昨年10月、ハリウッドの映画プロデューサー・ハーヴェイ・ワインスタイン氏の性的スキャンダルが明らかになったことで、「#MeToo」という言葉をキーワードにSNS上でセクハラやパワハラ被害を告発する動きが、世界的な広がりをみせている。

 そんな中、残虐な性犯罪が多発しているインドで開催された「ノイダ国際映画祭」で、審査員特別賞を受賞した話題の日本映画『私は絶対許さない』が4月7日に公開される。



“15歳でレイプ被害に遭い、男性への復讐を誓う”という、実在の女性の手記を原作に、精神科医でもある和田秀樹監督がメガホンを取ったこの作品。主演に選ばれた女は、この役とどのように出会い、向き合い、そして闘ったのか。公開を前に、彼女の魅力に迫った。

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――本作に主演することになった経緯を教えてください。

平塚千瑛(以下、平塚) 2016年の9月に初めての写真集『Birth』(双葉社)を出させていただいて、その写真集を新聞や週刊誌に載せていただく機会が増えました。その記事を見た映画のスタッフの方から、「オーディションを受けてみないか?」とお誘いを受けたのがきっかけです。


――最初に原作(『私は絶対許さない。15歳で集団レイプされた少女が風俗嬢になり、さらに看護師になった理由』著:雪村葉子/ブックマン社)を読んだ時は、どのように感じましたか?

平塚 この本を読んでいて、心が痛くなり、「これは本当に起こったことなのだろうか?」と初めは信じられませんでした。でも、同じ女性という立場から「女性がこういった性犯罪に遭っているということを、もっと世の中に知ってもらわなければいけない」と感じ、ぜひとも主演をやらせていただきたいと思いましたね。

■「運命を感じた主人公との出会い」



――オーディションで平塚さんが選ばれたのは、どのような点を評価されたのだと思いますか?

平塚 原作者の雪村葉子さんにお会いしたんですが、雰囲気や話している感じ、顔まで私によく似ていたんです。雪村さんご自身も「平塚さんて私に似てますよね」と言ってくださいました。

 それと、不思議なことなんですが、作中で主人公「ようこ」が源氏名を次々変えていくんですね。

最初に「かおり」と名乗り、次が「ちあき」なんです。実は私の母が「ようこ」で、姉が「かおり」、それで私は「ちあき」じゃないですか。もう運命しか感じなかったです。

――まさに、“出会うべくして出会った役”という感じですね。

平塚 はい。雪村さんにもそのお話をして、打ち解けることができました。


――映画は「主観撮影」(主人公の目線で映像が撮られている)を用いられていますが、具体的にはどのように撮影していたのでしょう?

平塚 撮影監督の高間(賢治)さんが私のすぐ横にいて、相手の俳優さんがカメラ目線で演技をするという手法です。カメラを固定する棒のようなものを高間さんが私の隣で持ち、カメラ本体は私の顔の前に来るようにして撮影しました。全ての動きを高間さんと二人三脚で行うので大変な撮影でした。そして主観撮影のためカメラに私は映っておらず、声だけの演技も多くて、大変難しかったですが本当に勉強させていただきました。

――「特にこんなシーンを注目して欲しい」というところはありますか?

平塚 女性と男性で別々にあるんです。女性の方には、初めは彼の葉子に対する思いが愛情だと信じて受け入れるのですが徐々にその思いが歪んだ愛情だという事に気づき、この人といたら駄目だと気付く瞬間。
男性には、エンディングのシーンを見て、“女性の強さ”、“怖さ”を感じて欲しいです。

 このエンディングは、見る人によって、ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか分かれると思うんです。ただ、実際に演じた私は「葉子は幸せな道を歩んでいる」と感じました。

 雪村さんとお会いしてみると、あのような痛ましい被害に遭っているとは思えないほど、周囲を和やかにしてくれる女性なんです。もう、「ここまで自分の心を殺して頑張って強く生きてきた葉子さんが幸せにならないんだったら、誰が幸せになるんだ」って思いました。

