すでに多数の人気作を生み出し、注目を集めているライトノベルレーベル「ダッシュエックス文庫」。そんなライトノベルの華といえば、美麗なイラストだろう。
イラストのテイストひとつで小説の印象はがらりと変わるため、とても重要な要素だ。絵師は、どのようにして選ばれるのだろうか。

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 絵師を選ぶタイミングは様々だ。作品の本文が仕上がってから選ぶ場合もあれば、同時進行で探す場合もある。いずれにしても重要なのは、原作者のイメージをどれだけ忠実にイラスト化できるかということ。

 同レーベルの人気作『文句の付けようがないラブコメ』の場合は、作者の鈴木大輔氏が知人のつてをたどり、肋兵器氏に白羽の矢を立てた。
理由のひとつは、『文句の付けようがないラブコメ』の世界観を表現するために必要な繊細なタッチだったこと。そして、肋兵器氏が漫画家だったことだ。イラストレーターの中には漫画は描けないという人も多く、コミカライズの際にはまた別の漫画家を探すことになるが、鈴木氏はイラストとコミカライズを同じ人にやってほしかったのだという。最初から『文句の付けようがないラブコメ』の漫画化を考えていた鈴木氏にとって、肋兵器氏はまさに理想的なパートナーだったというわけだ。

 一方で、「肋兵器さんには『絵柄をもっとメジャーにしてほしい』という難しい要求をしました」と鈴木氏。これに肋兵器氏も見事に応え、『文句の付けようがないラブコメ』のイラストが完成した。


 また、鈴木氏のビジュアルに対するこだわりは表紙デザインにも表れている。肋兵器氏のタッチを活かし、余白を使ったレイアウトを提案。結果、「ライトノベルっぽく見えない」表紙が出来上がったのだった。 『英雄教室』の作者・新木伸氏もまた、イラストには強いこだわりを持つ作家だ。特に同作品はキャラクター小説であり、ファンタジー小説であり、武器や鎧などの複雑なデザインをこなせることが絶対条件だった。さらに表紙には、最近のライトノベルでは珍しく、しっかりとした背景を入れたいという要望もあった。


 これらを満たせる絵師を担当編集と一緒に探した結果、見つかったのが『とある飛空士への追憶』(ガガガ文庫)などで知られる森沢晴行氏だった。人気・実力ともに兼ね備えた森沢氏は、まさにうってつけの人材。

 「森沢さんに描いていただけるなら、最高だなと思いました。キャラクターについては、だいたいのイメージを伝えたくらいで、あとはお任せしてバッチリでしたね」(新木氏)

 『英雄教室』の2巻では、緑の芝生で膝枕してもらっている主人公・ブレイドと、3人のヒロインの一人、ソフィが描かれている。この表紙が森沢氏から上がってきたとき、新木氏はイメージ通りだったことに驚き、「勝った!」と思ったという。

 原作者の意向はもちろん、スケジュールを押さえることができるのかということも含め、イラストレーター探しは難航することも多い。
しかし、『文句の付けようがないラブコメ』『英雄教室』の話からもわかるように、優れたライトノベルには優れた絵師が必要だ。ぴったりの絵師が見つかるかどうか。それには人脈や縁はもちろん、時の運も絡んでくるのである。(取材・文:山田井ユウキ)

 『文句の付けようがないラブコメ』1巻、2巻、3巻、および『英雄教室』1巻、2巻は好評発売中。