『攻殻機動隊』シリーズをハリウッドが実写化した『ゴースト・イン・ザ・シェル』。スカーレット・ヨハンソンふんする少佐が率いる「公安9課」の隊員バトー役を務めたのは、デンマーク出身のピルー・アスベックだ。
自身もシリーズの大ファンで、「漫画とアニメがあまりにも素晴らしいから、そのクオリティの10パーセントを再現できれば…」と明かすピルーに、役作りやキャラクターの関係性について話を聞いた。

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 撮影当時の心境について、「漫画とアニメがあまりにも素晴らしいから、そのクオリティの10パーセントを再現できれば、良い映画になるだろうと僕らは信じていたんだ」と振り返るピルー。バトーの役作りでは「入り口」が見つからず、大いに悩んだという。そんな時に助けになったのは、作家である妻のアドバイスだった。「妻から『漫画を読んだら?そっちが先なんでしょ?』と言われたんだ。そうして読んでみると、僕が演じたいバトーがそこにいた。アニメ版よりもリアルで、正直な存在だったね」。

 精神的な面での役作りは乗り越えたピルーだが、現場では新たな壁に直面することとなった。バトーにとってのアイコンである、義眼を装着しての演技である。「限定された視野しかないから、スタントをしていても、車に正面衝突したり、相手との距離感を図り切れずに思いっきり殴ってしまったり。そんなことがたくさんあって、すごく大変だったよ(笑)」。

 バトーに関しては、彼が抱える孤独に少佐との繋がりを感じたという。
「『イノセンス』を見ればわかるけど、彼は自分の家に17個もの鍵をかけているんだ。あのシーンからは、彼が世界に落胆させられたこと、世界が好きではないこと、そしてユーモアも含めてドライな態度で世界と距離を置いていることがわかる。バトーはそういった孤独を抱えていて、犬しか愛する者がおらず、自分だけを守るように生きているけれど、少佐にも同じようなものがあると思うんだ。だから2人の間には繋がりがある」と分析。 「少佐のためなら、バトーは死ねると思う」とも考えを明かすピルーだが、二人の関係性は結ばれないからこそ魅力的だと考えているようだ。「全ての素晴らしいラブストーリーがそうであるように、成就しないとどこかで分かっているからこそ、彼は少佐の守護者、あるいは長兄になることを決めるんだよ」。

 ちなみに、漫画版でお気に入りのシーンは、バトーの少年らしさが垣間見えた一場面だという。「少佐が女性と電子機器を使ってセックスをするシーンがある。そこに偶然居合わせてしまったバトーが恥ずかしがる姿を見た時に、すごく良いな、人間らしいなと思ったんだ」。

 そんなピルーは、娘とともにスタジオジブリの大ファン。デンマークにおけるハロウィンで、『もののけ姫』のヒロインであるサンのコスプレに身を包んだ娘の写真を嬉しそうに見せながら「僕は宮崎駿さんが大好きなんだ!」と語る彼は、他国の幼い少女がそれほどまでに魅了される名作に敬意を払うことを惜しまない。「1997年に作られた作品であるにもかかわらず、他国の4歳の女の子にこれほど愛されているのは、ストーリーと日本文化の力のおかげだと思うよ」。


 劇中で見せたクールな表情とは似ても似つかない、子供のように無邪気な笑顔を浮かべながら、楽しそうに映画やアニメについて語るその姿からは、文化芸術への深い愛がひしひしと伝わってくる。そういった愛が根底にあるからこそ、彼が本作で演じたバトーは、原作ファンのみならず、見る者の胸を打つキャラクターとして成立しているのだろう。(取材・文・写真:岸豊)

 『ゴースト・イン・ザ・シェル』は4月7日より全国公開。
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