“青春の墓場”を求めて、埼玉生まれのヒップホップグループ「SHO-GUNG」が東北道を旅する『SR サイタマノラッパー~マイクの細道~』。前回に続いて岩手県遠野を舞台にした第5話は、TVシリーズ前半戦のクライマックスとも言えるエロスと超常現象をラップでひとまとめにしたおかしなおかしな祭典となった。



 トラック運転手のカブラギ(皆川猿時)に奪われていたスマホをようやく返してもらったIKKU(駒木根隆介)たちは、2週間後に川崎クラブチッタで行なわれるライブイベントの出演者の中に「SHO-GUNG」の名前を見つけ歓喜する。クラブでライブデビューすることが、彼らの夢だったので、第2話から第4話まで続いた“夢はじまり”は今回はなし。後はクラブチッタ出演が“夢オチ”にならないことを願うばかりだ。

 ライブ出演が決まったからには、一刻も早く川崎に向かいたい。ところが独身生活の長いカブラギは雪(中村静香)のことをすっかり気に入り、どぶろく屋に婿入りしてもいいアピールを朝食の席で繰り返す。このままではいつまでも遠野で足止めをくらい、しかもMIGHTY(奥野瑛太)はカッパの神様の呪いでチンコ痛に悩まされたままだ。


 いつもは長いものには巻かれろ気質のTOM(水澤紳吾)だが、このときのTOMは違った。カブラギの耳元で「昨晩、いいものを見ましたよね」と囁く。雪の入浴姿を窓から覗き見していたことをネタに、カブラギを脅すTOM。自分もしっかり見てたくせに。TOMもだてに性風俗店が乱立する北関東でおっぱいパブやガールズバーで働いていたわけではなかった。面倒くさいオッサンたちを懐柔するノウハウを身に付けていた。
あの頼りなさが身の上だったTOMが、何だか少しだけ輝いてみえる。クラブチッタのステージに立つという明確な道が見えてきたことで、日和見主義のTOMも変わってきたことを感じさせるエピソードだ。

 一行はMIGHTYがカッパの神様から呪いを掛けられた「めがね橋」へと再び出向き、カッパの神様の怒りを沈めようとする。ここで一行が思い出したのは、雪のおじいちゃん(樋浦勉)が口にしていた「歌は祝い、歌は呪い」という言葉。IKKUたちが魂を込めたリリックを放つには、やはりラップしかない。「カッパとラッパー、俺たち仲間です~♪」とTOMがラップで呼び掛けるが川面は静かなまま。
そこへ「遠野のカッパはエロカッパで有名だ。必要なのはエロコミュニケーションだ」と訳知り顔で現われたのは、自称「遠野出身で、いちばん有名なラッパー」の溝口(松尾諭)だった。

 IKKU役の駒木根隆介、カブラギ役の皆川猿時、そして『シン・ゴジラ』(16年)の「君が落ち着け」の名台詞で一躍有名になった松尾論。小太り系の男優がやたら多い『マイクの細道』。重心が低い彼らが出ていることで、ドラマ自体も地に足が着いた印象を受ける。あんこ型の彼らは都会では暑苦しくても、雪国にはよく似合う。
そういえば数年前、体重100kgある巨漢ばかり集まった男性ボーカルグループ「デブ・レパード」が存在したけど、彼らは今どうしているだろうか。

 溝口にレクチャーされ、エロカッパを振り向かせるためには女の子の力も必要なこと知るIKKUたち。「SHO-GUNG」vs伝説の妖怪・河童! 『SR サイタマノラッパー~マイクの細道~』の世界が、白石晃士監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!【人食い河童伝説】』とリミックスされていく。そんな溝口の話を聞きながらも、地元名物ほうとうに舌鼓を打つIKKU。これまでにも『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)では宇都宮ギョーザを、『マイクの細道』の第1話、第2話ではマグロ料理を黙々と平らげたIKKUだが、ここにきて「ほうとうが胃の中に入ると体が芯からポカポカする。これはハッピーのマグマだ」と彦摩呂ばりに言葉が口からこぼれ落ちてくる。
どうやらIKKUもライブに向けて、トドのような体の中を様々なリリックが駆け巡っているようだ。

 溝口の助言に従い、カッパにまるで興味のないトーコの機嫌をとろうと必死な「SHO-GUNG」。伝説のタケダ先輩(上鈴木伯周)に曲を作ってもらうために頭を下げたこと以外、まともに他人にお願いをしたことのないIKKUも低姿勢で年下のトーコに接する。夢を実現するためには、つまらないプライドは邪魔になるだけ。旅を続ける中で、MIGHTYもTOMもIKKUもそれぞれが少しずつ変化を遂げている。

「よく見たら、二階堂ふみに似ている」とトーコのことをヨイショするMIGHTY。
ここでトーコを演じている山本舞香情報を。山本舞香は1997年生まれの鳥取県出身。宮沢りえ蒼井優夏帆らを輩出した「三井のリハウスガール」として2011年にCMデビュー。くっきりしたつぶらな瞳は、確かに二階堂ふみを彷彿させる。入江悠監督は『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)、『日々ロック』(14)と二階堂ふみをヒロインに起用しおり、この系統の女優が好みらしい。『マイクの細道』ではヤンキー役の山本舞香だが、初主演映画『ノ雨』(16)では奥手な女子高生役を繊細に演じており、女優としての将来性を感じさせる逸材なのだ。

