今春から年末にかけて公開される日本映画で、名前をよく見かける若手俳優がいる。その俳優とは、染谷将太(21歳)と池松壮亮(23歳)。
子役からキャリアをスタートさせ、着実にキャリアを積んでいるふたりだが、近年、特に話題をさらっているように感じる。このふたりにオファーが絶えないのは、なにか理由がありそうだ。

【関連】染谷将太と池松壮亮が出演した話題作を写真で見る

 ひょうひょうとしていながらも存在感があり、狂気をはらんだ役どころをことなく演じてしまう染谷将太と、素直で明るい印象を受ける好青年にも繊細で複雑な役柄にもハマる池松壮亮。監督の意図するキャラクターに染まりながらも、自分らしさを役にプラスすることができる俳優である。

 染谷は9歳のときに、映画『STACY』でスクリーンデビュー。冨永昌敬監督の『パンドラの匣』(09)で長編映画初出演を飾って以来、さまざまな作品に出演。2011年には園子温監督作品『ヒミズ』で、共演した二階堂ふみと共にヴェネツィア国際映画祭の最優秀新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。日本人としては初の快挙を遂げた。俳優として活躍するだけでなく昨年には、全編16ミリフィルムで撮影した自主映画『シミラー バット ディファレント』の監督・脚本・出演。本作のような自主映画を撮るスタンスは、今後も続けるとインタビューで話している。

 5月24日(土)より公開予定の染谷出演作『正しく忘れる』も井上真行監督が自主映画からスタートした作品だ。母親が苦しみながら病死したことに囚われ、社会にうまく順応できない青年という役どころ。
出演のきっかけを「おもしろい役者がいると知り合いから紹介されたのが染谷くんでした。彼とふたりで話したときに出演を快諾してくれた。僕のことをおもしろがってくれたのかもしれない」と教えてくれたのは井上監督。役者としての染谷の印象を「演技に対してすごく真面目。例えば、台詞の中で彼の演じる役を一人称で呼ぶときに“僕”と“オレ”とで表現を分けていたんです。それを統一しなくてもいいのかと相談された。台詞を細かくチェックして、その意図を読み取ろうとする姿勢が印象に残っています。僕が意図している役柄をすべて汲み取って、イメージ以上のものを見せてくれる。演出するのが楽しかったです」。 一方、池松は10歳のときにミュージカル『ライオンキング』で俳優デビュー。ハリウッド映画『ラスト サムライ』(03)で映画初出演を飾り、第30回サターン賞の若手俳優賞にノミネート。以降、さまざまなテレビドラマや映画に出演。
大学を卒業した昨年は「勝負の年」(ピクトアップ87号インタビューより)と自ら位置づけ、意欲的に多彩なジャンルの作品に出演。松居大悟監督が描いた青春群像劇『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13)では、トレーラーハウスで生活する謎の青年・リクオを、とある乱交パーティの一夜の人間模様を描いた三浦大輔監督作『愛の渦』(14)では、ニート役に扮し、新たな一面を披露している。

 池松の出演作である『ぼくたちの家族』(5月24日公開)を手がけた石井裕也監督曰く「原作を読んで兄弟役はすぐ妻夫木聡さんと池松くんと同時に浮かびました。池松さんは妻夫木さんと同じにおいがします」と話す。さらに「池松くんは、企画がスタートした時点ではまだ”少年”でした。この映画で、大人の男になる瞬間が撮れるかもしれない」と直感的に思ったとか。劇中では、要領よく世の中を渡っているように見えて繊細な一面を併せ持つ役どころ。あどけない印象を受ける青年から大人になっていく姿を見事に表現している。

 着実にキャリアを歩んでいるふたりだが、近年、特に注目を集めるようになった理由を「メジャーからインディペンデントまで、様々な作品でその実力を目にした方がファンとなり、役者としての注目度が上がっているのではないか」と映画・映像カルチャー誌『ピクトアップ』の浅川達也編集長は分析する。

 役者としてのタイプは異なるが、「二人とも主演から助演まで、その映画における役割をきっちり演じるという意味で、突出したプロフェッショナルだと思います。出演作のジャンルも、シリアスな作品からコメディに至るまで幅広いですが、ミスキャストだったと感じたことはない」という共通点も見出せる。

 「ある特定の役柄のイメージがついていない新鮮みと、前述の確かな演技力が、制作サイドに起用してみたいと思わせる俳優」と浅川編集長が話すように、年末まで出演作が目白押し。


 染谷は、矢口史靖監督作『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』(5月10日公開)、たむらまさき監督作『ドライブイン蒲生』(7月公開)、園子温監督作『TOKYO TRIBE』(8月30日公開)、山崎貴監督作『寄生獣 PART1』(12月公開)、に出演。池松は、木村大作監督作『春を背負って』(6月14日公開)、前田弘二監督作『わたしのハワイの歩きかた』(6月14日公開)、安藤尋監督作『海を感じる時』(9月13日公開)、石井裕也監督作『バンクーバーの朝日』(12月公開)など、メジャー作品から作家性の強い監督作品までさまざま。今後も当分、日本映画界が放って置かないことは間違いないだろう。(取材・文:小竹亜紀)
編集部おすすめ