確かな演技力で、映画や舞台、ドラマなど数多くの作品に出演しキャリアを積んできた俳優・池松壮亮。そんな彼が「迷いなく出演したいと思った」という作品が、演劇ユニット「ポツドール」主宰の劇作家・三浦大輔が自らメガホンを撮った映画『愛の渦』だ。
ごく普通の男女8人が、六本木のマンションの一室に集まり、乱交パーティーに明け暮れる姿を繊細かつ大胆に描いた本作で、ニートの主人公を演じた池松に、作品の見どころや込めたメッセージなどを聞いた。

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 都会の一室に集まった男女が、理性という仮面を被りつつも、欲望に抗えず乱交にふける……。本編123分のうち着衣しているのがたった18分、R18+指定という外枠からも、作品の過激さが想像できるが、池松は「エロいというのは入口だけで、描いているのは人間。やっていることは他の映画と変わらないんですよ」と好奇心のみで作品を語ることへ警鐘を鳴らす。「人間を裸にして集めるというアプローチ方法をとるだけで、人間性、動物性、男と女、社会性、日本人的なもの……色々なものがタイトルのように渦巻いていくんです」と池松は作品に詰まった魅力を語る。

 そんな作品の指揮をとったのが舞台作家の三浦監督だ。劇中のほとんどが、マンションの一室で行われる会話とセックスというシチュエーション。「クランクイン前に三浦監督の舞台を何本か鑑賞して、間が独特でリズムがあるなって感じたんです。でも、現場に入ったら自分が思っていた以上に『もっと間をとって』って言われて……。監督は舞台で、リアリズムを追求する人だという印象があったんです。それは映像だとなおさらで、嘘は嫌いますし、作り物を超える瞬間を狙っていたんだろうと思います。そこが面白かったです」と感想を述べた池松。
出来上がった作品ついて「三浦監督特有の息詰まる空気感が表現されている」と満足そうに語った。

 人間誰しもが持つ欲望。しかしその表現方法は全く違う。新井浩文演じるフリーターの男は、ためらいもなく“性”を解き放ち、池松扮するニートの青年は、感情や欲望を極限まで抑え込むような振る舞いをする。では実際の池松はどんなタイプなのだろうか?「僕は普通だと思います。この作品に出てくるメンバーはみんな極端なので……。名誉のために言っておきますが、僕は誰にも似てません(笑)」。ただ集団の中では「あまり自分を出さず、いったん引くかもしれませんね。人の様子を見る癖はあります」と冷静に自らを分析した。 約2週間、ほぼ同一の場所での撮影。池松の言葉を借りると「きついシーン」も多々あったという。「控室もないような場所なので、撮影中も合間も共演者とはずっと一緒にいる感じでした。
しかもバスタオル1枚といった感じで(笑)。でも裸の付き合いという言葉ではないですが、変な一体感はありました。信頼し合っていないとできないシーンもあったので……。ネジが外れて、麻痺していたのかもしれませんね。普段さらけ出さないようなことも話をしたような気がします」。そんな状況について「人前で脱いで(演技を)するわけですから、大変じゃないと言ったら嘘ですけれど、スポーツをやっているような感覚でしたね」と独特の表現で撮影を振り返った。

 池松のパートナーとなる門脇麦は、メインとして映画に出演するのは、ほぼ初めてという状況下にも関わらず、かなりきわどいシーンにも果敢に挑んだ。「あえて距離を詰めるようなことはしませんでしたが、コミュニケーションはとっていました。彼女はすごく色々なものを両極端に持っている子で、強さや弱さ、信じているものと信じていないものが混在している感じ。とても人間ぽいなって印象を受けました」と共演の感想を語った池松。さらに「相当勇気があるし、とてもクレバー。素晴らしい女優さんだと思いました」と門脇をたたえた。


 「エロい意味ではなく、人間の肌ってスクリーンを豊かにしてくれるんですよね」とつぶやいた池松。画面を通して、息が詰まるような緊張感が伝わってくる本作だが、確かに人肌の醸し出す温かさが、張り詰めた空気を緩和してくれているように感じる。その緊張と緩和のバランスが一気に崩れるのが、マンションを出たあとの池松と門脇が対峙するラストシーン。「この物語を通じて、心と体を切り離すことって出来るのかという問題をつきつけられたんですけど、結局答えは出ない。そんなラストがすごくいいんですよね。台本を読んでショックを受けましたけど……(笑)」。心にピリッとした痛みが走るラストにも注目だ。(取材・文・写真:才谷りょう)。

 映画『愛の渦』は3月1日よりテアトル新宿ほかにて公開。
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