2月7日より公開される清水崇監督の最新ホラー『犬鳴村』は、最恐心霊スポットとして名高い、福岡県に実在する旧犬鳴トンネルを舞台にした都市伝説ホラーだ。このあまりにも有名なスポットを映画化するにあたり、これまで数多く作られてきた“心霊スポットもの”と、いかに区別をつけるかの悩みもあったという清水監督。
【写真】あなたは気づける? “秘密”が隠された『犬鳴村』本ポスター ほか美しい海外版ビジュアルも
本作『犬鳴村』は、フィクションではあるのだが、実在の集落を舞台にしていることで、ノンフィクション的な怖さを感じさせる作品になっている。映画は、冒頭から”ビデオカメラを持って心霊スポットに足踏み入れるヤツが悪い”と、同情する余地のまったくない展開で物語は進んでいく。しかし、その軽いとも思える導入部から、彼らの行動がただの偶然ではなく、必然へと昇華していく清水監督の手腕は見事。すっかり懐かしい響きとなってしまった“Jホラー”というカテゴリーだが、その中には、低予算で粗製乱造された作品や、安易なシリーズ物として乱発されたものも決して少なくない。しかし清水監督は、ホラージャンル以外の作品を撮る一方で、妥協のない心霊系和製ホラー映画をストイックに撮り続けている。この最新作『犬鳴村』もその1本だ。
■ただの心霊スポットホラーにはしたくなかった
実在する犬鳴トンネル、及びその先の「犬鳴村」の都市伝説を映画化するにあたり、最近流行りの、例えばYouTuberが突撃するようなものや、フェイクドキュメンタリーのような手法も考えられたはずだ。しかし清水監督は、あくまでストーリーを重視し、そして今自分が怖いと思うものに重きをおいた。
「配給会社の東映からオファーを頂いた際にまず思ったのが、心霊スポットを撮影しに行って、そこで事件が起こるだけの作品にはしたくなかった」と清水監督は語る。「かと言って、フェイクドキュメンタリーや実録手法だと『ノロイ』(2005年)や『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)、『残穢‐住んではいけない部屋‐』などもある。その中でどうやって自分のフィールドで勝負するかと考えたときに、だったらひねりを効かせたストーリーでいこうと。
■その場所が実在するというアドバンテージ
本作に登場する旧犬鳴トンネルは、九州・福岡に実在するトンネルだ。そしてその先にあった犬鳴谷村は、ダムの底へと沈み、現在は存在しない。その後、トンネル付近で実際に起きた事件なども相まって、犬鳴村伝説としてさまざまな噂話がネットを中心にささやかれることになった。清水監督は、そんな実在するトンネルを舞台にしたことが、映画の大きなアドバンテージになったと語る。「やっぱりこのジャンルでオリジナリティーを出すのならば、場所が重要なんです。この映画に出てくる旧犬鳴トンネルみたいな、その場所が現存しているということが大きかったですね。現在は立入禁止なので、さすがにそこで撮影はできませんでしたけど、非常に参考になりました」。
たしかに本作において、劇中でトンネルが果たしている役割は非常に興味深い。このトンネルは、その独特の雰囲気で作品の強烈なアイコンとなっているだけでなく、犬鳴村という“決して足を踏み入れてはいけない場所”への壁としての役割も果たす。
撮影が終了してから、完成版へと仕上がるまではかなりの期間を要したそうで、最初に仕上がったラッシュ版はゆうに2時間を超えたのだとか。「混み入った人間模様ですが、心情でテンポ良く展開したかったのでいろいろカットしました。最近だと、アリ・アスター監督の『ミッドサマー』(2019年)みたいに、長尺で見応えある作品もありますけどね。なので、やっぱり短くする必要がありました」と説明。その中でも、特に泣く泣く削ったというシーンがあったようで、「トンネルの中で、“あるもの”に主人公たちが襲われるシーンがあるんですが、本当はもっと長かったし、もっと奇怪な動きをしていたんですよ。シーン自体の完成度も高く、僕個人としてもお気に入りで、現場で一番ホラー映画を熟知している助監督も、『このままがいいですよ』と意見してくれていたんですけどね(笑)。ホラーのラストってクリーチャーバトルっぽくなると、せっかく積み重ねた心霊ホラーとしての怖さが途端に薄れてしまう。なのでカットすることにしました。同じホラーでも、心霊テイストか? モンスターテイストか? 世界観をどこに置くかは重要です。個人的にはどちらも好きなんですけどね(笑)」。
