鎖してのパトカーアクションや、運行する新幹線での撮影は難しい。そこでまた台湾のスタッフに助けていただいたことは本当に嬉しい」と語り、監督のキャリアの中で、台湾での経験も、今村監督の教えも、すべての作品をつなぐ1本の太い道となり、その道がカンヌへも通じていたことが感じられる会見となった。(文・撮影:岡崎 匡)