「声を掛けていただけて光栄でした」と俳優・竹野内豊がしみじみとつぶやいた主演映画『人生の約束』が公開を迎える。メガホンをとったのはテレビドラマ界の巨匠・石橋冠。
『池中玄太80キロ』シリーズなど、数々の名作ドラマを世に送り出してきた石橋監督だが、劇場映画を手掛けるのは初。御年79歳でのチャレンジ。竹野内は石橋監督の背中からどんなことを感じ取ったのだろうか。また名優たちとの共演で何を得たのだろうか……。

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 竹野内をはじめ、江口洋介、西田敏行、柄本明、ビートたけし、室井滋、美保純……。豪華キャストの味のある演技が次々とスクリーンに映し出される。出演のオファーを受けたときには「なぜ私に声を掛けていただけたのだろう」と率直に思ったという。同時に「よほどのチャンスがなければご一緒する縁がない方なので、すごく嬉しかったです」と笑顔を見せる。

 竹野内は、事業で成功したものの、ある事件から全てを失いどん底をさまよう男・中原祐馬を演じる。そんな中、親友・塩谷航平との約束を果たそうとやって来た富山県・新湊で全く価値観の違う人々と出会い、再生していく。劇中、江口演じる航平の義兄・鉄也とは激しく対峙する。これまで数多くの作品に出演してきた2人だが、意外にも江口とは初共演だ。


 「自分がかけ出しの頃、すでに江口さんは全盛で、一緒に仕事をさせて頂けることが信じられない気持ちでした」と感想を述べるが「対立する役だったので、撮影の序盤は挨拶するぐらいで、お互い距離をとっていました」と振り返る。しかし「撮影から10日ぐらいたって、江口さんから釣りに誘っていただいたり、飲みに行ったりして、急激に距離が縮まりました。物語と同じような関係性でした」と作品にもうまく反映できたことを明かす。

 仲が深まっていくと、2人は互いに相手に対して「頑固者」というイメージを抱いたという。一方で「江口さんは熱くて一生懸命でストイックな方と聞いていた。でも実際ご一緒すると、懐が深く柔軟性がある。色々と勉強させていただきました」と先輩の立ち振る舞いに脱帽する。また江口のみならず、多くの俳優からも刺激を受けた。「西田さんと柄本さんって対極の演技。アプローチ方法が全く違う。目の前で見ていると勉強になったし、(ビート)たけしさんはたった一言の中に、色々な意味を込められる方。本当に凄いです」。
 劇中「人生の踊り場」という表現が出てくる。竹野内や江口らの世代への問題定義だ。これまでの人生を振り返り、さらなるステージへ駆け上るのか、現状を継続するのか、はたまた引き返すのか……。「冠さんとご一緒して感じたのは、冠さんは、これまでの人生を振り返る時間ってあったのかなって思ったんです。それだけエネルギッシュで、どんどん吸収して階段を上り続けている。僕も40半ばを迎え年を取ったとか言っていられない。『踊り場に立って後ろを振り返っている時間があったら、一段でも上にいけ』って激励されている感じです」と自身を鼓舞する。

 石橋監督の姿を見て、突き進む大切さを痛感した一方で、「これまでの俳優人生、立ち止まったことはいっぱいありますよ」と語った竹野内。「20年、30年たっても見えてくるものってないと思う。正しい答えがないのが俳優の世界。若い頃はがむしゃらにやっていた部分もありますが、今はちゃんと情熱を注いで、そこにしっかりと心が持てるかが大切。一つ一つ丁寧にやっていきたいですね」と小休止して今後を見据える必要性にも触れる。


 「冠さんに“つながる”ということの意味を聞いたら『つながってみないと分からない。でも必ずいい作品にするから』と仰ったんです。目に見えないものを信じて、歩んでいった先に何が見えるのか……。冠さんの物作りの信念が詰まっています」と力強く作品をアピールしてくれた。(取材・文・写真:磯部正和)

 映画『人生の約束』は2016年1月9日より全国公開。
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