 実は、映画出演にあたり、同じように性被害に遭ってトラウマを抱えている方から、「映画を見に行こうと思います」という話を聞いたりしました。
もしかしたら、映画を見ることで過去の傷をえぐってしまうかもしれないという思いもあるんです。でも、最後まで見てもらいたいです。どんな境遇にも負けず、常に世の中の理不尽や非常識と闘いながら生きてきた雪村さんから勇気をもらえると信じています。

 それは「性被害」ということだけにとどまらず、すべての人に「生きていく強さ」を教えてくれていると思うんです。

――体を張ったハードなシーンが多かったと思います。やはり、辛いこともありました?

平塚 最初に風俗でのシーンを撮影したんですが、なかなかメンタルが追いついていかなくて……カットがかかった瞬間は涙が止まらなくなりました。
緊張なのか不安なのか恐怖なのかわからない、そんな感情でした。でも、その分得るものは大きくて、今回の演技を通して、自分の中で一皮も二皮もむけたと思っています。

――佐野史郎さんと一緒のシーンが多いですが、どのような方でしたか?

平塚 私があまりに緊張しっぱなしだったので、「そんなに緊張しなくていいんだよ」と言っていただいて。もうすべて身を任せる感じで演じていました。佐野さんの役柄もとにかくドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)の冬彦さんと重なり、現場にいてもゾクゾクするような演技を目の当たりにして、とてもいい経験をさせていただきました。

――他の共演者の方はいかがでした?

平塚 隆大介さんと東てる美さんのサービスエリアでの喧嘩のシーンを撮影している時に、一般のお客さんが止めに入るぐらいの迫真の演技をされていたんです。その演技力に圧倒されて、「これが演じるっていうことか」と硬直するくらい感動しました。

 他にもとにかく個性の強い役者さんばかりでしたので、みなさんと一緒にこの作品に携われたことはこれから女優業を歩んでいく私にとって財産になりました。

――作品では前半の舞台が東北ですよね。平塚さんご自身も山形の出身ということで、何か通じるものはありましたか?

平塚 現場の和室のシーン、親戚が集まっている様子などは実家を思い出しましたね。噂がすぐに広まってしまうところとかも「分かるなぁ」と思って(苦笑)。

――映画で、葉子は過去を捨てて上京するわけですが、平塚さんが上京した時は、どのような気持ちでしたか?

平塚 私は24歳の時に地元でスカウトされて上京したので、「人生一回だし、東京に行ってみよう」というような感じでした。その時はそんなに強い思いや意気込みのようなものはありませんでした(笑)。

――主人公・葉子にとって「男性」とはどういう存在だと思われますか?

平塚 自分を傷つけた男性のことは、今でも殺したいと思っていると思います。ただ、その思いを前に進むパワーとエネルギーに変えるのもまた、男性相手の性風俗の仕事だったりするんですよね。生きていくための手段として必要な存在だったと思います。

――インドの「ノイダ国際映画祭」では、審査員特別賞を受賞しましたね。

平塚 インドは性犯罪がとても多いと聞いています。特に幼児の強姦とか輪姦が日常茶飯事に行われていると聞きました。その国で賞をとれたのは大変意味のあることだと思います。インドの性犯罪を減らすことに役立てればなと思います。また、日本でも、子どもたちを守っていく立場の家族や公的な機関、NPO団体の方などに見ていただきたいです。

――今回の役柄もそうですが、平塚さんは、外見でクールに見られがちですよね。

平塚 そうなんです。もう、それで損しかしていない(笑)。怒ってるわけでもないのに、「怖そう」とか「近寄りがたい」と思われて。「話してみたら全然違う」ってなるんですけどね。

 一時はだいぶ試行錯誤していて。ボケてみたり、最初からヘラヘラしてたりもしたんです。でも、「逆に怖い」「変!」って言われてしまって(笑)。最近はインタビューなどでお話をする機会が増えたので、以前ほどは冷たく見られなくなりました。

■「ファンの方がお父さんよりも好き」



――グラビアや舞台でも活躍されていますが、それぞれ意識することに違いはありますか?

