星野源の初主演作『箱入り息子の恋』では、観ているこちらが気恥ずかしくなってしまうほど、初々しい恋愛模様が描かれる。星野演じる“35歳の童貞男”が恋に落ちるのは、夏帆扮する盲目の女性・奈穂子。
みずみずしく、一生懸命に恋するさまを演じた2人が語る、優しい作品世界、そして吉野家。

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 市役所に務める健太郎(星野)は彼女いない歴=年齢で、昼食もお金がもったいないからと実家に戻って食べる、さえない独身男。「自分と共通しているところがなくてあまり共感はなかったんですけど、だから自分とは全然違う人として考えると、すごく好きな奴だなというか。非常に真面目で、でも周りからはバカにされる。すごい筋が通っているのに誰からも認めてもらえないっていう人なので、とても好きですね。なのでちゃんと健太郎の役を作りたいなと思って、“健太郎像”みたいなものを作って撮影に臨みました」。

 愛情を持って健太郎を演じたと星野は語る。「何人か童貞の友だちがいるんですが、そのみんなに共通しているのがすごく真面目で才能のあふれる人ばかりなんです。僕はその人たちのことが好きなので、バカにするような思いとか、悪意のある気持ちでお芝居は絶対しないようにしようと思ったんです。面白みを出そうとして、気持ち悪いお芝居をするとかっていうのは絶対やめようと思いました」。

 一方夏帆は、目が不自由で過保護に育てられてきた奈穂子を演じる。“盲目”という、ともすればあざといドラマになってしまいかねない設定だが、これについては次のように話す。
「監督が韓国映画『オアシス』(02)みたいな感じでやりたいっておっしゃっていたんです。奈穂子の目が見えないこととか健太郎のこういう性格とか、全部クセととらえてやりたいって事前におっしゃっていたのがすごく印象的でした」。

 誰かを好きになると付き物のように様々な問題が生じてくる。だが好きになってしまった2人には、健太郎の恋愛経験のなさも、奈穂子が抱える障害も、“クセ”と言ってしまえる強さが備わる。2人はぎこちなく距離を縮めながら「いろんな障害をどんどんぶちのめしていく」(星野)。 「これまで私はリアルに演じようっていう、リアリティーばっかり意識して演じていたところがあるんですけど、でも映画ってそうじゃなくて、その世界の中で成立してればそれでいいんだっていうことをこの作品ですごく思いました。それこそ人を殺したり、日常では絶対起きないことだって映画の中では起きたりしますよね。最初は目が見えない役をいかにリアルに演じるかって、そっちの方に頭が行きがちだったんですけど、現実世界の基準で考えず、映画の基準でお芝居をするっていうのは今回すごく意識しました」と新たな芝居を見出した夏帆。

 親同士の代理見合い、そして本人同士も出席してのお見合いを経て、2人は初めて食事へ出掛ける。健太郎がたどたどしく奈穂子をエスコートして向かうのが、劇中でひときわ強い印象を残す吉野家だ。「映画の中では奈穂子さんから行きたいって言うじゃないですか。それがすごくいいと思います。
僕は吉野家大好きなんですけど、みんなもっと、女の子も来ればいいのにって思っていたんです」。そう星野が語るこの場面は、窓からさし込む光が初めての吉野家(とデート)に喜びを隠せない奈穂子の表情を美しくとらえており、“映画史に残る吉野家シーン!”と鼻息を荒げたくなる出来映えになっている。

 「牛丼は時間によって味が変わるんです。煮込み具合や時間帯によっても違うし、玉ねぎを入れるタイミングとかでも全然違います。それで僕が一番好きな時間帯の牛丼が、撮影の時に何度も出てきたんです。テイクを重ねる度に新しいのが来るので、こんな幸せなことはないなと」。こだわりを明かしつつ振り返り、星野にとっても思い出深いシーンであるようだ。

 夏帆は男くさいイメージもある吉野家でのデートについて尋ねると、「いいと思います」と奈穂子のように柔らかく微笑む。そして、「何でも必死な人っていいですよね。男性女性関わらず、一生懸命な人ってすごく好きです。一生懸命な人を見るとハッとするし、私も常に何でも一生懸命やりたいです」と、健太郎の真っ直ぐさに惹かれた奈穂子の気持ちを言い表すかの一言。

 『箱入り息子の恋』は何だか駆け出したくなったり、健太郎と奈穂子がいる気がして吉野家へ向かわせる力を持っている。
(取材・文・写真:しべ超二)

 『箱入り息子の恋』は6月8日より全国ロードショー
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