この夏、細田守監督による待望の最新作『未来のミライ』(スタジオ地図作品)が公開される。物語の主役はなんと4歳の男の子という意欲作だ。
主人公・くんちゃんの声を演じたのは、今年6月に公開された『羊と鋼の森』の好演も記憶に新しい上白石萌歌。現在18歳、女優として着実に成長を遂げつつある“今”、初主演という大役に挑んだ思いを聞いた。

【写真】上白石萌歌、インタビューカット<3枚>&細田守監督『未来のミライ』場面カット

 主人公のくんちゃんは甘えん坊の男の子。ところがある日やってきた“妹”に両親の愛情を奪われ、初めての経験に戸惑うばかり。そんな中、自宅の庭でくんちゃんのことを「お兄ちゃん」と呼ぶ、未来からやってきた妹・ミライちゃんと出会って…というのが『未来のミライ』のストーリー。実は上白石がオーディションを受けていたのはくんちゃん役ではなく、ミライちゃん役だったという。

 「オーディションを受けた当時は高校生だったので、自分の中ではミライちゃん役しか想定してなかったんです。でもひと通りミライちゃん役の原稿を読み終えてブースを出ようとしたとき、監督にくんちゃん役の原稿も読んでみてと言われ…。結果的にくんちゃんの役を頂くことになって、びっくりしました」。

 実はもともと細田監督作品の大ファンであり、6年前にも一度オーディションを受けたことがあったという。

 「監督が6年前のときのことを覚えていてくださって、“身長伸びたねー”とか(笑)。あとそのときちょうど『時をかける少女』の舞台に出演していたので、そのお話をさせていただきました。
とにかく覚えていてくださったことがうれしくて、帰り道も『良かった、これからも頑張ろう!』って」。

 そんな状況だったからこそ、気負いなくのびのび演じられたのかもしれない。結果的にその演技が、くんちゃん役へとつながった。

 とはいえ、くんちゃんは4歳児。大人のように言葉で自分の感情を細かに表現する術を持たず、映画の中では泣いたり、怒ったり、笑ったりと忙しい。

 「役に関しては、アフレコに入る前のほうがいろいろ自分で考えすぎてたかもしれないです。現場に入って監督といろいろ相談したんですが、くんちゃんって素直に感情のままに生きているんですね。だから頭で考えるよりも、体でエネルギッシュに作っていけばいいんじゃないか…と。最終的にはなりましたね」。
 アフレコ中はくんちゃんと同じ動きをしたり、一緒に泣いたり笑ったり、とにかく「声に感情を乗せていくこと」に尽力していったという。時には自宅で体全体での感情表現を試し、「頭から爪先まで、体全部を使って」挑んだとか。それだけ細田監督が今回描いた“4歳児”はとにかくリアル。
つまりパワフルということ! 

 「自分の中に何も残さず、“出し切る”ような感じでお芝居をするのが難しくて。でも小さい子って毎日そのくらいエネルギッシュに全力で生きてるんだと思うと、いいなって思いましたね。小さい子って、眠くなると充電が切れたように眠るじゃないですか。アフレコ中は自分がくんちゃんだと思ってたので、家では小さい子のようにパタッと寝ていた気がします(笑)」。

 作中では、いきなり現れた妹の存在に嫉妬しつつ、少しずつくんちゃんが成長していく姿も描かれる。そんな兄妹の光景に何か思うことは?

 「私は妹なので、映画で言えば“嫉妬される”側なんですけど、でも兄弟間の嫉妬の感じというのはわかるんですよね。姉の方が何かが得意で私の方が不得意で…というのはありましたし。ただこの映画を通して思ったのは、“姉の苦労”ですね。もっと大事にしなきゃ、って思いました(笑)」

 ここ2年、ミュージカル、映画とさまざまなジャンルで活躍の場が広がっている彼女。今作では初の声優、そして主演という大役に挑んだ。

 「ジャンルを問わず、とりあえず“挑戦してみる”ことって大事だな、と今は思ってるんです。10代は新しい経験をたくさんしたいなと思っていましたし、それぞれのお仕事、役からもらうことがたくさんあって、自分の中でも“色”が増えていきました。
今回の役も挑戦することで『もっと違う自分になれるかもしれない』と思えたんですね。これからも自分を固めず、いろんな枠に柔軟にハマっていけるお芝居をすることが目標です」(取材・文・撮影:川口有紀)

 映画『未来のミライ』は全国公開中。
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