最新主演作『アド・アストラ』で初の宇宙飛行士役に挑戦した俳優のブラッド・ピット。「ヒロイズムを押し出したありきたりの映画にはしたくなかった」という彼が、壮大な宇宙を舞台に描きたかったものとはいったい何だったのか?父の背中を追って宇宙飛行士になった主人公の苦悩に気持ちを重ねながら、製作者として、俳優として、そして一人の“父親”として、本作に込めた思いを熱く語った。
【写真】かっこよすぎる! ブラッド・ピット、インタビューカット&来日ショット集
宇宙へ旅立ってから16年後、突如消息を絶った宇宙飛行士の父クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)が、48億km離れた太陽系の彼方で生存していることが確認された。しかも彼は、人類を破滅させる実験を繰り返し、脅威の存在となっていた…。本作は、父の救出ミッションを受けた主人公ロイ(ブラッド)が、複雑な思いを抱えながら決死の覚悟で宇宙の彼方へと向かうスペースアドベンチャー。『エヴァの告白』の名匠ジェームズ・グレイが監督・脚本を務めている。
この映画には、シド・ミードが創り出すような洗練された宇宙船も、H・R ・ギーガーが描き出すようなエイリアンも登場しない。そこに存在するのは、壮大な宇宙空間と心に闇を抱えた一人の宇宙飛行士。「実を言うと、僕には宇宙飛行士への憧れもなければ、行きたい惑星もないんだ。なんといっても地球が一番心地いいからね」と笑顔で語るブラッド。そんな彼が、長いキャリアの中で一度も着手しなかった宇宙ものに気持ちを向かわせたのは、ジェームズ監督のアイデアに満ちた脚本だった。
「僕が一番興味を抱いていたのは、SFというジャンルに新たな価値を付けるとしたら、どんなアプローチがあるだろうか? という点。ジェームズの脚本を読んだ時、宇宙という果てしない闇が、人間の孤独を有機的に表す最高の舞台であることに気づかされたんだ」と述懐。さらにブラッドは、「仕事に人生をささげる父を崇拝する反面、愛情に飢えていたロイは、孤独を感じながら成長し、人とうまくコミュニケーションが取れない人間になってしまう。
宇宙を駆け巡るヒーローとは程遠い複雑で欠点だらけの主人公ロイ。だからこそ人間の本質が垣間見られ、等身大の苦悩や葛藤が胸に突き刺さる。「ジェームズには、『内面的な表現になるので、演技はすごく抑えるよ』とあらかじめ言っておいたんだ。そして、カメラにそれがちゃんと映し出されているかどうか観てくれと。平坦すぎて、何も感じない時は言ってほしいとリクエストしたんだ」。確かに、ブラッド・ピット史上最もシリアスでナーバス、その心の動きをつかみ取った観客は、ブラッド、いや、主人公ロイの心の葛藤をリアルに共有することになる。 「ニュース番組などで、何かの事件で本当の悲劇に遭遇した人を見ると、僕たちも胸が締め付けられる時があるよね。映画も同じ。役者が自分の演じている世界が“本物”だと感じていれば、その思いは観客にも絶対に伝わるはず」と目を輝かせるブラッド。「僕自身、ロイという役を生きることによって、自分の父親との関係を見直すきっかけになったし、逆に自分が父親として(子どもたちに)どう映っているのかを考えるきっかけにもなった。人を育てるということの責任の重さ、大切さを学んだような気がするよ」と胸の内を明かした。
プロデューサーとして自らの映画制作会社「プランBエンターテインメント」をけん引し、本作はもとより、オスカー作品賞に輝く『それでも夜は明ける』(2013)、『ムーンライト』(2016)など、作家性の高い傑作を次々と世に送り出しているブラッド。先日の記者会見で「俳優引退説」は一蹴したものの、多忙を極め、プライベートでも苦難続きだったせいか、今、一番自分に必要なものは「心の平穏」だとしみじみ語る。
「デヴィッド・ボウイは、全てを受け入れ、そして優雅に去っていった。あの生き様は僕の憧れなんだ…」。偉大なるミュージシャン、デヴィッド氏(2016年死去)へのリスペクトを突然口にしたブラッドの真意は計り知れないものがあるが、彼が言う「心の平穏」とは、次につながる「充電期間」、そう信じて、ブラッドの今後の活躍に期待したい。(取材・文・写真:坂田正樹)
