天理教の合宿潜入から、はや半年以上たった6月。夫側の家族グループLINEに、義母からメッセージがありました。



<今年の「こどもおぢばがえり」は7月末ですよ>

天理教の「夏祭り」は「祭りじゃない」!?

 夫の実家へ帰省するたびに聞いたことがあるこの単語、「こどもおぢばがえり」。以前、夫に聞くと、

「きぐるみのパレードやアトラクションがある、天理教本部で開催される子ども向けイベント。毎年、両親兄弟その子どもたちのほか、近所の子どもたちも誘って、天理市までマイクロバスで行く」

 と教えてくれました。その説明を自分なりに解釈すると、「子供向けの露天がたくさん出た、天理教の夏祭りってことなのかな?」と、駅前通りを交通規制して歩行者天国にするような、地元の夏祭りを想像していました。

「よし、今年こそ天理教のお祭りに行こう」

 夫にそう言うと、

「え! 行くの!?」

 と、驚くのですが、それが「またナメてかかっているでしょう!? 違うからね! あなたが想像しているようなのとは!」といった口調なのです。そしてしきりにこう言います。



「さっきからお祭り、お祭り、って言うけど、違うから。お祭りじゃないんだよ」

「え。お祭りじゃないの? じゃあなんなの?」

「うーん」

 いや、うーん、じゃなくて。どうも説明が難しいようです。もうらちが明かん。教えてグーグル先生! と、スマホに頼るも、全貌は見えてきません。
が、いろいろとアトラクションがあることはわかりました。

「忍者屋敷とか、演劇とか、いろいろあるんだね。忍者屋敷に行きたいな」

 楽しげに予定を練ろうとすると、夫が水を差します。

「いや、行く場所は決まっているから。忍者屋敷に行くかどうかわからないよ」

「決まってるって、なに?」

「団体行動が基本なの。うちらだけここに行きたいから行く、とかができないの」

「?? なんで? 普通に、『じゃ、うちらこっちに行ってきます。
のちほど~』って言えばいいじゃん。お祭りなのに、行きたいところに行けないの?」

「だから! お祭りじゃないんだって!」

「お祭りじゃなかったらなんなんだよ!」

「うーん」

 もうなんなの!

 こどもおぢばがえりがお祭りか否かで、一触触発状態のわが家。おやがみさま、わたしたちをたすけたもう!

 そのときでした。夫がハッとひらめくのです。

「わかった。オリエンテーリングだ。
オリエンテーリングだよ! そうだそうだ、それだよ!」



 オリエンテーリングとは、数人1組のグループで、スタートから必須ポイントを通過しつつゴールに向かう野外スポーツの一種のこと。なるほど。それならば、数人1組のグループごとに行動するのも頷けます。

 こうしてお祭りではないことが納得でき、ついに当日。関東に住むわたしたち家族は電車で、夫の実家のひとたちはマイクロバスで、天理駅前で待ち合わせ。電車が天理駅ホームにすべりこむと、ここからもう「こどもおぢばがえり」が始まっていることに気づきます。
ホームに天理教のゆるキャラ(ピッキーとリボン)の旗が無数にはためいているのですから。

 さらに改札を出ると、それは顕著に。地方の新幹線停車駅に匹敵するほどどデカい天理駅の壁面に、ドーンと横断幕が張られているではありませんか。



<ようこそ おぢばへ 近鉄>

<ようこそおぢばへ こどもおぢばがえり JR西日本>

 驚くことに、鉄道会社のクレジット入り。これぞ宗教都市の貫禄。いよいよ市を挙げてのお祭……じゃなかった、イベントの様相を呈してきます。


 駅前で義家族らと落ち合うと、まずは天理教本部まで歩きます。メンバーは、夫の両親と兄弟の家族2組、そして、その兄弟の子どもの友達だという、近所の小学6年生10人。みな、お揃いの帽子をかぶっており、わたしたちの子どももかぶるよう促されました。周りを見るとみな同じように、帽子、Tシャツ、タオル、タスキ……などを揃え、グループごとに移動しているのがわかります。

 一行で社殿のような場所までゆき、はとバスガイドさんのような旗を持ち、どうやら引率係のようになっている義弟夫婦が、「じゃあみんな、挨拶して」と言うと、小学生たちは素直なもんですね。

「今日はよろしくお願いします!」

 と、気持ちよく声を揃えます。

「はいはい、みなさん、ここではね、3つの決まりがあります。まずは『生きるよろこびを味わうこと』。そして、『ものを大切にすること』。それに、『仲良くたすけあうこと』。この3つを心がけて、楽しんでくださいね」