■中国での熱狂と、そこで感じた危機感
本作は海外での注目度も非常に高く、2019年10月には、中国・山西省で開催された第3回平遥国際映画祭の招待作品として上映された。
「中国で『呪怨』シリーズは劇場公開されていないんですが、違法アップロードや海賊版DVDなどがかなり流通していたので、僕のファンが多いっていうことは聞いてはいたんですよね。ただ今回驚かされたのは、『犬鳴村』の上映中のスクリーンをスマートフォンで勝手に動画撮影して、観終わったあとに僕に“このシーンが良かった”とか“ここが好きです”と話しかけてくるんです。いや、あなたそれ違法だよ、いくら何でも監督に失礼だろ、と(笑)。さすがにあんな状況は初めてだったので、面食らいました」と複雑な心境を吐露。
「でも検閲で抑えつけられているからこそ、中国の観客のホラーへの熱量はかなり高い。海外のコンベンションなどにも時々招かれて、そこで熱量の高いファンと接したりするんですけど、中国のファンも“自分はこう思う”とか“このシーンは何を言わんとしているのか?”とか、かなり意識の高い質問や感想を投げかけてくるんですよ。『あー怖かった』で終わりじゃない。そこは僕も含めて、見習わないといけないところですよね。観る方も作る方も、このままじゃ日本やばいなと」。
“Jホラー”というジャンルを世界に轟かせた『呪怨』を誕生させ、そのハリウッドリメイクでは全米1位を獲得するなど、日本のホラー映画界の先駆者の一人として活躍してきた清水監督。『犬鳴村』は、撮影前からAFM(アメリカン・フィルム・マーケット)にて海外セールスが始まり、現在、全世界の国や地域で100ヵ所近い交渉が進行中。
映画『犬鳴村』は2月7日より全国公開。
また、完成した作品を中国の映画祭で上映した際は、その熱狂ぶりに驚かされたといい、現地で起きたビックリな出来事も教えてくれた。
【写真】あなたは気づける? “秘密”が隠された『犬鳴村』本ポスター ほか美しい海外版ビジュアルも
本作『犬鳴村』は、フィクションではあるのだが、実在の集落を舞台にしていることで、ノンフィクション的な怖さを感じさせる作品になっている。映画は、冒頭から”ビデオカメラを持って心霊スポットに足踏み入れるヤツが悪い”と、同情する余地のまったくない展開で物語は進んでいく。しかし、その軽いとも思える導入部から、彼らの行動がただの偶然ではなく、必然へと昇華していく清水監督の手腕は見事。すっかり懐かしい響きとなってしまった“Jホラー”というカテゴリーだが、その中には、低予算で粗製乱造された作品や、安易なシリーズ物として乱発されたものも決して少なくない。しかし清水監督は、ホラージャンル以外の作品を撮る一方で、妥協のない心霊系和製ホラー映画をストイックに撮り続けている。この最新作『犬鳴村』もその1本だ。
■ただの心霊スポットホラーにはしたくなかった
実在する犬鳴トンネル、及びその先の「犬鳴村」の都市伝説を映画化するにあたり、最近流行りの、例えばYouTuberが突撃するようなものや、フェイクドキュメンタリーのような手法も考えられたはずだ。しかし清水監督は、あくまでストーリーを重視し、そして今自分が怖いと思うものに重きをおいた。
「配給会社の東映からオファーを頂いた際にまず思ったのが、心霊スポットを撮影しに行って、そこで事件が起こるだけの作品にはしたくなかった」と清水監督は語る。「かと言って、フェイクドキュメンタリーや実録手法だと『ノロイ』(2005年)や『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)、『残穢‐住んではいけない部屋‐』などもある。その中でどうやって自分のフィールドで勝負するかと考えたときに、だったらひねりを効かせたストーリーでいこうと。
思い切って“都市伝説が自分の血筋に関係する”という話にしてみようと思ったんです。僕自身、何かが巡り巡って自分や身近に降りかかっていると感じることが多々あり、そんなおぼろげな怖さを描けないか? と思っていたので。そこで背景や基盤となる設定を構築した上で、何度か組んでいる脚本家の保坂大輔さんを招いて、一からシナリオを作り上げていったんです」。
■その場所が実在するというアドバンテージ