映画『アド・アストラ』は全国公開中。
【写真】かっこよすぎる! ブラッド・ピット、インタビューカット&来日ショット集
宇宙へ旅立ってから16年後、突如消息を絶った宇宙飛行士の父クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)が、48億km離れた太陽系の彼方で生存していることが確認された。しかも彼は、人類を破滅させる実験を繰り返し、脅威の存在となっていた…。本作は、父の救出ミッションを受けた主人公ロイ(ブラッド)が、複雑な思いを抱えながら決死の覚悟で宇宙の彼方へと向かうスペースアドベンチャー。『エヴァの告白』の名匠ジェームズ・グレイが監督・脚本を務めている。
この映画には、シド・ミードが創り出すような洗練された宇宙船も、H・R ・ギーガーが描き出すようなエイリアンも登場しない。そこに存在するのは、壮大な宇宙空間と心に闇を抱えた一人の宇宙飛行士。「実を言うと、僕には宇宙飛行士への憧れもなければ、行きたい惑星もないんだ。なんといっても地球が一番心地いいからね」と笑顔で語るブラッド。そんな彼が、長いキャリアの中で一度も着手しなかった宇宙ものに気持ちを向かわせたのは、ジェームズ監督のアイデアに満ちた脚本だった。
「僕が一番興味を抱いていたのは、SFというジャンルに新たな価値を付けるとしたら、どんなアプローチがあるだろうか? という点。ジェームズの脚本を読んだ時、宇宙という果てしない闇が、人間の孤独を有機的に表す最高の舞台であることに気づかされたんだ」と述懐。さらにブラッドは、「仕事に人生をささげる父を崇拝する反面、愛情に飢えていたロイは、孤独を感じながら成長し、人とうまくコミュニケーションが取れない人間になってしまう。
そんな彼が、宇宙の果てで父親と対峙(たいじ)することで、初めて本当の自分に気づかされる…つまりこの映画は、究極の自分探しの旅でもあるんだ」と力説する。
宇宙を駆け巡るヒーローとは程遠い複雑で欠点だらけの主人公ロイ。だからこそ人間の本質が垣間見られ、等身大の苦悩や葛藤が胸に突き刺さる。「ジェームズには、『内面的な表現になるので、演技はすごく抑えるよ』とあらかじめ言っておいたんだ。そして、カメラにそれがちゃんと映し出されているかどうか観てくれと。平坦すぎて、何も感じない時は言ってほしいとリクエストしたんだ」。確かに、ブラッド・ピット史上最もシリアスでナーバス、その心の動きをつかみ取った観客は、ブラッド、いや、主人公ロイの心の葛藤をリアルに共有することになる。 「ニュース番組などで、何かの事件で本当の悲劇に遭遇した人を見ると、僕たちも胸が締め付けられる時があるよね。映画も同じ。役者が自分の演じている世界が“本物”だと感じていれば、その思いは観客にも絶対に伝わるはず」と目を輝かせるブラッド。「僕自身、ロイという役を生きることによって、自分の父親との関係を見直すきっかけになったし、逆に自分が父親として(子どもたちに)どう映っているのかを考えるきっかけにもなった。人を育てるということの責任の重さ、大切さを学んだような気がするよ」と胸の内を明かした。
プロデューサーとして自らの映画制作会社「プランBエンターテインメント」をけん引し、本作はもとより、オスカー作品賞に輝く『それでも夜は明ける』(2013)、『ムーンライト』(2016)など、作家性の高い傑作を次々と世に送り出しているブラッド。先日の記者会見で「俳優引退説」は一蹴したものの、多忙を極め、プライベートでも苦難続きだったせいか、今、一番自分に必要なものは「心の平穏」だとしみじみ語る。
「デヴィッド・ボウイは、全てを受け入れ、そして優雅に去っていった。あの生き様は僕の憧れなんだ…」。偉大なるミュージシャン、デヴィッド氏(2016年死去)へのリスペクトを突然口にしたブラッドの真意は計り知れないものがあるが、彼が言う「心の平穏」とは、次につながる「充電期間」、そう信じて、ブラッドの今後の活躍に期待したい。(取材・文・写真:坂田正樹)
映画『アド・アストラ』は全国公開中。
編集部おすすめ