豚汁、赤いウインナー、豚の生姜焼き…『深夜食堂』に登場する料理は、1度は食したことがあるような家庭料理ながら、とにかく美味しそう。湯気が立ち上ぼる料理と、それを幸せそうに食べる俳優に、毎回生唾ごくりの連続。
そんな食べたくてたまらなくなる品々を手がけるのが、人気フードスタイリスト飯島奈美。現場での裏話のほか、食や仕事に対する思いを伺った。

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 2009年のシリーズ1作目の際に飯島を呼んだのは、監督の松岡錠司。「監督とは、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で声をかけて頂き、『深夜食堂』にも参加することになったんですが、実は食品会社のCMでご一緒していたので、もっと付き合いは長いんですよ」。そのため、現場ではあうんの呼吸。監督との打ち合わせはそこそこに、任せてもらうことがほとんどだそうだ。

 「任せてもらっている以上、美味しそうに見える料理ではなく、美味しい料理を出したいんです。とはいえ、深夜枠のドラマゆえ、予算が少なかった。調味料とかを含め、厳しかったですね。基本は制作費内におさめつつも、あまりに厳しいときは、自分の財布からお金を出して食材等を購入することもありました」と現場を振り返る飯島。

 映像業界では“キエモノ”と呼ばれる、劇中の料理の数々。油を塗ってツヤを出したり、時間が経って硬くなっていてもそのまま使ったり等、“美味しい”から程遠い料理が多いなか、なぜ自腹を切ってまで作るのだろうか。


 「どうせなら、美味しいものを食べてもらいたいんです。それに、スタッフの方々が、撮影が終わったら食べたいと言ってくださる。そうなると、美味しそうに見えるからと、油は塗れません(笑)。だから、油を塗るのではなく、普通の調理でかける段階の煮汁でツヤを出だしたりと、ちょっとした工夫を施しています」。 “美味しく食べてもらえる料理を作る”が、飯島流。そんな飯島は、専門学校を卒業し、フードスタイリストの先生のアシスタントにつくこと7年。1998年に独立してからはCM中心に活動、2006年の『かもめ食堂』で初めて映画に参加した。

 「やはり、転機となったのは『かもめ食堂』です。でも、考えてみると、独立してすぐにお話を頂いたPascoのCMを受けられたというのが大きいですね。そこにスケジュールが入っていて、断っていたとしたら、以降、15年以上になるPascoのCMは別の人に声がかかり、すべてが変わっていたはずです」。

 そのような経験から、「どのような仕事も極力受けたいのですが、文字とか映像で、みんなが目にするものに出ていると、忙しそうとか、やってもらえないと思われるようで…。何でもやります!と、声を大にしたい(笑)」と語る飯島だが、その上で意外な人物を目標にしていると告白。


 「だから、私はダチョウ倶楽部の上島竜平さんを目指しているんです。キャリアはあって、大御所然としてもよさそうなのに、気軽に声がかけられそうな感じじゃないですか。自分も大御所然とならないようにしなくてはと、上島さんを見るたびに思います」。

 最後に、今後について聞くと、「今の裏方の仕事を続けながら、地方の食文化を習ったり、たくさんの人に伝えていきたい。そうそう、食堂をやるのもいいですよね。いいと思った食材を使った、予約制のふつうのごはんのお店とか。あと、色々な国へ美味しいものを食べに行きたい」と、食を軸に、飯島奈美の夢は膨らむ。これからのさらなる活躍も楽しみだ。(文:安保有希子)

 BIG COMICS SPECIAL「深夜食堂の料理帖」(著:飯島奈美/漫画:安倍夜郎)は現在好評発売中。価格は907円(税別)。
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