【人物コラム/田幸和歌子】森七菜主演のドラマ『この恋あたためますか』(TBS系/毎週火曜22時)で、毎週、SNSを大いに沸かしている仲野太賀。その『恋あた』は、アイドルになる夢破れたコンビニ店員・井上樹木(森七菜)と、業界最下位のコンビニチェーン社長・浅羽拓実(中村倫也)が「一番売れる」スイーツの開発を通して繰り広げるラブストーリー。

仲野が演じているのは、樹木とともにコンビニチェーン「ココエブリィ」でスイーツ開発をする新谷誠役だ。

【写真】めちゃくちゃソックリ!仲野太賀が扮する南キャン・山里亮太

 SNS上では大量に「当て馬」という言葉が呟かれていたが、正直、ここ3話までの展開では「当て馬」未満に見える。一般的に恋の「当て馬」は、本命の引き立て役にされる損なポジションだ。理想的な相手にも関わらず、フラれる役を演じることの多い瀬戸康史町田啓太など、スマートなイケメンが演じることが多い。

 しかし、仲野演じる新谷は、そういった分かりやすいスマートなイケメンタイプではない。だからこそ、第1話で話題になったのは、「再起動」シーン。過去について語る樹木が「どうせ私なんか、頑張ったって無駄でしょ?っていう気持ちが、どっかにあるの。そういうスイッチが、ある日を境にできちゃったんだよね」と語ると、そんな樹木に近づき、「壁ドン」し、顔を近づけながら「また俺が再起動してあげるから」とささやく。ドキドキ感と優しさ・あたたかさが共存するこのシーンは、SNSで「かっこ良すぎる!」などと大いに盛り上がりを見せた。

 「面倒見の良い優しい兄貴」的ポジションから、めでたく一気に恋のライバルに?と思った視聴者は多かったはずだ。ところが、第2話、第3話と、回を重ねるにつれ、新谷の切なさが増してくる。樹木を目で追ったり、複雑な表情を見せたりする場面が増え、親密度も高まっているのに、恋の土俵からはどんどん遠ざかっているように見える。


■スマートなイケメンタイプではない仲野太賀が「リアコ」枠の理由

 そんな仲野に対して、面白いのはSNSでは相変わらず「かっこ良すぎる!」といった声だけでなく、むしろ「リアコすぎる」という声が続出していること。

 「リアコ」つまり、「リア恋」「リアルな恋」の対象である。「ヒロインに思いを寄せつつ、報われず、見守り続ける当て馬」ポジションの切なさに惹かれる人は多数いる。しかし、そういった切なさだけでなく、仲野には、つかみどころのない中村倫也などとも違う、親しみやすさ、身近さがあるのだ。だからこそ、視聴者がドラマの中の登場人物としてでなく、リアルに彼の一挙手一投足にドキドキし、恋の感覚を味わっている。

 そこには、仲野が表現する、絶妙にリアルな「距離感」の変化があると思う。知り合った頃に比べ、仲間たちとともに家に呼んでもらえるような近さになっているのに、むしろ一緒にいるときの樹木との距離は、壁一枚分隔てたくらいに変わっている。これは、恋を意識するからこその、ある種の緊張感や戸惑い、傷つきたくないがゆえの「構え」だろう。実はこういう心境は、共感できる人も多いのではないか。

 もともと演技が達者なだけに、数々のドラマや映画で「若手名バイプレイヤー」として活躍してきた仲野。シリアスな役もコミカルな役も、ちょっと嫌なヤツ、変なヤツも何でもこなしてきた。作風・キャラクターに関わらず、彼が演じる役はどれもこれも「実際にこういう人、絶対いる」とか、有名人から身近な知人まで含めた「〇〇に似ている」と思わせるようなリアリティを持っている。
@@separator■どんな役もリアルに…仲野太賀の鋭い観察力

 これは実は仲野の類まれなる「観察力」によるものなのではないかと、常々感じていた。

 それを強く感じたのは、仲野が南海キャンディーズ・山里亮太役で主演している現在放送中の『あのコの夢を見たんです。』(テレビ東京系/毎週金曜24時12分)である。これは、山里が創作した初の短編小説を原作とし、毎回、実在する女優やアイドルを題材にして、山里が「現実逃避」で妄想を繰り広げるオムニバスだ。

 第1話冒頭から度肝を抜かれたのは、目のアップだけで、ちゃんと山里に見えること。赤いメガネという小道具以上に、眼鏡越しに見えるすわった目と、ちょっと半開きの長方形っぽい口、肩が落ちた感じの後ろ姿……警戒心を漂わせながら目を細めて周りをうかがう様子も、唇の噛み方も、本当に芸が細かい。ご本人は「モノマネにならないように気を付けた」ということだが、あえてそのように意識しなければいけないほどに、他者の微妙な仕草や表情のクセなどを、無意識に観察して吸収してしまう性質があるのではないか。

 優しく良い人そうな役も、振り切れたおバカな役も、身勝手な役も、そうした彼の鋭い観察力によって蓄積された豊富な引き出しから、さまざまな人のさまざまなピースを取り出して組み立てているように見える。だからこそ、どの役もリアルで、説得力があるのではないか。そして、その人間としてのリアルさを恋愛方面に振ると、一気に生々しさが身近にいそうな「リアコ」枠になる気がする。

 芸達者ゆえの「演技派」俳優を、恋愛モノに起用するのは、恋の心の機微において思いがけないリアルさを生む。そういった意味で、仲野太賀の起用は、おそらく作り手の予想・期待を大きく上回る反響を生んでいるような気がしてならない。
(文:田幸和歌子)

<田幸和歌子>
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムをさまざまな媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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