現在公開中のアクション超大作『ワンダーウーマン 1984』で、前作に続きメガホンをとったパティ・ジェンキンス監督。当初、「この映画は成功しない」という懐疑的な意見も少なからずあったそうだが、そんな批判などもろともせず、映画は空前の大ヒットを記録した。

最新作もコロナ禍の中で健闘を見せているが、なぜこんなにも『ワンダーウーマン』は人々の心を捉えたのか? 映画の生みの親でもあるジェンキンス監督がリモートインタビューに応じ、その要因を自ら分析してみせた。

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●古典的なヒーロー誕生物語が逆に新鮮だった

 2017年に公開された前作の大成功に、「自分を信じていたので、それほど驚きはなかった」と語るジェンキンス監督。ただ、予想をはるかに上回る旋風を巻き起こしたことから、「監督である私のキャリアや演出法にまで目を向けられたことは意外だった」と当時を振り返る。「もちろん、全力で演出に当たったという自負はあるけれど、何よりもこの映画を成功に導いてくれたのは、ガル・ガドットの存在ね。ご覧になればわかると思うけど、彼女はワンダーウーマンそのものだった」と称賛の言葉を惜しまない。

 さらにジェンキンス監督は、大ヒットの要因をこう分析する。「(昔ながらの)シンプルなヒーロー誕生物語が響いたんじゃないかしら。今、スーパーヒーローものはたくさん作られているけれど、悪役やサイドストーリーに重点が置かれたり、長い物語を何作かでつづっていったり、原作を膨らませるスタイルの作品が増えていて、クラシックなオリジナルものが減っている気がするの。つまり、観客が『自分だったらどうするか?』という感情移入ができる作品があまりなかったので、逆にそこが新鮮だったのかもしれないわね」。確かに本で言うところの“読後感”は、ヴィランでもない、サイドストーリーでもない、ワンダーウーマンの魅力で埋め尽くされている。

●最新作は80年代のブロックバスターを再現

 最新作の舞台は、好景気に沸く1984年。米首都ワシントンD.C.のスミソニアン博物館で考古学者として働きながら、さまざまな脅威から人類を守り続けてきたワンダーウーマンことダイアナ(ガル)が、“禁断の力”を手にした実業家マックス(ペドロ・パスカル)の恐るべき陰謀、そして彼によって生み出された正体不明の強敵チーター(クリステン・ウィグ)との壮絶な戦いに挑む。


 物語は、ワンダーウーマンの誕生から、80年代の人間社会を生きるダイアナの孤独や葛藤にもスポットを当てているが、気になるのは、なぜ1984年なのか。素朴な疑問をジェンキンス監督にぶつけてみると、「1984年は、今の時代を考えるポイントの年」という答えが返ってきた。「最も80年代のエッセンスが詰まった高みの年、それが1984年だったと思うの。本であったり、音楽であったり、1984年と冠されているものがとても多いし、豊かな生活のピークだった。今、私たちが生きるこの世界は、当時の価値観が基になっていて、その延長上あると感じているので、今の時代を考えるヒントになると思ったの」。

 さらに、80年代の大作映画が大好きだったというジェンキンス監督は、当時の作品を参考にし、CGに頼らないリアルなアクションにもこだわった。映画からあふれ出るパワフルな雰囲気、そしてハスキーヴォイスでエネルギッシュに語るその姿から、甘いラブストーリーやアート作品など見向きもしなかったのかと思いきや、「それはちょっと違うわね」と笑顔で反論。「小さいころは海外に住んでいて、映画オタクだった母親の影響から、いろんな作品を観て育ったの。もちろんブロックバスター(巨額の予算を投じた超大作映画)は大好きだったけれど、ヨーロッパや世界のアート系作品もたくさん観たわ。もちろん黒澤明の作品もね」と幅広い嗜好(しこう)を強調する。●誕生物語から人間社会を生きる孤独な戦いへ

 「80年代の空気感を持ったブロックバスターが観たい」というジェンキンス監督の思いから、最新作でワンダーウーマンは1984年に舞い降りる。そこには、狂気の実業家マックスや半人半獣のチーターなど、新たな敵との壮絶な戦いが待っているが、人間社会で経験を積んだダイアナの心情にも深く踏み込んでいる。
「ワンダーウーマンとしては、パワー全開の状態で、長年にわたって人命救助に勤しんできた経験もある。そんな彼女は今、どんな気持ちで人間社会を生きているのか。そこはガルととことん話し合ったの」と述懐。

 「私たちの思いが一致したのは、孤独感ね」とジェンキス監督は続ける。「自分の正体が割れるのを怖れて人にあまり近づかないだろうし、不老不死の自分は生き延びることができても周りはどんどん亡くなっていく寂しさも知っている。だから、映画がショッピングモールでのバトルからスタートしたのは、私にとってはとても重要なことだったの。戦いのあと、お一人様で夕食をとるシーンがあるけれど、今、彼女がどんな状況なのか、どんな心境なのかを象徴的に表現しているから。孤独が深いからこそ、前作で別れを告げた運命の人スティーブ(クリス・パイン)への思いも深くなる…最終的にそこにつながっていくのね」。ダイアナの心理描写にも力を注ぐジェンキンス監督。その真摯(しんし)な姿勢は、アクションだけでなく、いろんなジャンルの映画を観てきた歴史の賜物(たまもの)でもある。

 ダイアナの揺れる心情にも迫った本作。伝説にして究極の鎧(よろい)“ゴールドアーマー”姿で空を駆けるという新たな魅力もプラスされ、「思い描いていた通りの作品ができた」と喜びをあらわにするジェンキンス監督。
スター・ウォーズ』シリーズの新作『Rogue Squadron(原題)』(2023年公開予定)でメガホンをとることも決まった彼女の快進撃は止まらない。(取材・文:坂田正樹)

 映画『ワンダーウーマン 1984』は公開中。

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