平塚 全然違いますね。グラビアは、カメラマンさんと一対一で作り上げるものですが、映像のように、そこに演技が入ってくると全くの別物になります。

 舞台は、お客さんの反応も含めて一番演技の勉強になります。舞台で得たことがギュッと詰まったものがドラマとか映画に反映されるのかなと思っています。

 今、肩書としては「グラビア女優」としているんですが、需要がある限りグラビア活動も続けていきたいです。あとは、「これ」と決めてしまわずに、いろんなことに挑戦したいですね。

――今後、女優として演じてみたい役はありますか?

平塚 今まで演じてきたのが、激しい女性の役が多かったので、今回のようにトラウマを抱えている女性など、これまで経験したことがない役を演じてみたいです。コメディも大好きなので、そんな演技もしてみたい。韓国のアイドルグループ・2PMのチャンソンさんの映画『忘れ雪』(2015)では掃除のおばさんの役をやりました(笑)。とにかくたくさんの役を演じて、一人前の女優になっていきたいです。

――撮影会などでファンの方と触れ合うことも多いと思いますが、平塚さんにとってファンはどのような存在ですか?

平塚 私のファンは、どんなお仕事をしても「やったね!よかったね!」と肉親のように喜んでくれるんです。ずっと昔からファンでいてくれる方もいて「まだファンでいてくれるんだ」と感動するほどです。私、ファザコンなんですけど、お父さんよりも大好きです(笑)。

 今回の映画を見てファンになってくれる方がいらっしゃれば嬉しいです。全国いろいろなところに舞台挨拶で伺いたいですね。

――平塚さんの意外な一面として、アイドルユニット「A応P」のファンだと伺ったのですが。

平塚 はい。アニメの『おそ松さん』(テレビ東京系)を見ていたら、彼女たちのPVが流れて、それを見て一目惚れしました。残念ながら推しの子は卒業してしまったのですが、今は研究生で新たな推しを見つけたので、そちらを応援しています。もう親心みたいな感じです(笑)。前回のツアーが舞台と重なって行けなかったので、次のツアーは東名阪を追いかけようかと思っています。本当にミーハーなんですよ、私……(爆笑)。

――最後に、これから映画を見る方にメッセージがあればお願いします。

平塚 この映画が実話であるということ、そして性犯罪に遭われて苦しんでいる方がたくさんいるということを知っていただきたいです。そして、被害者の方々が声を上げられる世の中になって欲しい。もし、同じように辛い思いをしている人がこの作品を見て、「自分も強く生きよう」と思い、そして幸せな人生を生きてくだされば本望です。

 男性の方には、これから伴侶になる方が同じような苦しみを抱えていたら、守ってあげてほしい。女性に優しく接してあげてほしいなと思います。

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 170cmの身長と、抜群のスタイル、そしてクールなルックス。ハードな役柄を演じきった彼女の素顔は、驚くほどしなやかで正義感にあふれるものだった。

 自分に壁を作らず、どんなジャンルにでも挑戦していく強さ。映画主演というハードルを越え、新たな世界に踏み出した彼女のこれからの活躍が期待される。
(取材・文=プレヤード)

●平塚千瑛(ひらつか・ちあき)
1986年生まれ。山形県米沢市出身。24歳の時に地元でスカウトされ上京。2011年ミス・アース・ジャパン ファイナリスト、2012年ミス・ユニバース・ジャパン セミファイナリストなどを経て、グラビア、女優、バラエティとマルチに活動する。『私は絶対許さない』では、映画初主演となる。 写真集『Birth』(双葉社)発売中。

オフィシャルブログ『今日もありがとう』
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Twitter:@chiaki_Hira2ka



 ■映画『私は絶対許さない』(監督:和田秀樹)
 4月7日から、テアトル新宿ほか全国公開