映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(2013)でスクリーンデビューを飾る一方、本作でアーティストとしてCDデビューも果たした大原櫻子。その後も、歌手として日本レコード大賞・新人賞や、『第66回紅白NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)への出場、女優としてもドラマや映画、ミュージカルなどを精力的に行い、表現者としてさまざまな可能性を示してきたが、いま彼女はどんな思いで芸能活動を行っているのだろうか―胸の内を聞いた。


【写真】映画『あの日のオルガン』大原櫻子インタビューカット

 「もっと映画がやりたい」と目を輝かせて語った大原。彼女がそんな思いに駆られた現場が、戸田恵梨香とダブル主演を務めた映画『あの日のオルガン』だ。本作は、太平洋戦争末期、日々激化する空襲から子どもたちを守るために行った「疎開保育園」の実話を描いた感動作。大原は、厳しい状況の中、明るく元気に子どもたちと接する保母・野々宮光枝を演じた。

 本作で監督を務めたのは、平松恵美子。長年、山田洋次監督の元で共同脚本と助監督を務めてきたベテランだが、大原は「キャリアもあり、大先輩、大御所の方なのですが、私と同じ目線に立ってくださり、こちらが思っていることを受け止めていただけました」と撮影を振り返る。

 これまでの撮影現場では、芝居をしていて疑問に思ったことや、役への考え方などを、あまり監督やスタッフに伝えることがなかったというが、この作品では、感じたことはストレートにぶつけた。「お互い思ったことを言い合えたのは大きかったです。失礼な言い方かもしれませんが『戦友』のような関係性を築けたと思います」。

 こうした取り組み方の変化には、大原の歩んできた道が大きく影響を与えているのかもしれない。彼女は昨年、多くの映画人を輩出している日本大学藝術学部の映画学科を卒業した。「少しばかりですが、モノづくりの過程を学ぶことができましたし、その場で生まれた瞬間を映像に切り取っていき、監督の編集によって出来上がったものを見たときの感動や達成感はなにものにも代えられないぐらい好きなんです。
学校を卒業し、また新たにちゃんと映画と向き合っていきたいと思っているんです」。 自身が演じた光枝という役については「台本を読んだとき、すごく自分に近い役柄だなと思った一方で、そのまま演じるのではなく、光枝の喜怒哀楽をしっかり色濃く表現していきたいと思いました」とアプローチ方法を語った大原。そんな彼女が目指すのは「なにもしていない芝居で存在感を出せる俳優になること」だという。「古田新太さんは、その場に佇んでいるだけなのに、そこにしっかり意味があるし、存在感がある。例えば、人の目を見ないでそっぽを向いていても、しっかり話を聞いている芝居を見せることができるような、そんな人になりたいんです」。

 さらに、今回共演した戸田に対しても対峙して不思議な感覚を得られたという。「平松監督が『戸田さんの間は戸田恵梨香にしかない』と話をされていましたが、たしかにご一緒して、戸田さんのセリフとセリフの間って、いままで経験したことがない感覚だったんです。すごく新しくて面白かったです」としみじみ語っていた。

 「せっかく映画学科を卒業したのだから、いつか映画監督業にも挑戦してみたい」と演じるだけではなく、作り手への興味も増してきたという大原。これからもさまざまな形での“表現方法”を追求していく姿勢には大きな可能性が感じられる。(取材・文:磯部正和 写真:松林満美)

 映画『あの日のオルガン』は全国公開中。
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