人気ロックバンド「RADWIMPS」のボーカル&ギターの野田洋次郎が、映画『トイレのピエタ』で俳優初挑戦にして主演を務めた。これまで音楽活動に専念してきた野田が“演じる”という表現方法に突き動かされた理由はなんだったのだろうか。
彼の人生観や音楽への想いを聞くうちに、本作出演への強い意志が垣間見えてきた。

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 野田演じる宏は、周囲から絵の才能を認められつつも、画家への夢が破れ、頑なに絵を描くことを拒み続けている青年。そして余命3ヵ月と宣告される。「脚本を読んだ時点で、宏のひん曲がったところと真っ直ぐな部分、人に伝わりにくい人間臭い性格に共感しました。日常って、基本残酷だし、僕にはすごくリアリティーを感じる話でしたね」。

 すぐに宏という人間に感情移入したという野田。しかし、決断するまでには葛藤があった。「本が良いというだけで、俳優をやるという理由にはならなかったです。一番惹かれのは、(松永大司)監督の人柄。この本を書いた人はどんな人か知りたいと思ったのがきっかけ。そこから何度も監督とはやり取りをしました。それは僕の中で、始まってから言い訳をしないための確認でもあったんだと思います」。


 時間をかけて築いた信頼関係。さらにもう一つ「RADWIMPS」としてのキャリアも野田を突き動かした。「バンドがちょうど10年を迎える頃だったんです。僕の中では、すごく自信をもって音楽をやれている時期だった。だから直感的に“違うことをやってみよう”って勇気が持てたんです。今考えても、何で決断できたかは説明できませんが、そういう直感を信じるタイプなので」。

 出演すると決めてから迷いはなかった。松永監督と、約1年かけて宏という存在を、作り込むのではなく、育てていった。周囲にアドバイスを受けることもあえてしなかった。「相談することは考えました。でも、付け焼刃の技術を磨いたところで意味はないし、監督もそんなことを僕に求めていないと思った。だから、誰よりも宏という人間を理解しようということを心がけました」。
 先の発言で「基本、日常は残酷」と呟いた野田。大切なものが、時には残酷に自分を傷つけることがある。「僕も音楽が大嫌いになるし、自分の身を守ってくれたり愛してくれるものが、自分の心を削ることって、誰にでもあると思う」。しかし、そのことこそが、なくてはならない感情だと野田は力説する。

 「嫌いになったり憎んだりしたことがないものって、本当は好きじゃないんだと思う。例えば、喧嘩をしないカップルって僕は信じられない。お互いの中にある大事なものを分かって欲しいと思ってぶつかる。喧嘩ってネガティブなエネルギーじゃなく、次に向かうステップだと思うんです。憎めば憎むほど、愛しているんだなって逆説的に捉えてしまうんです」。

 劇中、宏は、杉咲花演じる真衣と出会い、自分がすべきことに気づく。10歳以上年の離れた男女。松永監督は瑞々しく二人を描き切った。
「ある側面では恋愛関係、ある側面では同士。間違いなく言えることは、お互い“たった一つ”に出会えた感覚。人ってそういう存在を求めるのだろうし、僕は求めていたい」と野田は二人の関係に強く共感する。

 本作を経験した野田は、松永監督が作り上げた世界観に「表現として素晴らしいし、監督にはジェラシーを感じました。もっと自分も頑張ろうってね」とライバル心をたぎらせる。一方で、野田と共演したいと集まった大竹しのぶや宮沢りえといった俳優たちには「日本で指折りの役者さんたちの演技を目の前で見て、その人たちが世界を作ってくれる。幸せな経験でした」と脱帽していた。(取材・文・写真:磯部正和)

 映画『トイレのピエタ』は6月6日より公開。
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