群馬大・大学院保健学研究科の江本正志教授が、論文の不正疑惑で解雇された。責任・筆頭著者を務めた2008~10年発表の論文4本で実験データの改ざんなどが多数確認されたというのだ。

さらに大学側は、江本氏がTwitterでハンドルネームを使い、群馬大や学生を中傷する書き込みをしていたとも認定。同氏はいずれも否定しているが、ネット上で蒸し返されたのは過去の珍騒動だ。

 12年ごろ、矢吹樹なる名義のTwitterが「放送大学を卒業して教授になっている人がいるけど、これってありですか?本当の大学を卒業していないのですから、大学というもの自体を理解していないと思うのですが…。こんな教授に教わる学生がかわいそう」などと書いたところ、「放送大学は正式の大学ですが」と反論され、さらに「そういう質問をすること自体が、放送大学なんですよ。違いがわからない人間が大学の教授にはなってはいけないということです」と投稿。すると反論者は「私は学長です」と回答。
こちらは東大名誉教授としても名高い、放送大学の岡部洋一学長だったのである。

 実名を明記していた岡部学長のことも知らずに、いちゃもんを付けた矢吹なる人物は大恥をかいた形だが、その後にネット上で、それが江本氏のハンドルネームだとされて大騒ぎとなったのである。

 当時、Google検索急上昇ワードランキングで江本氏の名前が、桐谷美玲、小室哲哉らを抜き、1位になったほどだ。

 その後に持ち上がったのが論文不正や中傷疑惑だったのだが、江本氏は「節電を要求され、研究を邪魔された」と、大学に損害賠償請求訴訟を起こし真っ向から対立していた。

 そこで当の江本氏に話を聞いてみると、矢吹樹なる名義のTwitterは「自分のものではない」とキッパリ否定した。

「Twitterでの書き込みをしたのは私ではございません。
書き込みをした人物はわかっており、謝罪文も、大学側そして裁判所に提出しています」(江本氏)

 江本氏はかつてブログに「僕には、本名に加えて芸名とペンネームの3つの名前があります」と書いていたが、矢吹樹が江本氏のものでなかったのなら、過去の騒動もとんだ風評被害になる。江本氏はさらに、今回の不正疑惑についても「大学側の嫌がらせ」だと真っ向から否定した。

「私が改ざんをしたわけでも部下や学生に指示したわけでもございません。これは調査の段階で明確になっているのです」(江本氏)

 驚いたことに、江本氏は一時期、大学内部の不正に関して告発をしており、今回の処分はその報復である可能性があるという。告発の中には、過去、群馬大大学院の入学試験で、面接官の女性教授が学生にアカハラをしていたとするものがあり、実際に学生が女性教授から罵倒され、不眠症やうつ病になったという話をしていたが、この話について大学側は「事実ではない」と主張していた。

「嫌がらせは私だけでなく、妻も群馬大学病院での医療過誤により、とんでもない目に遭わされたので、裁判所を通じカルテの差し押さえも行っています。
私の学生にも嫌がらせがあって、大学側がそれをもみ消した経緯もあるんです」(江本氏)

 群馬大の大学病院では、11年から14年に腹腔鏡を使った高難度の肝臓手術を受けた患者100人うち8人が死亡し、執刀したのがいずれも同じ医師であったことが大問題となっているところだ。

「(大学は)とにかく腐りきってます。それを正そうとしたことの積み重なりで、このような報復措置に出たということです」と江本氏。過去にブログでは「“真実を報告する”それが私のモットーです。嘘をついて自分の論文がレベルの高い雑誌に掲載されても意味がありません(科学者として失格です)」とも書いており、その姿勢とは真逆の不正論文での処分。これには大学関係者からもこんな話が聞けた。


「江本先生がペンネームで書いていた話の多くは確かに群馬大の内部告発で、不正やハラスメントがたくさん書かれてました。内部告発をして潰されたんじゃないかと見ている人はいます」

 江本氏はブログで「自分のテーマソング」としてボクシングアニメ『あしたのジョー』の主題歌を挙げていた。同アニメの主人公は矢吹ジョーであり、奇しくも矢吹樹と酷似。これも江本氏を陥れるための罠だったのだろうか。

 江本氏は「私のハングリー精神(叩かれても叩かれても起き上がる精神)はボクシングに由来」とも書いていたが、大学からの厳しい処分はフェアな“判定”だったのか、それとも……。
(文=片岡亮/NEWSIDER Tokyo)