2021年の国内映画興行収入ベスト10(2021年12月20日現在/推計概算)が興行通信社より発表された。昨年に引き続き、世界的な新型コロナウイルス感染拡大で多大な影響を受けた映画業界はどんな傾向があったのか――。
ランキングを元に総括していく。
【写真】アニメ作品が3年連続年間トップ! 2021年興行収入トップ10
■アニメーション強し! 3作品が上位独占
栄えあるランキング1位に輝いたのは、2007年から『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』として始動したシリーズ9年ぶりの新作にして最終章となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。2021年3月8日から約4ヵ月のロングラン上映が続き、最終的には2012年公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の興収53億円の2倍に迫る102.8億円という数字を叩き出した。
2007年9月に公開されたシリーズ最初の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の興収が約20億円だったことを考えると、約5倍という驚くべき結果となった。国内の歴代興収は35位。当初は決して間口が広いとは言い難かったアニメ作品が14年という長い歳月を費やし、徐々にファン層を広げていったことは異例とも言えるだろう。ちなみに2019年以降、3年連続でアニメーション作品が年間ランキングトップに輝いている。
2位の『名探偵コナン 緋色の弾丸』は76.5億円という結果に。ゴールデンウィーク映画の風物詩となっている劇場版シリーズだが、昨年は新型コロナウイルス感染拡大により公開を1年延期。満を持して2021年4月16日に公開されたが、不運にも10日後となる4月25日から5月11日まで東京・大阪・京都・兵庫の4都府県で3度目の緊急事態宣言が発出。ゴールデンウィークという大きな動員が見込める期間に大型シネコンが軒並み休館となってしまうなど、大きなハンデを背負った。それでも76億円超という数字を記録しており、完全に国民的アニメーションという地位の確立を印象づけた結果となった。
3位は細田守監督最新作『竜とそばかすの姫』(現在上映中)が、細田監督アニメーション映画史上最高興収65.4億円を記録しランクイン。本作はカンヌ映画祭「プルミエール部門」に日本映画として唯一選出され、細田監督も現地入りするなど、コロナ禍でも映画という共通言語で“世界とつながっている”ことをアピールできた。なお、2019年は『天気の子』、2020年は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が日本の年間興収1位を獲得しており、今年は1~3位がアニメーション作品と“アニメ強し”の日本映画界を象徴するようなランキングとなった。
■実写ナンバー1は『東京リベンジャーズ』
4位から8位までは邦画の実写作品がランクインした。4位の『東京リベンジャーズ』は、週刊少年マガジンで連載中の和久井健の人気コミックを、英勉監督で実写映画化した作品。同時期にアニメーションも放送されるという相乗効果もあり、実写映画ではナンバー1となる興収44.7億円を記録した。同じワーナー・ブラザース映画配給の『るろうに剣心』シリーズ第1作目の最終興収が30.1億円だったことを考えると好成績を挙げたと言える。テレビアニメの新作も決定しており、実写版の続編を望む声も日に日に増している。
続く5位には、『るろうに剣心』シリーズの最終章2部作の前編にあたる『るろうに剣心 最終章 The Final』が、興収43.4億円を記録しランクイン。本作の公開日は2021年4月23日。『名探偵コナン 緋色の弾丸』でも触れたが、3度目の緊急事態宣言の2日前という非常に厳しい時期での公開は大きなハンデとなった。特に本作は、1ヵ月半後に後編となる『るろうに剣心 最終章 The Beginning』の公開が決まっていたため、大都市の約2週間に渡る劇場休館による影響は計り知れない。
作品のクオリティが最高レベルのものだっただけに、より大きな数字が挙げられなかったことが残念でならない。
■『花束みたいな恋をした』の偉業
実写映画の注目は、7位にランクインした『花束みたいな恋をした』。2021年1月29日から全国350館で上映された本作は、公開から6週連続で映画動員ランキングトップという記録を打ち立てる。2021年の年間興収ランキングベスト10の配給会社は、東宝5作品(『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は東映/カラーの共同配給)、ワーナー2作品、東宝東和、松竹と大手ばかりの中、東京テアトル/リトル・モアというインディペンデント系の配給会社の作品が38.1億円という結果を残したことは大きなトピックスだ。
公開時350館というのは、東宝や東映などいわゆるメジャー配給会社作品と同等の公開規模。こちらは『花束みたいな恋をした』が公開された時期に、国内大手や海外メジャー作品が公開延期になっていたという事情があるためタイミングの都合もあるが、興収は公開劇場数が多ければ良いというものでもなく、作品のテイストと公開規模が一致しないと集客は延びない。その意味では、純粋に映画に多くの人を惹(ひ)きつける力があったと言えるだろう。
■洋画ファンが『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』で熱狂!
洋画で今年唯一ランクインしたのが、興収36.6億円を記録した9位の『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(上映中)だ。2001年に公開された『ワイルド・スピード』から9作目となる本作は、8月6日に封切られるとオープニング興収で10億円を突破するなど、洋画ファンを熱狂の渦に巻き込んだ。
2021年末から2022年前半にかけては、12月18~19日の映画動員ランキングで首位を獲得した『マトリックス』シリーズ18年ぶりの新作『マトリックス レザレクションズ』をはじめ、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『ゴーストバスターズ/アフターライフ』『ウエスト・サイド・ストーリー』『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』など、洋画の大作も控えている。
日本では現在、小康状態を保っている新型コロナウイルス感染症だが、海外を見るとまだまだ予断を許さない地域も多い。2022年も規制されることなく、思う存分映画館で作品を楽しむ状況が続くことを願うばかりだ。
(文・磯部正和)
■2021年全国映画興行収入ベスト10
第1位:『シン・エヴァンゲリオン劇場版』102.8億円
第2位:『名探偵コナン 緋色の弾丸』76.5億円
第3位:『竜とそばかすの姫』65.4億円(上映中)
第4位:『東京リベンジャーズ』44.7億円
第5位:『るろうに剣心 最終章 The Final』43.4億円
第6位:『新解釈・三國志』40.3億円
第7位:『花束みたいな恋をした』38.1億円
第8位:『マスカレード・ナイト』37.9億円(上映中)
第9位:『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』36.6億円(上映中)
第10位:『ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”』35.6億円(上映中)
※12月20日現在(推計概算)
※興行通信社調べ
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