「おでん」「うどん」「刺身」など韓国で通じる日本語は意外に多いが、「お元気ですか?」も実はその一つ。食べ物などが日本語のまま通じるのはわかるが、挨拶言葉である「お元気ですか?」を韓国人の多くが知っているのには、ちょっと変わった理由がある。



 3月8日に放送された人気バラエティ番組『スーパーマンが帰ってきた』に、在日韓国人であり、いまや韓国で家族そろって人気の格闘家・秋山成勲が出演した際のこと。北海道のスキー場で秋山と娘のサランちゃんに、妻でモデルのSHIHOが「お元気ですか?」と叫び、視聴者の笑いを誘ったという。日本人からすると不思議な光景だが、これはとある映画を“パロッた”もの。その映画とは、ちょうど20年前、全盛期の中山美穂が主演した岩井俊二監督作『Love Letter』。日本でも有名な映画ではあるが、いま日本でこの光景をパロディと気付く人は、ほぼいないだろう。ずいぶん前の作品にもかかわらず、しかも隣国でこれほど“特別な映画”であることは意外に知られていないかもしれない。
韓国のネットには「韓国人が最も好きな日本人監督は岩井俊二」とまで書かれていたりする。

 『Love Letter』が韓国で公開されたのは、1999年11月。その前に、韓国で一般公開となった初の邦画は、ヴェネツィアで金獅子賞を受賞した北野武監督作品『HANA-BI』。同年に黒澤明監督の『影武者』も公開されている。それに続いた『Love Letter』はファンタジックな内容ながら、より日本の日常のムードを感じられる作品だったのではないだろうか。いま以上に“近くて遠い国”という関係性、“知りたくても知ることのできない国”という状況下で、韓国にとってのファーストインパクト的作品こそが『Love Letter』だったのかもしれない。
黒澤映画も北野映画も邦画には違いないが、より“普通の日本”を想像させたであろう『Love Letter』は、動員140万人と当時としてはかなり異例の、そして日本を超える大ヒットを記録。岩井監督も予想だにしなかったであろうが、今でも韓国でパロディCMが作られるほど影響力があり、韓国人の記憶に残る名作と位置付けられている。

“韓流”の象徴的ドラマ『冬のソナタ』などから逆算して考えると、あの手の作品の作り手たちは『Love Letter』を邦画オールタイムベストに選びそうな気はする。全体的に霧がかかったような白く淡い映像のように、どこか奥ゆかしくあいまいな情緒は日本的であり、“洗練された作風”として映り、後の韓国映画やドラマにも影響を与えたのではと思わせる。

スタッフやキャストなどの詳細は明かされていないが、『Love Letter』は今年の下半期には韓国ドラマとしてリメイクされることが決定しているという。また、先月末から3月初旬にかけて韓国で開催された第4回マリ・クレール映画祭には、岩井俊二監督が招待されて『リリイ・シュシュのすべて』など数作が上映された。


 果たして、リメイクドラマ版は一体どのように仕上がるのか? これだけ愛される映画なだけに、時を超えた“ラブレター”なレスポンス作品になることを願う。
(文=梅田ナリフミ)