<実話誌が次々と休刊に追い込まれる昨今、何を間違ったかアングラの世界に足を踏み入れたライター・國友公司(26)が、危ないニオイのするトピックスを徹底取材!>

 情報商材、ネットワークビジネス……。「何もしなくても月100万円稼げる!」など、怪しい儲け話のフタを開けてみれば、だいたいこの2つであることが多い。

もはやこのワードが出てきた時点で相手の顔を張り倒してもいいくらいだが、いまだに騙されてしまう人が絶えない。

 ある日、SNSを見ていると、大学時代の先輩であるヨシダが何やらおかしなことになっていた。ヨシダは卒業後、大学院に通っているはずだが、学校にも姿を見せていないらしい。

「副業でネット広告の仕事を始めて数カ月やったら軌道に乗ってきました。副業レベルではないくらい稼げています。副業に興味がある人、時間がある人、仕事をしていない人。
見ていたら連絡ください。誰でもできるやり方です!」

 ヨシダがおかしくなってしまったことは、すでに大学の後輩の間ではウワサになっているようだ。筆者は迷わずヨシダに「お金がなくて困っています。ボクにもやらせてください」とLINEした。そしてヨシダの案内で、都内のマンションの一室にあるというオフィス(?)へと向かった。ヨシダによると、ルームメイトの友人と一緒に事業を立ち上げたという。
今回はその友人が手取り足取り、“大金の稼ぎ方”をレクチャーしてくれるそうだ。

 インターホンを押すと、中から出てきたのは成り金風の男性2人組。年齢は20代前半くらい。ヘタしたら10代でもおかしくないくらいの見た目である。玄関には2人のものだと思われる、もはや成り金の必須アイテムである“ルブタン”のトゲの生えた靴がある。これから約2時間のセミナー(受講者は筆者1人)を受け、このグループに入るか入らないか、最後に決めてほしいとのことだ。


「今日は誰の紹介でここまで来ましたか?」

 A氏が名簿を取り出して言った。名簿には30人以上の名前があったが、一緒に事業を立ち上げたルームメイトならわかるはずだ。私はヨシダの名前を告げた。

「ヨシダ? えっと、そんな人いたっけなー。あ、いたいた。ヨシダさんね。
はい、わかりました」

 ヨシダの欄に丸をつけ、1対1のセミナーが始まった。セミナーの内容を簡単にまとめると、このグループはオンラインカジノのアプリを対象にした広告業を行っているらしい。例えば、ヨシダがアプリの広告をネット上に出し、そこからユーザーがアプリをダウンロードしてカジノをプレイする。すると、ベットされた金額の5%がヨシダの手元に入るらしい。

 マンションは1LDK。筆者のいるリビングから奥の部屋をのぞくと、ヨシダを含めた若者たちが15人以上狭い空間に詰められ、みな一様に下を向いてスマホを触っていた。
A氏に聞くと「今まさに広告をネット上に張り出している作業の途中なんですよ」とのことだ。さらに、このビジネスの特徴をA氏が続ける。

「あなたがこのグループに入れば、ヨシダさんに紹介料が入るわけだけど、これをネズミ講だと思ってもらっちゃ困る。このビジネスの強みは、誰もがピラミッドの頂点になれるということ。私はいま月収300万円くらいかな。オンラインカジノのアプリが日本に普及すれば、会員全員が年収27億円になる計算なんです」

 このグループのオフィスは全国に20カ所ほどあり、会員はすでに9万人超だという。
もし全員の年収が27億円になったら240兆円ほどになるわけだが、奥にいる人間たちはわりかしマジに捉えているようだ。

“金の稼ぎ方”の解説が一通り終わり、セミナーの本題に入る。「みんなで協力して幸せをつかみ取る」というコンセプトのこのチーム。しかし、このチームに入るためには、そもそも入会金というものが必要になるらしい。プランは2つ。12万円のコースと24万円のコースだ。前者はこれプラス月1万円かかるが、後者は入会金ポッキリで月賦はかからず、ヨシダも後者に入会しているという。

「やりますか?」

 A氏が私に詰め寄ると、奥からヨシダも飛んできた。もちろん、入会するはずがない。

「お前、お金がないんだろ? よく『お金がないからできない』って人がいるけど、お金がないからやるんだろ。こんなことでビビっているような人間は、この先、一生貧乏人だからな? ヨシダさん、コイツやらないってさ」

 ヨシダが5歳以上も年下のA氏にそう言われ、申し訳なさそうな顔をしている。あとで“使えねえな”などと罵倒されるのだろうか。マンションを出る際、用を足そうとトイレの扉を開けると、カギを掛け忘れていたのか、OL風の女性が小便をしながらスマホを必死にいじっていた。こりゃ、ダマされても仕方がない……。

 マンションから駅までヨシダと歩く。これでも大学時代、ヨシダにはだいぶ世話になった。一緒に草野球チームを作り、共に汗を流したりもした。

「ヨシダさん、SNSにあんな投稿しちゃマズいですよ。後輩の間では、すでに“どうかしてる”ってウワサになってますよ。それに、あんなのタダの情報商材じゃないですか。あんなものに24万円も払って……。人生壊さないうちに、早くこっちに戻ってきてくださいよ」

「こんなので離れていく人間は、元から俺の友達なんかじゃない。お前も関係を切りたいなら、切ってもらって構わないさ。27億円っていう数字は俺だって信じちゃいないけど、本当に稼げるんだよ、このビジネスは」

 ヨシダは入会して3カ月。これまでに20万円ばかりの金を稼ぎ、そろそろ元が取れると話す。副業レベルではないくらい稼げている、という話はどこへいったのか。さらに、その20万円も、振り込まれるのは2カ月後になるという。これ以降、ヨシダとは連絡を取っていない。はたして20万円は振り込まれたのか? 気になるところではあるが、金を搾り取られ、さらに悲惨な状況になっている可能性もある。筆者は怖くて、もう連絡などできそうにない。

(取材・文=國友公司)