俳優の岡田准一が、不器用でひたすら正義を信じる“新しい”石田三成像を演じ、大ヒットを記録した映画『関ヶ原』。司馬遼太郎の大ベストセラーを基にメガホンを取った原田眞人監督(以下、監督)と、編集を務めた原田遊人(以下、遊人)の親子対談が実現。
【写真】役所広司、有村架純、東出昌大ら豪華キャスト共演! 映画『関ヶ原』場面写真
■念願の『関ヶ原』を完成させたという達成感
――2月7日から、いよいよブルーレイ&DVDがリリースされますが、改めて本作ご覧になって、どんな思いがこみ上げてきましたか?
監督:これだけの大作を、決められたバジェットの中で、しかもほぼスケジュール通りによく完成させることができたなと思いますね。観れば観るほど達成感が湧いてきます。
遊人:普通は自分が編集を担当した映画を観たら、「ここをやり直したい」という箇所が必ず出てくるんですが、この作品に関しては全く思わなかったですね。これまでで一番編集期間が長かったし、カット数も多かったので、編集作業は大変でしたが、私もやりきったというのが正直な感想です。
――「関ヶ原の戦い」を真正面から描いた作品は、本作が初めてだと思いますが、今、このタイミングで撮ろうと思ったのはなぜですか?
監督:『日本のいちばん長い日』や『駆込み女と駆出し男』などの作品を撮ることによって築き上げた信用というものもあって、やっと僕に任せてもらえるようになったということでしょうね。それとやはり、岡田准一という、僕が描きたかった石田三成を演じられる稀有な役者が現れたこと。全てのタイミングが合ったことが大きいと思います。
――以前から「関ヶ原の戦い」の映画化にご興味があったそうですが、主人公を誰にするか、かなり迷われていたと伺いました。
監督:若い頃は三成が理解できなかったんです。大将でありながら、戦いが続いている最中に彼は戦線離脱するわけですが、「結局は逃亡したんじゃないか」と。そういった意味では、豪傑な島左近(三成の家臣)に強く惹かれる部分はありましたね。
――本作に対する監督の熱い思いを受けて、遊人さんも気合いが入ったのではないでしょうか。
遊人:どんな作品でも熱い思いは一緒ですが、ただ、編集技師のポイントからすると、この作品が完成できたのは、機材の進歩も大きかったなと思いますね。原田作品で初めてドローンを導入しましたし、今まで撮ろうと思っても撮れなかったものが、徐々に実現できる状態に近づいてはきていますね。フィルム時代だったらここまでは撮れなかったと思います。
監督:確かにテクノロジーの進化がなければ撮れなかったでしょうね。例えば、東本願寺など、歴史的な建造物の中で火は使えないわけだから、ローソクの火はほとんどCGでしたし、そういった技術がないと、あれも消せない、これも消せない、アングルも限定されてしまったりする。カツラだってそう。浮いてしまっても、あとで消すこともできるし。まぁ、本当は全員が中剃り(まげを結いやすいように頭頂部あたりを円形に剃ること)してくれればいいんですが、なかなかそれが難しいので。
遊人:僕は剃りましたよ(俳優として柏木源藤役で出演)。役者としてやれることは全てやっておきたいなと思って。ただ、実生活に支障が出ました。帽子をかぶって電車に乗ったとき、ちょっと暑くなってきたので帽子を取ったら、周りの視線が一斉に集まっちゃって。ヒゲも伸ばしていたので、かなり怪しい風貌だったと思います(笑)。
――遊人さんは、俳優として活躍されながら、編集マンとしても才能を発揮されていますが、親子で作業をするというのはどんな感じなのでしょう。
遊人:監督の場合、凄くせっかちなので、「あそこのあのシーンが欲しい」って言われたときに、すぐに出せるようにしておかなきゃいけないんです。だから、なるべく現場に足を運んで、話を聞いて、シーンをよく観ておく、ということを日頃から実践しています。とくに『関ヶ原』は、カット数が物凄く多かったので、「これは、毎日現場に行かないとダメだ」と思って張り付いていたら、途中から無線レシーバーを渡されて、助監督をやるハメになりました(笑)。でも、それが後々の編集にすごく役に立ちました。
――原田監督の目から見て、遊人さんの編集マンとしての働きぶりはいかがですか?