 そして、いよいよシリーズ前半戦の総決算となる「めがね橋」ライブの開幕。河原に祭壇とキュウリを用意し、「SHO-GUNG」に加え、雪の元彼であることが判明した溝口もMCとして参加。溝口はラッパーを目指して遠野から東京に出たものの、夢破れて帰ってきた。雪と寄りを戻し、どぶろく屋の借金を2人で返していくという。溝口にとっては、これがラップ納めだ。さらに溝口と復縁してご機嫌な雪、いやいやながらトーコもダンサーを務めることに。

 IKKUたちが新しい自分たちの歌を見つける旅でもある『マイクの細道』。今回はロケ地が遠野ということもあり、民俗学的な視点から音楽や芸能というジャンルのルーツを探っていくことになる。溝口によれば、この奉納ライブは「天岩戸」伝説みたいなものだという。「天岩戸」は日本神話のひとつで、“太陽神”アマテラスオオミカミがご機嫌ななめ状態で岩戸の中に引き篭った際、困った他の神さまたちはアメノウズメを岩戸の前で歌い踊らせてアマテラスオオミカミを誘き出したという。「天岩戸」伝説は芸能・お祭りの事始めであり、アメノウズメは日本芸能界における芸能人第1号でもある。その「天岩戸」伝説を、遠野のエロカッパを相手に再現しようというのだ。

 雪のおじいちゃんが言っていたように「歌は祈り」であり、「歌は呪い」でもある。歌は人々に刹那的に夢や希望を与え、ささくれた心を癒してくれる。だが、ドラッグの過剰摂取と同じで、歌の世界で描かれた夢や運命の恋人探しに取り憑かれてしまうと、下手すれば一生を台無しにしかねない。心に響く歌や言葉は薬にもなるが、使用方法を誤ると中毒症状に陥ってしまう。曲がりなりにもMC(マスター・オブ・セレモニー)を名乗るのなら、そのことは肝に銘じておきたい。MIGHTYのチンコに掛けられた呪いを解き、溝口の東京で破れた夢を供養するため、「SHO-GUNG」withミゾグチ&YUKI+TOKOの一度かぎりのセッションが始まる。

「歌え、祝え、祝え、呪え♪」と溝口が煽り、「SHO-GUNG」のメンバーがマイク代わりのキュウリを手にフリースタイルのラップを繋げていく。バックで踊っている雪の弾けっぷりがいい。さすが中村静香、初代ドロリッチガール! たわわなバストが右へ左へとウェーブを奏でる。ノリノリの雪に感化され、やる気のなかったトーコもグルーヴに身を委ね、体を揺らし始める。これまで一度も笑顔を見せたことのないトーコが、踊りと共に初めて明るい表情を見せた。「SHO-GUNG」と溝口だけでなく、実家からずっと離れることができずにいた雪もトーコも、胸の奥に仕舞い込んでいた感情が澱のように溜まっていた。そんな淀んだ感情が、セッションの盛り上がりと共に浄化されていく。

「プチョヘンザ~♪ カッパヘンザ~♪」

 雪とトーコのダンスに引き寄せられ、カッパの神様がついに出現。カッパの神様は頭の上の皿を「キュキュッ」と鳴らし、「SHO-GUNG」たちのステージに応えてみせる。そして一陣の風と共に、めくれ上がる雪とトーコのスカート。トーコのパンティーはピンク、そして雪は名前の通り純白のパンティーだ。白そろって、縁起がいい。カッパの神様も大満足。かくしてMIGHTYのチンコの呪いは収まった。ドントハレ~♪

 雪山に残したトラックを修理していた間に、ふいに現われた溝口が雪のハートをがっちりゲットしたことを知って、どよ~んと落ち込むカブラギ。そんなカブラギの背中をバンバン叩きながら「また、いい人に出逢えるから大丈夫だって」と励ますトーコ。ヤンキー娘トーコがすごくいい女に思えてくる。

 遠野民話の終わりの決め文句「どんと晴れ(めでたし、めでたし)」のような大団円を迎えた第5話。だが、最後の最後に意外な事実が明らかになる。溝口も伝説のタケダ先輩を知っており、しかもまだ生きているという。タケダ先輩は実は双子の兄弟で、『SR1』で亡くなったタケダ先輩はヤングタケダであり、お兄ちゃんが福島で暮らしているとのこと。オープニング映像に登場していたタケダ先輩は幽霊ではなく、お兄ちゃんだったのだ。『仁義なき戦い』シリーズの松方弘樹、『男たちの挽歌』シリーズのチョウ・ユンファもびっくりな急展開。

 クラブデビューという目標が定まり、旅の途中のトラブルで結束力を固めた「SHO-GUNG」。あと彼らに必要なのは、新しい彼らに相応しい新しい曲である。次回、新しい出逢いとさらなる試練が待ち受ける福島編への期待が高まる。
(文=長野辰次)