女優の真木よう子が、自身の写真集を作り、コミケで「1冊ずつ手売り」したいとの意向を表明し、そのための資金をクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で募ったものの大炎上してしまい、プロジェクトは中止になった。また、YouTuber・ヒカルは個人の価値を仮想株式にして売買するサービス「VALU」で、“詐欺”まがいの騒動を起こして批判が集まり、活動中止に。

なぜ、有名人がネットでお金を集めると、「炎上」しやすいのだろうか? ITジャーナリストの三上洋氏に聞いた。

■真木よう子と山田孝之から知る、有名人のクラウドファンディングの明暗

 真木の騒動について、“コミケへの理解の浅さ”が炎上の決定打となったと三上氏は指摘する。

「クラウドファンディング以前の話で、コミケについて真木さんが理解不足だったことが2点あります。まずは“企業や有名人がプロとして参加する場ではない”という点。一個人が身銭を切り、同人誌を作るのがコミケですが、真木さんは800万円もの予算をかけて各分野のプロを呼び、クオリティの高い写真集を作ろうとした。それは、例えばフリーマーケットに大手スーパーが出店するようなレベルの、とんだ“勘違い”です。


 もう1つは、コンテンツを作って売る場であるコミケを“ファンとの出会いの場”と考えた点。毎年多くの人が訪れるコミケで参加者は、いかに人をさばくかということに腐心しています。そこへ真木さんのファンが集まるとなると、多くの参加者にとってハッキリ言って迷惑。真木さんの想像はそこにも及んでいませんでした」

 ただ「真木さんご本人が自腹を切っていれば、話はまた違ったのかもしれません」と三上氏は推測する。

 一方、同じクラウドファンディングでも、その本質を理解して運営していると三上氏が評する有名人がいる。新ブランド「FORIEDGE(フォリエッジ)」を山口友敬とともに立ち上げた、俳優の山田孝之だ。


「Twitterや2ちゃんねるなどでも、山田さんの炎上はほとんど見られません。『芸能人が何でお金を募るんだ』と、クラウドファンディングの仕組みを全く理解していない一部のメディアが騒ぎ立てているだけ。クラウドファンディングは“資金を集める場”と考えるのが、悪口の根本にある大きな誤りです」

 お金を集めた後で、投資分だけの見返りを出す。つまり“資金を運用する”ことがクラウドファンディングである。それを踏まえて、山田は「自身のブランドを立ち上げて、資金を集めて商品を作って売ります」と言っているだけ。一部の人が、目標額を数日で達成しそうになったのに対して「金儲けしやがって」と悪口を垂れているにすぎないのだ。


「残念ながら、イメージ商売である芸能人に、このような批判が出るのは仕方がないのかもしれません。日本人はお金儲けに対してやはり否定的です。いわば“有名税”と捉えるべきでしょうか」

 クラウドファンディングで覚えておきたいことは、資金を集めた後に、目標達成に向けたプロジェクトが始動するという流れだ。その点で、資金を払う側にとっては、一般人より有名人のプロジェクトの方が“お買い得”といえる。

「山田さんの場合、もしも劣悪な品物が完成したり、最悪のケースで『品物ができませんでした』となれば、“山田孝之”の評価までガクンと下がります。それもあって、自分の名前でやっている以上は絶対に失敗できません。
身元のはっきりしない一般人のプロジェクトより、実行可能性が高くて信用できる点では、かえってお手頃なのです」



 もともとYouTuberの代名詞的存在であったヒカル。過去に悪徳商法に手を染めていたという説もあるが、VALU騒動の引き金となった最大の原因とは何だったのか?

「『全くVALUの仕組みを理解していなかった』と、騒動後にヒカルさんは話していますが、同じ理解不足といっても、真木さんとは事情が全く異なります。ヒカルさんは仕組みを理解しないまま、動画のネタにしようと参加し、結果的に売買するほかのVALUユーザーを小馬鹿にするような手法を取りました」

 “小馬鹿にするような手法”とは、具体的にどんなものなのだろうか?

「VALUは、まさしくクラウドファンディングです。芸能人を含む有名人などの“価値(社会的評価)”の浮き沈みを逆手にとり、そこに値をつけて売買するという仕組みです。ヒカルがそうであったように、VALUで売り手になる人は、価値をどんどん高値に上げなくてはいけません」

 たとえば株式市場では、株が上がることで企業と株主の双方がハッピーになる。VALUでも同じで「今後も成長し、お金を出してくれた人にとっても、価値のある活動をします」と売り手は買い手に示す。
そして高値になり、買い手も自身が手にする“仮想株式(VALU)”の価値が上がることを望んでいる。

「しかし、ヒカルが取った行動は買い手を裏切るものでした。“どういう意図で買い手が資金を出しているか”を考えもせず、いきなり全株を売却したのです。仮想株式が大量に供給されたために、需要と供給のバランスが崩れ、ヒカルの値段がガクンと下がった。つまり買い手にとっては、すでに投資して手にしたヒカルの仮想株式の価値が下がったということです。株市場でいう“ジャブジャブ”状態ですね」

 たとえヒカル自身の無知には悪気がなかったとしても、すでにヒカルに価値を見いだしてお金を投資していた人にとっては、たまったものではないだろう。


「VALUと同じ評価経済のサービスとして『Timebank』が始まりました。こちらは著名人や専門家の“時間”を10秒単位で買うという仕組みですが、たとえばブロガーのはあちゅうさんなどは、なんと20分で6万6,720円が付けられた。その値に対して『高すぎて気持ち悪い』との声もネットで出ています」

 クラウドファンディングやVALUなど、ネットがお金をやりとりできる場としても機能し始めてから日はまだ浅い。しかし有名人を中心とするネットでのお金集めは、今後も増え続けるに違いない。買い手側としては、仕組みを正しく知る必要があるだろう。

「真木さんやヒカルさんの騒動からも言えることですが、売り手側もきちんと理解しなければなりません。『とりあえずお金を集めて、何かすればいいんでしょう?』という姿勢では、必ず炎上します」

 お金でしくじれば、ネットどころか芸能界からも即追放となりかねない。コミケでいえば、叶姉妹小林幸子をロールモデルとするべきか。いずれにせよ、ネットでのお金の取引が浸透するまでには、まだ時間がかかりそうだ。
(門上奈央)

三上洋(ミカミ・ヨウ)
ITジャーナリスト。専門とするジャンルはネット事件や詐欺対策などのセキュリティ分野、スマートフォン分野の業界動向や有害サイト対策、電子マネーなど。
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