現在放送中のドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』特別編で、若年性アルツハイマーにおかされる女医・北澤尚を演じている女優・戸田恵梨香。これまで「役を引きずらない」と話していた戸田が、以前のインタビュー(2019年10月27日 戸田恵梨香、30代充実の日々 ヘビーな役で変わった気持ち)で『大恋愛~僕を忘れる君と』の撮影後は、「役が抜けなくて、なかなか次の仕事が入れられなかった。
唯一気持ちが切り替えられなかった作品」と話していたほど。この言葉通り、戸田の演技は多くの視聴者の共感を呼び、彼女の実力をまざまざと見せつけた。改めて、戸田の魅力を振り返ってみたい。

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■作品に引っ張られることはなかった

 10代から芸能活動を行っている戸田は、これまで映画・ドラマとキャリアは豊富だが「戸田恵梨香が演じた好きなキャラクターは?」という話をすると、映画・ドラマライターの中でもかなりの票が割れる。

 近年では連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)の川原喜美子や、本作の北澤尚、さらに長期シリーズ化された「コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」の緋山美帆子などが印象に残っているが、『LIAR GAME』シリーズの馬鹿正直な神崎直、「野ブタ。をプロデュース」の黒髪ロングの上原まり子、映画『DEATH NOTE デスノート』シリーズのツインテールの弥海砂(みさみさ)、さらには『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』のちょっとやばい当麻紗綾などなど、数え上げれば枚挙にいとまがない。個人的には、映画『駆込み女と駆出し男』での、夫の暴力に耐え続けながら、まっすぐに強くなっていく鉄練りのじょご役は圧巻だった。

 ビジュアルのかわいらしい若手女優には、そのポテンシャルを存分に発揮できる作品のオファーが続くことが多い。さらに評判が良ければ、近い役のオファーがくるのは常であるが、戸田のフィルモグラフィーを見ていると、あまり似通ったキャラクターに扮していることは少なく、作品ごとにガラリと違う役柄を演じている印象がある。

 そこには戸田の人としての特性があるのかもしれない。前述したインタビューで戸田は、どんなにヘビーでセンシティブな役柄でも「カットが掛かると気持ちは切り替わるし、自宅には持ち帰らない」と作品に引っ張られることはないと話していた。作品が終われば、まっさらになって次に向かう準備ができる。
スイッチを切り替えられるからこそ、どんな役にもスッと入っていけるのかもしれない。■ムロツヨシにメール「役が抜けないんです」

 そんな中『大恋愛~僕を忘れる君と』の撮影後は、なかなか役が抜けず、次の仕事が入れられなかったというのだ。しかも共演したムロツヨシにも「役が抜けないんです」とメールをし、そんなことを共演者に伝えたこともなかったとインタビューでは語っていた。

 戸田が演じた尚は、レディースクリニックに勤務する女医。堂明大学附属病院のエリート精神科医・井原侑市(松岡昌宏)と婚約していたが、自身が心から愛する小説の作者・間宮真司(ムロツヨシ)と運命的な出会いを果たし、恋に落ちる。しかし、事故をきっかけに若年性アルツハイマーに進行してしまう可能性があることが判明し、辛い未来を抱えながら懸命に生きる女性を演じた。

 非常にタフなヒロインであり、戸田自身も放送前の特別試写会で「いまだかつてない難役」と覚悟を持って臨んでいることを明かすと、台本上泣いてはいけないところで涙を流してしまうこともあるなど、今まで経験のないほど感情のコントロールが難しい役だと語っていた。

 そこまで戸田に言わしめた尚という役。この言葉通り、観ている側も、尚と真司の感情のぶつかり合いに心を持っていかれる。これまでの作品も、非常に個性的な役を演じ、戸田の芝居の上手さは多くの監督やプロデューサーが評価していた。しかし(正式な撮影時期の時系列は未定だが)、戸田が30歳を迎えた2018年ごろから公開、放送された本作や、『スカーレット』、映画『あの日のオルガン』で演じたキャラクターは、芝居の技術というものを超えて訴えかけてくる主人公の“思いの熱量”が圧倒的だった。

 このことについて『あの日のオルガン』のインタビューでは、(すてきな作品と出会えて)運が良かったと謙遜していたが、自身の中でも若い頃とは芝居に対する向き合い方が大きく変わったことを挙げていた。
若い頃は“芝居の実力”をつけることに捉われていたというが、現在は“物語のテーマをいかに表現するか”に重きを置くようになったというのだ。

 まさに『大恋愛~僕を忘れる君と』では、未来に翻ろうされる一人の女性を、これまで得た芝居のテクニックでコントロールできないほどの湧き出る感情で演じ切った。だからこそ、役が抜けなかったのだろう。

 現在、過去のドラマの特別篇が多数オンエアされ、いろいろな戸田を観ることができる。どれも魅力的だが、『大恋愛~僕を忘れる君と』では、かわいらしさや天真らんまんさ、芝居の上手さはもちろん、“人間を表現するすごみ”も垣間見ることができる。(文:磯部正和)
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