本作に登場する旧犬鳴トンネルは、九州・福岡に実在するトンネルだ。そしてその先にあった犬鳴谷村は、ダムの底へと沈み、現在は存在しない。その後、トンネル付近で実際に起きた事件なども相まって、犬鳴村伝説としてさまざまな噂話がネットを中心にささやかれることになった。清水監督は、そんな実在するトンネルを舞台にしたことが、映画の大きなアドバンテージになったと語る。「やっぱりこのジャンルでオリジナリティーを出すのならば、場所が重要なんです。この映画に出てくる旧犬鳴トンネルみたいな、その場所が現存しているということが大きかったですね。現在は立入禁止なので、さすがにそこで撮影はできませんでしたけど、非常に参考になりました」。
たしかに本作において、劇中でトンネルが果たしている役割は非常に興味深い。このトンネルは、その独特の雰囲気で作品の強烈なアイコンとなっているだけでなく、犬鳴村という“決して足を踏み入れてはいけない場所”への壁としての役割も果たす。
さらに入り口が封鎖されていることで、その向こうで起こっている呪いや祟りに蓋を閉じていると捉えることもできるのだ。■泣く泣くカットしたシーンも
撮影が終了してから、完成版へと仕上がるまではかなりの期間を要したそうで、最初に仕上がったラッシュ版はゆうに2時間を超えたのだとか。「混み入った人間模様ですが、心情でテンポ良く展開したかったのでいろいろカットしました。最近だと、アリ・アスター監督の『ミッドサマー』(2019年)みたいに、長尺で見応えある作品もありますけどね。なので、やっぱり短くする必要がありました」と説明。その中でも、特に泣く泣く削ったというシーンがあったようで、「トンネルの中で、“あるもの”に主人公たちが襲われるシーンがあるんですが、本当はもっと長かったし、もっと奇怪な動きをしていたんですよ。シーン自体の完成度も高く、僕個人としてもお気に入りで、現場で一番ホラー映画を熟知している助監督も、『このままがいいですよ』と意見してくれていたんですけどね(笑)。ホラーのラストってクリーチャーバトルっぽくなると、せっかく積み重ねた心霊ホラーとしての怖さが途端に薄れてしまう。なのでカットすることにしました。同じホラーでも、心霊テイストか? モンスターテイストか? 世界観をどこに置くかは重要です。個人的にはどちらも好きなんですけどね(笑)」。
■中国での熱狂と、そこで感じた危機感
本作は海外での注目度も非常に高く、2019年10月には、中国・山西省で開催された第3回平遥国際映画祭の招待作品として上映された。
その際、中国の観客からの異常なまでの歓迎、そして盛り上がりに清水監督自身驚いたそうだが、別の意味でも驚かされたという。
「中国で『呪怨』シリーズは劇場公開されていないんですが、違法アップロードや海賊版DVDなどがかなり流通していたので、僕のファンが多いっていうことは聞いてはいたんですよね。ただ今回驚かされたのは、『犬鳴村』の上映中のスクリーンをスマートフォンで勝手に動画撮影して、観終わったあとに僕に“このシーンが良かった”とか“ここが好きです”と話しかけてくるんです。いや、あなたそれ違法だよ、いくら何でも監督に失礼だろ、と(笑)。さすがにあんな状況は初めてだったので、面食らいました」と複雑な心境を吐露。
「でも検閲で抑えつけられているからこそ、中国の観客のホラーへの熱量はかなり高い。海外のコンベンションなどにも時々招かれて、そこで熱量の高いファンと接したりするんですけど、中国のファンも“自分はこう思う”とか“このシーンは何を言わんとしているのか?”とか、かなり意識の高い質問や感想を投げかけてくるんですよ。『あー怖かった』で終わりじゃない。そこは僕も含めて、見習わないといけないところですよね。観る方も作る方も、このままじゃ日本やばいなと」。
“Jホラー”というジャンルを世界に轟かせた『呪怨』を誕生させ、そのハリウッドリメイクでは全米1位を獲得するなど、日本のホラー映画界の先駆者の一人として活躍してきた清水監督。『犬鳴村』は、撮影前からAFM(アメリカン・フィルム・マーケット)にて海外セールスが始まり、現在、全世界の国や地域で100ヵ所近い交渉が進行中。
再び世界に熱狂をもたらそうとしている。都市伝説という現代の民話と、清水監督こだわりの“血筋”というクラシックなテーマ。その融合は一体どのような作品を生み出したのか。答えは劇場で目撃してほしい。(取材・文:ジャンクハンター吉田 写真:畑史進)
映画『犬鳴村』は2月7日より全国公開。
編集部おすすめ