「はい!」

 そして参加記念品を受け取ると、ひとつめのアトラクションへゆくことになります。



 アトラクションは、教団敷地や天理大学などの関連施設に15箇所ほど設置されており、何時にどこに行くかなど、義弟があらかじめスケジューリングしていたようです。で、ひとつめのアトラクションまで歩くのですが、熱中症でばたばたと死人が出た今夏ですよ。暑すぎて温泉みたいになるからっつって学校プール中止が続出した今夏ですよ。広大すぎて遮るものがない炎天下の道を、ひたすら歩き続けるわけですよ。これ、クーラー無設置小学校を総叩きしたツイッター民が見たら、憤怒からの失禁するレベルですよ。

 じりじりと照りつける太陽光線が、全身を焼き、水分が蒸発してゆく。あつい……あつ……すぎ……る……。

 そのときです。

「おーちゃーおちゃおちゃおちゃおちゃおちゃHEY!♪」

 !?

 砂漠で幻のオアシスが現れたごとく、幻聴でしょうか。妙な歌声が聞こえてきます。

「おーちゃーおちゃおちゃおちゃおちゃおちゃHEY!♪」
「おーちゃーおちゃおちゃおちゃおちゃおちゃHEY!♪」
「おーちゃーおちゃおちゃおちゃどうぞ!♪」
「おーちゃーおちゃおちゃおちゃどうぞ!♪」

 !?

 幻聴じゃなかった! 道の途中に設置された「お茶所」と書かれたテントの下で、中学生くらいの少年少女たちが旅人にお茶を振る舞っている! 

 群がる人々にキンキンに冷えた麦茶をヤカンからコップに注ぎ、手渡し……を、延々と繰り返しています。楽しげに歌いながら。

 なんだ、これは。

「“少年ひのきしん隊”よ。えらいよねえ」

 義母が言います。ひのきしん=ボランティア、で、この子たちは朝から晩までお茶を振る舞い続けるといいます。お茶所は至れり尽くせりなほどたくさん設置されており、どこも中学生たちがしっかりと役目を果たしているのです。中学生なんて、夏休みにボランティアなぞクソくらえで1日中スーファミかゲームボーイをやっていたいお年頃じゃないんですか? わたしはそうでしたよ。カルチャーショックに頭をどつかれつつ、やっとのことで目的地に到着します。



<ジョイフルパーク>

 そうした看板が立てられた敷地には、滑り台やボールすくい、ボルダリング、ミニジェットコースターなどが設置されていますが、





 これ全部、手作りなのだそう。

 スタッフは高校生~大学生くらいのようで、遊ぶ子どもたちを手際よく誘導します。

「それぞれアトラクションごとに、“県”が運営しているんだよね。ここはどこだっけな」

 義兄が教えてくれます。彼も高校生の頃に、「自分の所属県が運営しているアトラクションを手伝ったことがある」そうです。

 決められた時間内での遊びが終了すると、待ちに待った昼食です。なんでも、「おぢば名物といえば、カレー!」と義母が沸き立つほど、とにかく昼食のカレーが子ども心をつかんで離さないそう。

 長机が何百本も並んだ巨大食堂に入ると、やはりひのきしんの子たちが次々とカレーをよそっていました。

 なんの変哲もないシンプルなカレーですが、これが美味しい。小6男子たちは調子こいておかわりを競い、「オレ3杯目ー!」とかやっています。おかわり自由なので無限です。



 昼食を終えると、次は「チャレンジ遊びの世界」というアトラクションへ。足場を組み作られた山で水鉄砲を撃ち合う遊びや、水遊び場などが並びます。もっとも目を引くのは、高所を滑るツインロープウェイ。

 もちろん手作り。ラオスの小型遊園地のような危うさが好奇心を刺激します。

 子どもが遊ぶ一方で、大人たちはどうしているのかというと、小さい子どもの付き添いをしたり、休憩所のテントで休んだり。ミストファンがいくつもあり、暑さ対策の歴史深さを感じます。また、トイレもお茶所と同じ割合で設置されているのがうれしいところです。

 お次は、一番人気アトラクションだという「決戦! 忍者村」へ。運営は予想どおりの三重県です。30分以上の待ち時間を回すのは、大学生くらいの男の子たち。長蛇の列を前に舞台に立ち、若手芸人さながらに即席じゃんけん大会を開いたりと、一切手を抜きません。今すぐオリエンタルランドに就職できるレベルのホスピタリティです。

