スティーヴン・キングの小説を実写化した映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の続編『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。
』がついに公開された。2作連続でメガホンを取ったアンディ・ムスキエティ監督と、実姉でプロデューサーのバルバラ・ムスキエティが、本作に懸けた思いとともに、世界中を震え上がらせる謎のピエロ“ペニーワイズ”の恐怖演出の裏側を明かした。

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 舞台は前作から27年後。幼少時代に“それ”の恐怖から逃げ延びた面々“ルーザーズ・クラブ”が再び結集し、新たな戦いに挑む。海外ドラマ『ヘムロック・グローヴ』シリーズのビル・スカルスガルドが再びペニーワイズを演じるほか、27年後の主人公ビルを『X‐MEN』シリーズのジェームズ・マカヴォイ、紅一点のベバリーをアンディ監督の長編デビュー作『MAMA』に出演したジェシカ・チャステインが演じている。

■恐怖映画の固定概念を覆すハイブリッド・ホラー

 前作のイメージを持って劇場に足を運ぶと、確実に度肝を抜かれる。「怖さ」という観点で言えば甲乙つけがたいが、そのスケール感は大きく膨らみ、もはやホラーの域を超えている。メガホンを取ったアンディ監督は、「ホラー映画というと、悪霊に呪われたり、ゾンビが出てきたり、なんとなくパターンが決まっているよね。まず、これを壊したかったんだ。この映画は、ホラーであると同時に、人間ドラマ、アドベンチャー、コメディーなど、ありとあらゆる要素が入っている。一言でいえば、“ハイブリッド・ホラー”だね。僕たちが子どものころ観ていた1980年代のホラー映画からもたくさんインスピレーションを受けたよ」とニッコリ。


 プロデュースを務めたバルバラは、「スティーヴン・キング氏の小説をより忠実に再現した、という点でもハイブリッドだと言えるかもしれない」と原作をいかに大切にしたかを強調すると、これにはアンディも同意。ただ、演出家としては、小説ならではの物語の寄り道やフラッシュバックは極力避け、「観客の皆さんによりダイナミックな映画体験をしていただくために、多少アドベンチャー要素を強くした」と説明。「原作よりも、いろいろなことが鎖のように話がつながり、リアルタイムで起こっているような感覚で作った」とフォローした。

■ペニーワイズの恐怖演出は精密な「照明技術」から生まれる

 ホラーというジャンルでは、破格の169分。しかも、睡魔が襲う暇もなく、時おり、笑いや人間模様を挟みながら、次から次へと恐怖映像がつながれていく。とりわけ、本シリーズのシンボルでもある謎のピエロ“ペニーワイズ”登場のシーンは、とてつもなく怖い。その演出法についてアンディ監督は、「もちろん、顔の造形や衣装、状況、音響、そしてビルの演技など、いろんな要素が絡み合って恐怖は作られるけれど、特にポイントとなるのは“照明”なんだ」と興味ある答えが。

 「ビルが演じるペニーワイズは何回も撮っていて、“彼の顔がどの角度からどう見えるのか”ということは把握しているので、どうすれば照明の効果が表れるかは熟知している。例えば、ペニーワイズの目の部分。映画館でよく観てほしいんだけど、ペニーワイズの薄気味悪さは目からくるので、彼の眼球の下の方に照明を当てていくんだ。ただ、これが結構難しくて、立ち位置、ライトの角度にとても正確性が要求され、少しでもアゴを上げたらライトがずれる。それも演技をしながらキープするので、「アゴ下げて! アゴ下げて! がすっかり口癖になったんだ」と苦笑い。

 さらに、そのライティングのアイデアは“蛍”から着想しているそうで、髪の毛がしっかり見えるように実は後ろからもライティングされている。「これはほんの一例だけれど、そういう細かく精密な作業がどのシーンでも行われていて、それが恐怖につながっているんだ。正面からペニーワイズに照明を当てると全然怖くないし、ビルがハンサムだということがわかってしまう。演出ってそういうものなんだよ」と舞台裏を明かしてくれた。

■アンディ&バルバラから子どもたちへメッセージ「ひとりじゃない」

 子ども時代から27年後を描いた本作は、長い年月をかけながら、いじめに遭った経験のある仲間たちが一丸となって恐怖を克服する物語でもある。この背景についてアンディ監督は、「僕たちがいる社会、特に近年のネット社会は、人を孤立させやすいし不安になる。例えば1作目で描いたルーザーズ・クラブの子どもたちは、いじめられっ子の集まり。これは僕の体験も入っているんだけれど、やはり問題が起きた場合は、とにかく親や友達とコミュニケーションをとることが最善だと思う。僕自身は親に相談できなかったし、それがトラウマにもつながっているからね」と経験をもとにアドバイス。

 一方のバルバラは、「子どもが覚えなければいけない一番大切なことは、“決して自分はひとりではない”ということ。“人類”という大きなコミュニティーの一員だということを思い出してほしいの」と言葉に思いを込める。さらに、「一見誰もいないように見えるかもしれないけれど、必ず誰かが周りにいるし、必ず自分と同じような経験をしている人がいると信じて。
仲間と一緒にいれば、どんな殺人ピエロが襲ってきても怖くないから」と最後は本作にかけて締めくくった。

 <おまけ>アンディ&バルバラ最新作・ハリウッド版『進撃の巨人』近況

 アンディ監督いわく、「すでに5年くらい製作準備に時間をかけているが、まだまだ作業中なので、何も発表できないんだ。やる気満々だし、情熱はみなぎっているけれど、いろいろなことが開発中なので、また先が見えてきたらお話しするよ!」とのこと。乞うご期待!(取材・文・写真:坂田正樹)

 映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』は公開中。
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