YouTubeチャンネル「世界からのサプライズ動画」より

「◯◯◯、デビュー◯周年おめでとう!」

「△△△、仕事がんばれ!」

 屈強なアフリカ系の男性たちが、たどたどしい日本語でメッセージを贈る動画がSNS上で流行している。一度くらいは見たことがあるのではないだろうか?

 これは一般社団法人WORLD SMILEが提供する「世界からのサプライズ動画」というサービスだ。友人の誕生日祝いなどの身内向けのものから、アイドル、YouTuber、スポーツ選手といった「推し」へのメッセージまで、さまざま動画がツイッターやTikTokで公開されている。
http://world-smile.com/plan.asp

 WORLDSMILEの公式サイトを見ると、「黒ズボン黒人マッチョダンス(発砲三回付き):6000円」、「アフリカ原始民族ダンス:5000円」、「アフリカ子供ダンス:4500円」「ドバイ富豪ラクダ付ダンス:7000円」、「タイニューハーフセクシーダンス:5000円」「ウクライナセクシー美女ダンス:5000円」……といった“プラン”が販売されている。

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「世界からのサプライズ動画」HPより

 利用者が同法人のLINEアカウントから希望プランを注文し、読み上げてほしいメッセージやオプション類を指定すると、後日動画が納品される流れになっているようだ(3月31日現在/公式サイトに注文フローの詳細は明記されておらず、本稿執筆に際して試しに注文を試みたが、返信が得られなかった)。そして利用者は受け取った動画をSNSで公開したり身内に送ったりすることができる。

 ここ半年ほどの間でワイドショーやウェブメディアでも好意的に取り上げられ、2022年3月末現在、YouTubeチャンネル「世界からのサプライズ動画」登録者数は10万人、Instagram2.5万人、TikTok12万人となっている(ツイッター公式アカウントのプロフィール欄より)。

 公式サイトのトップページには、「貧困に苦しむ、現地の人々への支援に」「動画制作依頼の売上が動画に出演している人たちへの支援になる」といった文言が並ぶ。ただ動画を販売しているのではなく慈善事業としての側面を持っていることが強調されている。ツイッター上でもこの点にはたびたび言及しており、運営側にとって重要なポイントなのだろう。

 筆者はタイムライン上で初めてこの動画を見たとき、一瞬「面白いな」と感じた後、少しの違和感を覚えた。具体的にいうと「これは差別なのではないか?」と思ったのだ。

 なぜこのサービスに違和感を覚えたのか。まず、おそらく意味のわかっていないであろう言葉を金銭の授受によって発信させることは問題をはらんでいるように感じた。公式ツイッターによれば「卑猥な言葉、中傷はNG」とのことだが、過去には「○○、メンヘラなおせ」といった不適切と思えるメッセージ動画も公開されていた。

 そこで公式HPをのぞいてみると、上述の通り、「黒人マッチョ」「ウクライナ美女」「タイニューハーフ」といった“プラン名”が並んでいる。言うまでもなく、これらは他国や他人の特徴を暴力的にレッテル貼りしたものだ。

 総合して考えると、「見知らぬ“黒人マッチョ”が、本来は彼らがおよそ言わないであろう日本語メッセージを伝えてくる」という構図が、この動画の“面白さ”の根幹にあるのではないか。それが「差別なのではないか」という感覚につながっているのだと考えられる。

 サービス名で検索をかけると、同様の感想を抱いた人は少数だが散見される。だが、そうした疑問の声に対して利用者やそれを楽しむ者からは「このサービスは彼らの支援になっている(=『差別的だ』という者たちこそが彼らの生活を脅かす)」という意見が返されている。なお、サイト上では、ユーザーが支払った額面のうちの何割が出演者へ支払われるかといった具体的な金額に関しては公表されていない。

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「世界からのサプライズ動画」HPより

 この動画サービスが差別的だと感じるのは、個々の感覚の問題なのだろうか? 『野蛮の言説 差別と排除の精神史』(春陽堂ライブラリー)の著者で、アフリカ系文化に造詣の深い早稲田大学法学学術院准教授・中村隆之氏に話を訊いた。

