もう中学生のおグッズ!』(テレビ朝日系)TELASA公式サイトより

 テレビウォッチャーの飲用てれびさんが、先週(4月3~9日)に見たテレビの気になる発言をピックアップします。

■パンサー・向井「これオープニング?」

 文章の書き出しにはいつも苦労する。

書き出しが決まれば、そこから先はあまり引っかかりなく書ける。最後のオチのところで少し頭を悩ませることもあるけれど、書き出しの比ではない。――と、こんななんでもない100字足らずの文章も、1時間ぐらいグニグニ考えてる。

 だからだろうか。『もう中学生のおグッズ!』(テレビ朝日系)のオープニングに惹かれてしまう。タイトル通り、同番組は芸人のもう中学生が番組グッズづくりを進めるバラエティである。

で、そのオープニングはいつもキテレツだ。

 たとえば、3月14日の放送はこんなふうにはじまる。いきなり画面に映るのは、鳥の紙人形(チュン太郎)を手にしたもう中。彼が「そうですね、春の物件探し、大変ですよね~」とチュン太郎に語りかける。「そうですね」と会話の途中からの唐突なはじまり。視聴者の困惑を尻目に、チュン太郎との物件探しコントはどんどん進んでいく。

 と思うと、またいきなり「……というわけではじまりましたでございます~。もう中学生のおグッズ~」とタイトルコールである。「というわけで」って、どういうわけだ。そんな問いに、当然答えなどない。

 多くの番組のオープニングでは、今回の放送内容やゲストが紹介される。そうやって、視聴者を本編にスムーズに導いていく。

本編への円滑な導入。それがオープニングの基本的な機能だといっていいだろう。

 しかし、『おグッズ!』ではまず、もう中が唐突にミニコントなどを始める。で、そんなミニコントを「というわけで」とぶった切ってタイトルコール。そのあと、本編に入るまでツッコミ役のゲストといろいろしゃべって、そのなかにはこの日の企画説明なども入るのだけれど、結局、本編と関係がない話題をもう中がつらつらしゃべりはじめたりする。もう、オープニングがオープニングの機能を脱ぎ捨てようとしているのである。

 4日の『おグッズ!』では、そんなキテレツオープニングにさらに拍車がかかっていた。同番組の放送時間は30分。CMを除くと実質15分ぐらいなのだけれど、その時間が丸々、オープニングにあてられていた。

 番組がはじまると、そこには頭にはちまきをつけテレ朝のタレントクロークの壁にニスを塗ったことを懐かしむなどするもう中が。続く大工コント。しばらくすると、「……というわけで、もう中学生のおグッズ~」と唐突なタイトルコール。

最低限の企画説明が終わると、もう中とこの日のゲスト、とにかく明るい安村や国崎和也(ランジャタイ)、ヤジマリー。(スカチャン)とワチャワチャ。廊下を偶然通りかかったパンサーの向井慧と尾形貴弘も混じってワチャワチャ。いつになっても本編に入る気配はない。当然、向井がツッコむ。

「これオープニング? こんなたっぷり撮んの?」

 オープニングに継ぐオープニング。

終わらない昼休みのような時間が延々と続く。結果、この日の番組全体がオープニングで終わったのであった。「オープニングで終わる」とか、オープニングの定義からして矛盾しているわけだが。はじめないはじまり。哲学だろうか。

 大げさにいえば、私はそんな『おグッズ!』のオープニングに解放感すら覚える。そんなに熟考してはじめなくてもいいのだ。ある程度考えたら、とりあえず第一歩を進めてみよう。そうすれば、そのあとに道筋はできるのだから――。

 この連載、ある日突然、鳥の絵と一緒に「そうですね、春の物件探し、大変ですよね~」といった書き出しではじまったりするかもしれない。いきなり「というわけで」とかいう切り出しで開始するかもしれない。そうなったら、もうそういうことだと思ってほしい。って、どういうことだ。

