荒川弘の大人気漫画を映画化した話題作『銀の匙 Silver Spoon』で、Sexy Zoneの中島健人演じる八軒勇吾の同級生“御影アキ”役に抜てきされた広瀬アリス。オーディションに受かった瞬間、その責任の重さから「プレッシャーで押し潰されそうだった」と語る彼女は、いかにしてその重圧をはねのけ、御影アキというヒロインを演じ切ったのか。
ファッション雑誌「Seventeen」(集英社)の専属モデルを務めながら女優業にも意欲を見せる広瀬の、映画に懸ける“本気度”を探ってみた。

【関連】色々なポーズや表情を見せてくれた、広瀬アリス インタビューフォトギャラリー

 本作は、「週刊少年サンデー」(小学館)で連載中の同名漫画を、『麦子さんと』『純喫茶磯辺』などの俊英・吉田恵輔監督が映画化した異色の青春ドラマ。偏差値教育に挫折した都会の高校生・八軒勇吾(中島)が北海道の農業高校に自ら飛び込み、厳しい酪農実習や部活動を通して成長していくさまをリアルかつコミカルに描く。

 広瀬が演じる御影アキは、都会から逃げるようにやって来た主人公・八軒を広い心で受け止める酪農女子。乗馬とばんえい競馬に夢中の活発な女子高生だ。多くの人々に愛される人気ヒロインに抜てきされた広瀬は、「わたし自身、原作の大ファンなので、オーディションに受かったと聞いた時は正直戸惑いました。わたしがアキを演じることに『え?』と思う方はたくさんいると思う。それはわたしが一番よくわかっていること。だから、最初はプレッシャーに押し潰されそうだった」と胸中を告白。追い込まれた広瀬は、「これはもう120%の力を出さなきゃダメだなって。自分がどれだけアキに近づけるか、勝負するしかない」と決意を固める。

 そして、クランクイン前に行われた強化合宿で、さらにその思いは強まった。
「北海道の帯広で約1ヵ月間、みんなで合宿をしたんですが、朝4時に起きて酪農の実習をしたり、乗馬やばんえい競馬の練習をしたり、アキの世界にどっぷり浸っていたら、いつの間にか(役のためにバッサリ切った)ショートヘアもツナギの服も馴染んできて。モデルや女優のわたしじゃなくて『酪農女子』に少しは近づけたかな?」と手応えを感じたという。 また、スタッフや共演者に恵まれたことも、リラックスして役に取り組めた要因の一つだと広瀬は語る。吉田監督については、「映画を観ていただければわかるのですが、あのフワッとした柔らかい感じは、まさに監督の世界観。撮影中もジョークを飛ばして現場を和ませてくれたので、自然体でカメラの前に立つことができました。こんなに素の自分をさらけ出した現場は初めて」と手放しで絶賛する。ほぼ同世代の共演者についても、「映画の雰囲気そのままにみんな和気あいあいとしていて楽しかった。わたしの学生時代は仕事がメインだったので、こういう高校生活にずっと憧れていた」と目を細める。 
 
 広瀬の演技に対する真摯な姿勢は、代役なしで乗り切った体当たりのアクションシーンにも現れている。例えば乗馬。「合宿へ入る前に3ヵ月間、個別で特訓を受けました。練習中、馬が止まらなくなってパニックになったこともありましたが、障害物を飛ぶシーンはほぼ一発OKだったのでぜひ観てほしい!」と自信のコメント。
クライマックスのばんえい競馬に関しても、「ばんえい馬を初めて見た時は怪獣みたいに大きくてビックリしました。1トンもある巨体にソリを付けてわたしが操るなんて絶対無理だって思ったんですが、ライバル役の黒木(華)さんと2人で空き時間にずっと練習して、気が付いたらジョッキーばりにムチでバシバシたたいていましたね(笑)」。

 御影アキを少しずつ自分の中に引き寄せながら、作品にのめり込んでいった広瀬。スクリーンに映るその佇まいは、まさに酪農女子そのもの。「この映画は酪農のキレイなところばかりじゃなく、経済動物のあり方や牧場経営の難しさなどもしっかりと描いている。だから、酪農とは無縁の方も、大人の方にもぜひ劇場に足を運んで観ていただきたい。泥臭くったって、キラキラ輝いている青春映画もあるんだ!ってことをアピールしたいですね」。クリクリッとした大きな瞳を輝かせながら、広瀬は本作へのあふれんばかりの愛を言葉に乗せた。(取材・文・写真:坂田正樹)

 映画『銀の匙 Silver Spoon』は3月7日より全国東宝系にて公開。
編集部おすすめ