「結論からいえば、この動画は明らかに“見世物”です。こうした動画を楽しんで消費する人たちにとって、画面の中で起きていることは、自分たちが生きているリアリティとは完全に切り離されている。なぜこれを『面白い』と感じられるのかといえば、自分たちが多数派であり安全圏にいて“見世物”を見ているからなのではないでしょうか」(中村氏)

 同時に、人気プランである「黒人マッチョ」のような書き方・くくり方にも問題は潜んでいる。

「こうした表現のもとに提供されるサービスを消費するとき、私たちの価値観には『アフリカの人はマッチョなんだ』『ウクライナにはきれいな人が多いんだ』といった反応が刷り込まれます。2020年6月にNHKの番組アカウントがブラック・ライブズ・マターについて解説するアニメ動画をツイッターに掲載した際、マッチョな黒人男性という表象を用いて問題視されました。こういったステレオタイプを再生産することは、私たちの先入観を強めることにつながります」

 『野蛮の言説』では、19世紀前半にイギリスで“見世物”にされた女性サラ・バートマンの半生が紹介されている。彼女はケープ植民地で生まれ、家族とともに農園で奴隷に近い身分で働いていた。そこで農園主の友人だったイギリス人医師が彼女を見世物として興行することを思いつき、イギリスに連れていった。

 その後、フランスに渡ったサラは、子サイと並んで檻の中で展示される。見物料は3フランだったとされている。サラは次第に酒に溺れるようになり、アルコール依存と肺炎(天然痘という説もあり)が原因で、20代後半という若さで亡くなった。その遺体は型取りをされたのち解剖され、最後はホルマリンの液浸標本にされ、1968年まで展示されていた。当時のヨーロッパにおいて、「アフリカ人は自分たちより劣った、猿に近い人種」というのが定説となっており、さまざまな分野で研究対象となっていた。彼らのサラに対する仕打ちは“当たり前”で、さらにいえば“最も知的な態度”だったかもしれない。

 現代で考えると心底ぞっとする話ではある。しかし、彼女を“見世物”として消費していた感覚は、世界からのサプライズ動画を見て面白がっている我々の感覚と地続きなのではないだろうか。

 それでも、出演者たちの生活を支援する慈善事業としての意義があるという見方もあるかもしれない。だが、実はこの点に関しても疑念は残る。

 5年前、「世界からのサプライズ動画」の類似サービスが中国で炎上している。ジャーナリスト安田峰俊氏が「文春オンライン」に寄稿した記事によれば、2017年夏、中国のIT大手アリババ社が運営するネットショッピングモール・タオバオで、アフリカの子どもに中国語のメッセージボードを持たせた写真や動画が販売されていることが問題視された。

 その後、中国共産主義青年団北京市委員会の機関紙「北京青年報」の取材により、動画出演者にろくな報酬が支払われていないことも明らかになった。この件はアフリカのニュースメディア「アフリカ・タイムス」やBBCでも報じられ、アリババはサイト上からこのサービスを削除する処置をとったという。

※出典:2017年9月12日「文春オンライン」掲載「アフリカを飲み込みつつある中国人のエゲツない『黒人差別』意識」
https://bunshun.jp/articles/-/4004?page=2

「世界からのサプライズ動画」が『スッキリ!』(日本テレビ)で取り上げられた際、WORLDSMILEの代表は「もともと中国で生まれたサービスに感銘を受けて日本でも同様の事業を行うことにした」という旨のコメントをしている。中国で問題視された経緯を知っていたかどうかは不明だが、いずれにせよ支援をうたうのであれば、そのフローは透明度を高くするべきだろう。

 安田氏によれば、現在でもタオバオ上で類似ビジネスはいまだに行われているそうだ。

「最近はアフリカ系ではなく、ウクライナの女性によるメッセージ動画が主流になっているようです(2月上旬時点)。5年前に炎上して問題になったことで一瞬は引っ込めたものの、大半の人は悪いことだとは考えていないのでしょう。実際に動画を贈り合っていた人々の間では問題になっていないと思いますよ」(安田氏)