監督:僕のクセを全て承知しているから、これ以上、やりやすい編集マンはいないです。仕事がとにかく早いのがいい。
――先程、「関ヶ原の戦い」を映画化しようと思ったキッカケに、岡田さんの存在を挙げていました。彼の素晴らしいところはどんな点でしょう。
監督:やはり、体力の面でも、集中力の面でも、ちょっと類がないくらい俳優として素晴らしい。歴史小説が好きだということもあるでしょうが、台本をきちんと読み込んでいるし、その時代を「生きる」ということが自然とできている。
遊人:作り手側の意識を持っているのかな?と思うときもありますね。次はどっちから撮るのか、アングルはどうなのかを常に考えている。原田組は、だいたい2台のカメラで「ワイド」と「寄り」で分けているんですが、岡田さんがサーッと立って、「今、サイズってこれくらいですか?」って聞いてきたときに、ぴったりフレームにはまっていたんです。うわぁ、凄いなぁと思って、ゾワっときましたね(笑)。役者って結構、自分のことでいっぱいになるものなんですが、岡田さんは、カメラの向こう側まで考えられる余裕がある。
監督:プロ中のプロだよね。
遊人:そうですね、あの年代の俳優の中では随一かなと思います。
――フィジカルな面もキレがあって素晴らしいですよね。
監督:馬の乗り方は天下一品です。あそこまで馬術を習得した俳優って日本にいないと思いますね。若い頃からの地道な積み重ねだと思います。本当にストイックな役者で、全てが本物でありたいといった意識を常に持っているところが凄い。鎧なんかも、自分で付けられるくらいの感じがありますからね。あとは、魅せるためならはこう、本物だったらこう、とか、とにかく引き出しが多い。
遊人:一緒に食事に行った時に、「オフは何をしてるんですか?」って聞いたら、トレーニングって言っていましたからね。
――最後に、Blu‐ray&DVDのリリースを待ち焦がれているファンにメッセージをお願いします。
監督:メイキングやコメンタリーなど、特典映像が豊富なのがいいですよね。とくにこの作品は、何度観ても、いろんな発見があるから楽しめる。例えば、衣装だけで観ていくのもいいし、音楽を中心に聴いてもいいし、いろんな比喩、暗喩があるので、そこをひも解いて行くのも面白いと思いますね。
遊人:とにかく、この作品は、観れば観るほど、味が出る。初見でわからなかったことが、2回、3回、観るうちに「あ、こういうことだったのか!」という発見がいろいろ出てくると思います。監督は、観る人を試すようなところもあって「これ、気付くかな?」みたいな要素が含まれているので、そこを汲み取っていただけるとさらに面白いと思います。
映画『関ヶ原』のBlu‐ray&DVDは2月7日発売。(取材・文:坂田正樹)
改めて本作を振り返り、映画化への経緯や撮影秘話、さらには2人が口を揃えて「同年代で随一の役者」と絶賛する岡田の魅力について熱く語っていただいた。
【写真】役所広司、有村架純、東出昌大ら豪華キャスト共演! 映画『関ヶ原』場面写真
■念願の『関ヶ原』を完成させたという達成感
――2月7日から、いよいよブルーレイ&DVDがリリースされますが、改めて本作ご覧になって、どんな思いがこみ上げてきましたか?
監督:これだけの大作を、決められたバジェットの中で、しかもほぼスケジュール通りによく完成させることができたなと思いますね。観れば観るほど達成感が湧いてきます。
遊人:普通は自分が編集を担当した映画を観たら、「ここをやり直したい」という箇所が必ず出てくるんですが、この作品に関しては全く思わなかったですね。これまでで一番編集期間が長かったし、カット数も多かったので、編集作業は大変でしたが、私もやりきったというのが正直な感想です。
――「関ヶ原の戦い」を真正面から描いた作品は、本作が初めてだと思いますが、今、このタイミングで撮ろうと思ったのはなぜですか?
監督:『日本のいちばん長い日』や『駆込み女と駆出し男』などの作品を撮ることによって築き上げた信用というものもあって、やっと僕に任せてもらえるようになったということでしょうね。それとやはり、岡田准一という、僕が描きたかった石田三成を演じられる稀有な役者が現れたこと。全てのタイミングが合ったことが大きいと思います。
――以前から「関ヶ原の戦い」の映画化にご興味があったそうですが、主人公を誰にするか、かなり迷われていたと伺いました。
監督:若い頃は三成が理解できなかったんです。大将でありながら、戦いが続いている最中に彼は戦線離脱するわけですが、「結局は逃亡したんじゃないか」と。そういった意味では、豪傑な島左近(三成の家臣)に強く惹かれる部分はありましたね。
それが、50歳を過ぎて、60歳を過ぎて、三成の中にある「理に叶う、理に叶わない」ということを深く考えていくうちに、あそこで討ち死にしなかったことは、全くブレてない、という風に思えるようになったんです。今、あまりにもブレている政治家が多く、利益に走る連中が多いので、そういう意味での三成の正義を求める心は新鮮だし、憧れもある。あとは、言わなくてもいいことをつい言っちゃって損をするとか、なんだか自分と似ているところがたくさんあるな、という思いも背中を押してくれたような気がします。
――本作に対する監督の熱い思いを受けて、遊人さんも気合いが入ったのではないでしょうか。
