【写真】佐藤隆太、把瑠都、中村ゆり登壇 『弟の夫』第1話試写会 フォトギャラリー
『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系)で、岡田准一をストーカーのように監視し、ちょっかいをかける同期「公安の田中一郎」でブレイク。ドラマ『バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~』にも、劇中劇『しまっこさん』の島の教育委員長役で出演している。
また今クールは『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系/木曜22時)で、妊活に励む深田恭子と松山ケンイチ夫婦の住む集合住宅「コーポラティブハウス」の住人・小宮山真一郎をコミカルかつ切なく好演。「家族との時間を作りたい」という思いから、仕事を早期退職したものの、世間体を気にする妻・深雪(真飛聖)に邪魔者扱いされ、不満があっても、とりあえず妻に従っておく弱さ、情けなさをリアリティたっぷりに演じている。
さらに、その演技力に強く惹きつけられてしまったのは、今月3回にわたって放送されたNHK BSプレミアム『弟の夫』だ。妻と別れ、娘と二人暮らしをする弥一(佐藤隆太)の家庭に、ある日、カナダ人男性のマイク(把瑠都)が訪ねてくる。マイクは、弥一の亡くなった双子の弟・涼二がカナダで「同性婚」した相手で…というストーリー。最初はゲイへの偏見から、どう接して良いかわからず戸惑うものの、徐々にマイクと「家族」になっていく心の動きを繊細に演じた佐藤隆太。また、ピュアでおおらかで、あたたかく、大きく、愛情深いマイクを魅力的に演じた把瑠都。そして、妙に心にひっかかってしまったのは、実は出番こそ多くないものの、余韻のある鮮烈な印象を与えた「カトやん」役の野間口だった。
カトやんは、涼二の親友で、涼二から借りていたものを返したいといい、弥一のもとを訪ねてくる。マイクと一緒に過ごすうち、偏見を抱いていた自分の滑稽さに気づき、マイクのことを「弟の夫」と正直に紹介しようと考えるようになる弥一。
カトやんは、新宿に呼び出した理由について「地元では誰にも知られたくない、見られたくない」と言い、マイクに語りかける。「僕は涼くんと違って、カミングアウトする気はないの。だから、とても慎重に生きてるよ。わかるでしょ?」
同性婚が認められているカナダでさえ、リベラルな両親に育てられた環境でさえ、カミングアウトすることは非常に勇気のいることだとマイクはかつて語っていた。
大きな感情表現をせず、淡々と、眼鏡の奥にその感情を閉じ込める野間口徹の演技。そのルーツには、99年に作家・故林広志の声掛けで結成された嶋村太一、竹井亮介とのコントユニット「親族代表」の経験がある。親族代表で培ったものは、「普通の人がコントをする」コンセプトの「前に出ない」「表情を作りすぎない」、クールでシニカルな「真顔コント」と呼ばれるものだ。
コントで鍛えられた、感情を抑制した「引き算の演技」からは、笑いや悲しみ、苦しみや怒りが、むしろ強烈に伝わってくる。カトやんの静かな佇まいに、胸が苦しくなった。(文:田幸和歌子)