女優のケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンが初共演する映画『アンモナイトの目覚め』。2人の実力派女優が互いに惹かれ合うキャラクターを熱演する本作を、より楽しむための<5つの注目ポイント>を紹介しよう。



【写真】実力派女優2人が紡ぐ愛の物語 『アンモナイトの目覚め』場面写真

 本作は、男性優位だった19世紀に、自分を貫いた実在の古生物学者メアリー・アニングにスポットを当て紡いだ愛の物語。2020年に開催を見送られた第73回カンヌ国際映画祭のほか、第47回テルライド映画祭、第45回トロント国際映画祭など数々の映画祭でオフィシャルセレクションに選ばれた。
 
 オスカー女優のケイトが主人公の古生物学者メアリー役を、26歳にしてアカデミー賞に4度のノミネートを誇るシアーシャが裕福な化石収集家の妻シャーロット役を務め、真逆でありながらともに孤独を抱える女性を演じる。監督は、長編デビュー作『ゴッズ・オウン・カントリー』で、その繊細な手腕を高く評価されたフランシス・リー。

■実在した人物を基に綴られる現代の物語

 メアリーをはじめ、本作に登場する主要キャラクターのほとんどは実在した人物。名前や背景などはそのままに、人物との関係性はリー監督が独自に考案した。リー監督はメアリー・アニングの存在を知った時、彼女のことを知ろうとさまざまな資料を読み漁ったが、存在するのは現代人が書いた文献ばかりで、同時代の人間が彼女について書いた本はほぼ皆無。絶滅動物の化石を13歳で発掘したという歴史的な実績を残しながらも、労働者階級の女性であったため、その活躍が当時の世間に広められることはなかったからだ。

 しかしその事実が監督の創造性を刺激し、独自の解釈でメアリーを描こうと思い立たせた。その意図についてリー監督は「僕は自伝を作りたかったわけじゃない。メアリーを尊重しつつ、想像に基づいて彼女を探求したかった。女であれ男であれ、メアリーが誰かと関係を持ったという証拠は一つも残っていないが、彼女に相応しい関係を描きたいと思った」とコメント。


 またプロデューサーのイアン・カニングは、本作の設定について「メアリーの人生に、異性との恋愛関係があっただろうと考えるのと同じく、同性との恋愛関係があったかもしれないというアイディアに対し、自由でオープンであることが、私たちの時代の特徴だと思う」と語り、まさにダイバーシティの重要性が唱えられる現代だからこそ生まれた物語だと説明している。

■監督と2人の女優たちが並々ならぬ努力で追求した真実味

 本作への出演が決まったケイトとシアーシャは、撮影3ヵ月前から準備を開始。徹底してリアリティを追及するリー監督は、まず2人と、それぞれのキャラクターが生まれた時から映画に登場する時期までどんな人生を送ってきたのか、性格、仕草や癖、話し方、好き嫌い、性生活に至るまで、想像しながら人物を作り上げていった。

 また2人は、役に合った技術も習うことに。古生物学者を演じるケイトは実際に1人で化石採集ができるレベルになるまで専門的なノウハウを学び、化石のスケッチやメアリー本人の筆跡スタイルまでも習得。さらに撮影中はひとりでコテージに住み、静かに化石を削って過ごし、メアリーの孤独をずっと肌に感じながら過ごしていたという。一方でシアーシャは、ピアノや編み物など、当時の裕福な身分の女性が行っていたお稽古事を学んだ。

 ちなみシアーシャふんするシャーロットが劇中で演奏するのは、クララ・シューマン(「トロイメライ」の作曲家として知られるロベルト・シューマンの妻)の曲だが、実はクララ自身も女性の社会進出が進んでいなかった19世紀のヨーロッパで、自らの生き方を貫いた偉大な女性音楽家。さりげなく演奏される曲にまでこうした意味が込められている点も要注目だ。このように妥協を許さない監督と、ボディダブルやハンドダブルに頼らない女優たちの強いこだわりが生んだ真実味が、全編を通してスクリーンに漂っている。■観客も一緒に体験させる、こだわりのカメラワーク

 本作の撮影監督を務めたのは、『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』や『はじまりへの旅』で知られるステファーヌ・フォンテーヌ。彼は撮影に入る前にリー監督と話し合いを繰り返し、“寄り添い”をテーマに映像を作ることを決めたという。
物語はすべてメアリーの目を通して描かれており、観客も彼女と共に体験していくようになる。また光が物語のキーポイントにもなっており、暗く無感情なメアリーの世界に、シャーロットが放つ独特の光が差し込み環境が転じていく様子を描写している。

 そして、2人の生きる世界についても映像でわかりやすく説明。メアリーは労働者階級の女性で、窓が少なく、暗くて、居心地の悪い閉ざされた空間に住んでいる。それに対し、シャーロットの住む世界は光に満ちていて、物事から逃れるための空間が十分にあり、彼女の生きる世界では「選択」が許されるということが分かるようになっている。それぞれのキャラクターに寄せて、異なる内的世界と外的世界の対比が見事に表現されているカメラワークにも注目したい。

■“美しいだけじゃない”メアリーの故郷での撮影

 本作の大部分は、メアリー・アニングが一生を過ごしたイギリス南西部の町ライム・レジスで撮影された。実際にメアリーが生きていた環境で撮影することは、キャストとスタッフにとって大きな助けになったという。

 撮影前にライム・レジスを訪れたというリー監督は「ライム・レジスの風景は私の感情を揺さぶり、絶え間なく引いては満ちる海には常に威嚇を感じた。まるで死の感覚だ。メアリーはこの風景の中を歩く。ぬかるんでいて、汚く、寒くて危険なんだ。
この風景がいかに人物を形つくるのか考える必要があったから、実際に化石採集もやってみた。四六時中、腰をかがめて地面を見つめる。あたりを見回して“なんと美しい日だ!”とはならない。うつむいてばかりなんだ。この経験を通して、メアリーは顔を上げることのない人物だと私は考えた。地面に埋まるようにしている人物だと」と振り返る。

 田舎育ちで自然の厳しさを知るリー監督は、前作『ゴッズ・オウン・カントリー』と同様に、決して自然を美しく描くだけでは終わらせない。ケイトも冬の海の寒さに震えながら撮影に挑み、化石採集の難しさを文字通り体を張って体現している。■ケイトが語る、今『アンモナイトの目覚め』を作る意義

 なぜ今メアリー・アニングの物語を映画にする必要があるのか、ケイトはこう語る。「今日、いまだかつてないほど、女性が他の女性に関心を持っている。それは見た目や気分ではなく、女性自身が持つ『声』に関心を持っているということなの。長い間、女性は批判の対象だったし、今でもそれは続いている。
だからこそ、歴史に名を刻んだ偉大な女性の存在が大事。今、女性の歴史は変わろうとしている。この上なく素晴らしい傾向だと思う。仕事でも男性と対等になってきた。メアリーのような女性たちの存在があるからこそ、私たち女性は自分の声に従おうという気になるの。メアリーは従順なタイプではないし、誰かに支配されることもない。自分の存在を否定することも一切ない。女性みんなが彼女のような側面を持つべきだと思う。今まで経験したことがないほど、役からインスピレーションをもらった。この業界に入ってもう26年も経つというのにね」。

 本作は時代劇ではあるが、ただ過去の出来事を見せているだけでなく、現代を生きる人々に向けたメッセージがしっかりと描かれている。歴史にかき消されてしまった女性の生き方から、芯を持ち自分らしく生きるヒントなど多くのことを学べる作品となっている。


 映画『アンモナイトの目覚め』は4月9日より全国順次公開。

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