【写真】“撮影クルーを撮影している僕たちも、撮影クルー”『旅のおわり世界のはじまり』フォトギャラリー
本作は、日本・ウズベキスタン国交樹立25周年と日本人が建設に関わったナボイ劇場完成70周年を迎えた2017年に製作された、両国の記念すべき合作映画。テレビ番組の取材でウズベキスタンを訪れたレポーターの葉子(前田)が、異国の地でさまざまな出来事を体験しながら成長していく姿を描く。加瀬亮、染谷将太、柄本時生が葉子に帯同する撮影クルー役で参加し、ウズベキスタンの人気俳優アディズ・ラジャボフが通訳兼コーディネーター役で出演している。
もともとシルクロードに強い関心を抱いていた黒沢監督は、「ウズベキスタンの首都タシケントや古都サマルカンドなど、かつて交易で栄えた都市にとても興味があったので、僕にとってはまたとない機会だった」と笑顔を見せる。条件は、「ナボイ劇場を必ず使うこと。それ以外は自由に撮っていい」とプロデューサーから聞かされ、黒沢監督は、逆算式でプロットを構築した。
「まず、2時間程度で、歴史を踏まえたこの国の『今』を描くことはとうてい無理。ならば、テレビの旅番組ならどうか。しかも、バラエティー寄りの女性レポーターと撮影クルーなら、表面を上手にすくい上げて、面白い体験記ができるのではないか。そして、主人公の葉子は、体を張ったレポートをこなしながら、密かに『歌手になりたい』という夢を持ち、ある日、導かれるようにナボイ劇場にやってくる」…そんなイメージでプロットを組み立てていた黒沢監督は、いつの間にか、主人公の葉子を“前田敦子”でイメージしていたという。
「未知の国ウズベキスタンと独りで対峙できる女優は、前田さん以外に考えられなかったですね。何ともいえない『孤独感』と言うか、ある種のタフさも含んだ実存感が彼女にはある。
さらに、「僕自身も、近年、映画祭を含め、いろんな国へ行く機会があるので、そのときのエピソードも、かなり脚本に盛り込みました。
ウズベキスタンという未知の国で、約1ヵ月間にわたりロケが行われた本作。「今振り返ってみると、思いのほか自分が素直に表れた作品になった」としみじみ語る黒沢監督。「自分の旅の経験がいくつか入っていることも大きいですが、一番の決め手は、『撮影クルーを撮影している僕たちも、撮影クルー』という構成で映画を撮れたこと。出演者とスタッフが自然に渾然一体となってくるんですが、ふと気がつけば、僕がまだ、8mm自主映画を撮っていた学生時代の気分に戻っていた。あのころはまさに、俳優も監督もスタッフも関係なく、自分がやれることは何でもやっていましたからね」。そう目を細めながら、懐かしい日々に思いを馳せていた。(取材・文・写真:坂田正樹)
映画『旅のおわり世界のはじまり』は公開中。