 コロナ禍前は頻繁に中国に足を運んでいた安田氏は、肌で感じる中国とアフリカの独特な距離感についてこう説明する。

「中国発のこのサービスは大変差別的です。ですが、アフリカの人々からすれば中国よりも欧米、西側諸国への悪感情のほうが大きいんです。自分たちが住んでいる場所に勝手に線を引いて国境をつくって支配した上に、現在でも国内が政治的にガタガタしたら上から偉そうに干渉してくる……少なくともアフリカ側はそう解釈していることが多いように感じます。一方で中国は、毛沢東時代以来から反帝国主義を掲げていて、現在の習近平政権もその顔を強調している。これはアフリカ諸国から好感を持たれている一因です。中国とアフリカには地理的に距離があり、経済進出は行っても政治的な介入はしてこないため、欧米に比べると好感を持ちやすいという面はあると思います」(同)

 自分たちとは異なる他者、今回の場合でいうと外国人を面白がるのは差別的だとする感覚は、人権を重視する思想に基づいている。人権を重視するのは、欧米に端を発する近代市民社会の原理のひとつだ。だがアフリカ諸国に対する差別心は過去の欧米の植民地政策等と深く関わっており、一筋縄ではいかない問題であることがうかがえる。

 そして、現在「世界からのサプライズ動画」が日本で多くの人々に好感を持って受け入れられているのは、悲しいことに揺るぎない事実だ。我々日本人がどういう視点でこれを「面白い」と感じるのかと省みると、そこにはいわゆる「名誉白人」のような意識が内在しているのではないだろうかと、思えてならない。安全圏にいるつもりの我々も、日本から一歩出れば、アジア系への差別心からくる暴力(ヘイトクライム)に巻き込まれる可能性も少なくはないはずなのに。

 取材を進めている期間の中でも、筆者のツイッターのタイムラインでは「世界からのサプライズ動画」の動画がいくつもリツイートされてきた。中には、筆者の友人たちが自ら依頼した動画もあった。ここでそれを個別に非難するつもりはない。彼ら彼女たちだって、普段接している上では真面目で常識のある人だ。では、どうして“常識のある人”が、この動画を楽しめてしまうことが起きるのだろうか。

「こういったサービスをすぐに差別だと感じないのは、一般的な感覚です。多くの人は、自分たちは差別をしていないと思っているし、『差別は良くない』という一般常識を持っている。ですが、一般常識とは全然違うレベルで考えないといけないんです。ほとんどの場合、差別は悪意ではなく、無自覚なところから生まれています。だからこそ、『とにかくダメだからやめましょう』ではなく、何が問題なのかを考える必要があります」(中村氏)

 今回の場合でいえば、わかりやすくレッテル貼りされた外国人のイメージを消費することは差別的だ、というのがひとまずの結論になる。しかし外国の文化や食事だったり人物だったり、自分と違う他者に面白さを感じたり、憧れを持つことは誰しもあるはずだ。

「いわゆる異国趣味、エキゾチシズムといわれるような憧れの感覚は、それ自体が差別意識の反転ではあります。憧れそのものはむげに否定されるものではなく、異文化に対する関心の入り口として大切なもの。ですが、その入り口にとどまり続けて、多数派の価値観の中でエキゾチックなものをそう捉え続ける限り、優越意識からは逃れられず単に他者を消費するだけの振る舞いになってしまいます」(同)

「面白い」「(支援になるから)いいことをした」と感じた人たちに悪意があったわけではない。むしろポジティブな感情からスタートしているはずだ。だが、結果的に差別的な振る舞いをしていたり、それに加担することになっている。そこから脱却するには、どうしたらよいのだろうか?

「一番大事なのは『差別するとはどういうことか』を知ることだと思います。気づいていないけれど差別をしているとはどういうことなのか。差別感情がエスカレートした先に、集団でのいじめや暴行、もっと規模が大きくなればジェノサイドが起こり得るわけです。ですから差別が明確な形を帯びる前に、見えない差別に気づくことが大事です。見えない差別は私たちの身の回りに偏在しています。普段生活する上で“弱者”が見えにくくなっているし、そういうことに気づかなくていい社会構造になっていると思います。お金を介するサービスの中で消費者は無色透明の主体になっていて、もちろんそれはプラスの面もあります。でもだからこそ差別的なサービスに対して『お金を払ってるんだからいいじゃないか』と屈託なく言えるようにもなってしまう。

“考えること”自体が贅沢なことなんです。世界には、“生きているだけで精一杯”という境遇にいる人も少なくない。難しいことを自分なりに受け止めるだけの心の余裕を持って、贅沢なものを他者のために使っていきたいですよね」(同)

(編集:斎藤岬)