遊人:どんな作品でも熱い思いは一緒ですが、ただ、編集技師のポイントからすると、この作品が完成できたのは、機材の進歩も大きかったなと思いますね。原田作品で初めてドローンを導入しましたし、今まで撮ろうと思っても撮れなかったものが、徐々に実現できる状態に近づいてはきていますね。フィルム時代だったらここまでは撮れなかったと思います。
監督:確かにテクノロジーの進化がなければ撮れなかったでしょうね。例えば、東本願寺など、歴史的な建造物の中で火は使えないわけだから、ローソクの火はほとんどCGでしたし、そういった技術がないと、あれも消せない、これも消せない、アングルも限定されてしまったりする。カツラだってそう。浮いてしまっても、あとで消すこともできるし。まぁ、本当は全員が中剃り(まげを結いやすいように頭頂部あたりを円形に剃ること)してくれればいいんですが、なかなかそれが難しいので。
遊人:僕は剃りましたよ(俳優として柏木源藤役で出演)。役者としてやれることは全てやっておきたいなと思って。ただ、実生活に支障が出ました。帽子をかぶって電車に乗ったとき、ちょっと暑くなってきたので帽子を取ったら、周りの視線が一斉に集まっちゃって。ヒゲも伸ばしていたので、かなり怪しい風貌だったと思います(笑)。
――遊人さんは、俳優として活躍されながら、編集マンとしても才能を発揮されていますが、親子で作業をするというのはどんな感じなのでしょう。
遊人:監督の場合、凄くせっかちなので、「あそこのあのシーンが欲しい」って言われたときに、すぐに出せるようにしておかなきゃいけないんです。だから、なるべく現場に足を運んで、話を聞いて、シーンをよく観ておく、ということを日頃から実践しています。とくに『関ヶ原』は、カット数が物凄く多かったので、「これは、毎日現場に行かないとダメだ」と思って張り付いていたら、途中から無線レシーバーを渡されて、助監督をやるハメになりました(笑)。でも、それが後々の編集にすごく役に立ちました。
――原田監督の目から見て、遊人さんの編集マンとしての働きぶりはいかがですか?
監督:僕のクセを全て承知しているから、これ以上、やりやすい編集マンはいないです。仕事がとにかく早いのがいい。
編集マンは、とにかく速度が重要。あとは、僕が見落としているシーンを提示してくれるところもありがたい。それは、現場をちゃんと観てるからできることだと思います。■俳優・岡田准一はプロ中のプロ
――先程、「関ヶ原の戦い」を映画化しようと思ったキッカケに、岡田さんの存在を挙げていました。彼の素晴らしいところはどんな点でしょう。
監督:やはり、体力の面でも、集中力の面でも、ちょっと類がないくらい俳優として素晴らしい。歴史小説が好きだということもあるでしょうが、台本をきちんと読み込んでいるし、その時代を「生きる」ということが自然とできている。
遊人:作り手側の意識を持っているのかな?と思うときもありますね。次はどっちから撮るのか、アングルはどうなのかを常に考えている。原田組は、だいたい2台のカメラで「ワイド」と「寄り」で分けているんですが、岡田さんがサーッと立って、「今、サイズってこれくらいですか?」って聞いてきたときに、ぴったりフレームにはまっていたんです。うわぁ、凄いなぁと思って、ゾワっときましたね(笑)。役者って結構、自分のことでいっぱいになるものなんですが、岡田さんは、カメラの向こう側まで考えられる余裕がある。
もしかすると、裏方の仕事にも興味があるのかなって思うことがありますね。「一緒に同じ作品を作っているんだ」という実感が湧く役者さんです。
監督:プロ中のプロだよね。
遊人:そうですね、あの年代の俳優の中では随一かなと思います。
――フィジカルな面もキレがあって素晴らしいですよね。
監督:馬の乗り方は天下一品です。あそこまで馬術を習得した俳優って日本にいないと思いますね。若い頃からの地道な積み重ねだと思います。本当にストイックな役者で、全てが本物でありたいといった意識を常に持っているところが凄い。鎧なんかも、自分で付けられるくらいの感じがありますからね。あとは、魅せるためならはこう、本物だったらこう、とか、とにかく引き出しが多い。
遊人:一緒に食事に行った時に、「オフは何をしてるんですか?」って聞いたら、トレーニングって言っていましたからね。
確かジークンドー(俳優・武道家のブルース・リーの哲学を基にした武術)のインストラクター認定を受けているくらい、本格的に打ち込んでいるようです。
――最後に、Blu‐ray&DVDのリリースを待ち焦がれているファンにメッセージをお願いします。
監督:メイキングやコメンタリーなど、特典映像が豊富なのがいいですよね。とくにこの作品は、何度観ても、いろんな発見があるから楽しめる。例えば、衣装だけで観ていくのもいいし、音楽を中心に聴いてもいいし、いろんな比喩、暗喩があるので、そこをひも解いて行くのも面白いと思いますね。
遊人:とにかく、この作品は、観れば観るほど、味が出る。初見でわからなかったことが、2回、3回、観るうちに「あ、こういうことだったのか!」という発見がいろいろ出てくると思います。監督は、観る人を試すようなところもあって「これ、気付くかな?」みたいな要素が含まれているので、そこを汲み取っていただけるとさらに面白いと思います。
映画『関ヶ原』のBlu‐ray&DVDは2月7日発売。(取材・文:坂田正樹)
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