一人バンコクを訪れた小説家の麻衣子と、タイで暮らす韓国人ムエタイボクサーのハヌル。互いの孤独に惹かれあうように、2人は結ばれることのない刹那的な愛欲に溺れていく……。
小説家・岩井志麻子による第2回婦人公論文芸賞受賞作を映画化した『チャイ・コイ』で約13年ぶりに映画主演を果たした川島なお美と、その相手役に抜擢された注目の韓国人俳優イ・テガンに単独インタビューを行った。

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 普段のテガンは日本語ペラペラ。しかし本作は言葉の通じない男女が惹かれあっていく様を描く内容のため、川島は撮影現場でとあるゲームを提案したという。「私がフランス語で喋って、テガンさんは韓国語で喋ることにしたんです。でも徐々に互いの言っていることが不思議とわかってきて、それはまるで麻衣子とハヌルのよう。本当に通じ合ってしまうんだと思いましたね」と役柄の状況を追体験した。

 現在53歳の川島にとって、本作はかなりのチャレンジ作となった。「自分でもよくやったなと思う。作品に導かれたとしか言いようがない」と大胆な濡れ場に挑んだ心境を明かしながらも「バストトップやお尻は映らないようにして、と言うこともできたけれど、私の中で『できない』と言うのはカッコ悪いこと。この作品に選ばれたからには弱腰ではやりたくなかったし、覚悟もありました。もちろん2、30代のピチピチさはないけれど、50代の哀愁もアリかなと思った」と自らの美学が年齢を打ち砕いたことを明かす。

 その覚悟の船に同乗したテガンも気合十分だった。
川島は「オーディションの時は好青年でキュートな人だったから、ハヌル役には向いていないと感じた」と第一印象を振り返るものの「でも撮影地のタイで再会したら、完全にハヌルでした」とその変化に驚いた。当のテガンは「闇を抱えているような男を演じてみたいという気持ちがあったし、兵役から逃れたハヌルと、仕事上兵役が伸びている自分との間に共感を抱いたんです。自分の中にある闇を出し切ってみたかった」と役柄にかけた思いを熱弁する。 撮影初日、テガンは「あえて川島さんには挨拶せず、撮影がスタートするまで隠れていました。麻衣子とハヌルが初めて対面するように、出会いのシーンで本当に対面という形にしたかったから」と勝負に出た。川島は「あれ? 挨拶に来ないのはシャイだからなのね」と思ったそうだが「撮影時に会えたのがとても新鮮で、やりやすかった。そのお蔭ですぐに麻衣子になることができた」と今ではテガンの粋な計らいに感謝している。

 物語の進行を追う様に、順番通りに撮影はスタートした。そしていざ濡れ場である。ベッドシーン初体験のテガンは「タイ語もムエタイも練習すれば覚えられる。でもラブシーンは練習することができない。しかも脚本には動きがこと細かに書かれているわけではないので、妄想もできない。
まさにぶっつけ本番。不安は大きかった」と頭を抱える。しかし順撮りが功を奏した。「僕らはそれまでの撮影で役柄を生きてきたわけですから、役柄として感じた相性で挑むことができた。だからこそ生々しいエロさではなく、2人が抱える苦しさ、悲しさ、切なさを表現することができたと思います」と奥深いシーンになったと胸を張る。

 その一方で、映画の外では面白い現象が起こっていた。タイでは濡れ場に寺院が映ってはいけないという決まりがあるそうで、ハヌルの部屋でのシーンでは現地の映画協会関係者およびスポンサーら数人がモニターを厳しく(?)チェックしていたという。それでも川島は「若い頃は周りの景色が見えないようにラブシーンではコンタクトレンズを外していたけれど、今では気持ちの問題ということがわかりました。集中すれば相手のことしか目に入りませんよね」と余裕の表情である。

 素朴な疑問として気になるのは、川島の夫でパティシエの鎧塚俊彦氏の反応であるが「絶対に嫌だと思うけれど『かまへん、かまへん。俺にもそういう仕事が来たら引き受けるから』と冗談を交えて言ってくれました。男性としての葛藤はあるかもしれない。
でも女優をパートナーに持ったということで理解はしてくれているはず」と夫婦の絆を強調。また川島は来年で芸能界デビュー35周年を迎える。「常に初心を忘れず、新たな挑戦にいつだってドキドキしています」と新鮮さを失うことなく「目標は自分自身が常に最高の川島なお美であること。最高の自分を目指していきたい」と惰性なき女優道を誓っていた。

 映画『チャイ・コイ』は12月7日より、テアトル新宿ほかにて全国公開
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