 というわけで、先週、阿佐ヶ谷姉妹がメインの番組を4本みた。この4月からレギュラー放送が始まった4日の『阿佐ヶ谷アパートメント』(NHK総合)、7日の『阿佐ヶ谷ワイド!!』(テレビ朝日系)に加え、8日の『やぶからディッシュ~いま一番食べたい一皿食べに行きませんか?~』(テレビ朝日系)、6日の『旅する水曜日』(BS日テレ)である。

 今回はそのなかでも、『阿佐ヶ谷ワイド!!』と『旅する水曜日』をとりあげよう。いずれも姉妹の散歩が中心の放送だった。

 冠レギュラー番組としてはじまった『阿佐ヶ谷ワイド!!』。番組側の説明によると「阿佐ヶ谷姉妹が阿佐ヶ谷から一歩も出ずに、阿佐ヶ谷のみなさんとお送りする地域密着バラエティ」である。初回の放送となったこの日は、姉妹の2人が街をぐるぐる回りながら、地元の神社で番組成功祈願とともに、番組ロゴの題字を宮司さんに書いてもらうまでが放送された。

 で、神社までの道中、阿佐ヶ谷の人たちは姉妹を見ると手を振ったり声をかけたり。姉妹のほうも、「どーも」とか「こんにちはー」とか返しながら歩いて行く。これはもう散歩というか、美穂さんが言っていたように「選挙活動みたい」な練り歩きである。

 なお、ここでは“姉”の渡辺江里子のことは「江里子さん」、“妹”の木村美穂のことは「美穂さん」と呼ぶ。基本、こういった記事のなかでは芸能人の敬称を省略するものだけれど、阿佐ヶ谷姉妹については「さん」づけしないとどうも居心地が悪い。たぶん「デヴィ夫人」などと同じように、「さん」までが芸名みたいな2人なのだと思う。

 対して、『旅する水曜日』は週替りでさまざまなタレントが全国を旅する番組。こちらもこの4月からはじまった新番組だが、その初回の“旅人”として選ばれたのが阿佐ヶ谷姉妹である。訪れたのは戸越銀座商店街だ。

 2人は商店街で夕食を調達したり、浄水器のカートリッジを購入したりする。ときどき、信号待ちをしながら水の飲み方で小競り合いをしたりもする。街ゆく人に語りかけたりといった“テレビ的”な場面もある。けれど、総じていえば、中年女性の日常をただただ見ているような番組だった。

 どちらの番組も、特に何か大きな盛り上がりがあるわけではない。姉妹の淡々としたお散歩があり、地元の人との交流がある。もちろんそれは本当の2人の日常ではなくて、少なからず番組により演出され、2人自身によっても自己演出された、阿佐ヶ谷姉妹的日常だろう。けれど、この2人はいつもこうなのだろな、と、不思議に錯覚してしまう。

 たぶん、姉妹の生活のワンシーンにカメラがお邪魔し、それを見ている感覚になるのだ。番組的な始まりと終わりはあるけれど、それはもちろん姉妹の生活の始まりと終わりではない。シームレスに続いている生活のなかに、たまたまテレビ的なオープニングがあり、エンディングがある。そのあいだに番組のタイトルがついている、という感じ。

 いわば、もう中学生が「そうですね、春の物件探し、大変ですよね~」と前後の脈絡なく登場するのと同様に、阿佐ヶ谷姉妹も前提なく「そうですね」と画面に現れるのである。詳しくは省略するけれど、普通に生活していた姉妹がいつのまにか芸人になって私たちの目の前に現れるまでの経緯自体が、まさにそういう感じでもある。

 さて、この文章もそろそろ終わり。いつもは最後のオチのところで頭を絞るのだけれど、ここはもう中学生と阿佐ヶ谷姉妹に学び、唐突に終えようと思う。

 そうですね、春の物件探し、大変ですよね。