 ようやく入れた忍者村は、ベニヤや足場を駆使して手作りされた巨大迷路。
 参加者は水鉄砲を片手に、襲い来る忍者(三重県の高校生や大学生のひのきしん)を撃ったり、設置されている自動噴射機から繰り出される水を浴びてびしょ濡れになったり。子どもたちは大興奮で、女子大生ひのきしんの顔面をケタケタ笑いながら撃ちまくります。あれ絶対ムカつくよ。でもキレるそぶりは一切見せません。

 こうした若手ひのきしんたちの底力は、こんなものではありませんでした。次に向かった「こどもミュージカル劇場」が、その真骨頂でした。運営は京都の天理教信者たちで、題目は「現代版・あかずきんちゃん」でした。うたのおねえさん的女の子が前座トークを回し、はじまりはじまり~! と、室内が暗くなるとともに、上質な管弦楽で会場がゆらめきます。演奏主は天理高校弦楽部のみなさん。これが鳥肌モノなんです。

「全国大会常連だからね、そりゃあうまいよね」

 義兄が誇らしげに耳打ちします。なんと贅沢な空間。ミュージカルも、みんな俳優志望なのかと思うほど達者で、学校や仕事の合間を縫って相当練習した甲斐が発揮されています。部活でやってる高校生はまあわかるとして、大学生や社会人になってまでやり遂げるモチベーションは、一体どこにあるのでしょうか。



 会場を出ると、いつの間にか空は西日。ここでオリエンテーリングは終了となりますが、本番はこれから。夜は、参加者やスタッフなど総勢何万人が本部参道(のような場所)で見物するパレードが行われるのです。パレード時間前に続々とひとが集まるその規模は、目視で明治神宮花火大会並みでしょうか。

 夜、いよいよパレード開始、の前に、おつとめの時間です。シーンと静まり返ったかと思うと、あの歌が低く響きます。あかりは灯篭の灯りだけ、といったほの暗さのなか、荘厳に響き渡る何万人もの天理教信者たちの神への祈りは、信者ではない近所の子どもたちの目にはどう映っているのでしょうか。

 おつとめが終わると一転、

「パレードのはじまりでぇす!」

 と、司会者の景気の良い声がマイク越しに響くと、頭上でドッカンドッカンと花火が上がり、参加者のボルテージはマックスに。

 そうして参道(?)の入り口から続々とパレードがやってくるのですが、これまで想像していた「てきとうな着ぐるみがわらわら手を振ったり練り歩く」を根底から覆してきたのが、先頭を歩く天理教校学園高等学校のマーチングバンド。え、プロ!? プロなの!? 一糸乱れぬ行進と純度の高い演奏に、またしても鳥肌ゾクゾク。今すぐにでも自衛隊音楽隊に入隊できそうです。

 彼らに、エレクトリカルカーや各県や地域で結成された鼓笛隊、チアリーダーが続き、

 1時間ほどでパレードは終了となります。

 すごいのが、これ、10日間毎日やっていること。普通のお祭りは1~2日が関の山じゃないですか。朝から晩まで、このクオリティをぶっ続けて、今年は公式発表によると22万1098人の参加者がいたようです。これは、日本音楽史上伝説として語り継がれる、1999年7月31日に行われたGLAY EXPO '99 SURVIVAL、通称「GLAYの20万人ライブ」に匹敵する数です。伝説と同レベル、すごい。

「おぢばがえり」の真の目的は……

 さてその後、詰所(各地域ごとの宿泊施設のような場所)に1泊するのですが、小学生たちは寝ません。夏休みの子どもの本領発揮です。夜中まで騒ぎまくる彼らを、義弟が「早く寝ろ!」と叱りに行くと。

「いやだ! だって、俺のおぢばがえりはこれが最後なんだよ!」

 甥の、悲痛な叫び。そう、信者の息子である甥は、来年からはひのきしんに参加しなくてはなりません。中学生になったらお茶汲みして、高校生、大学生、新社会人あたりまではスタッフ側にまわり、さらに自身が子どもを持つと、次は引率係として、近所の子ども10人中1人くらい入信してくれたら万々歳。と、こうして脈々と天理教精神を受け継いでいくのが、「こどもおぢばがえり」の真の目的なのではないでしょうか。

 時流と真っ向から相対する精神を、マイペースに継承し続ける天理教。そうした精神が根付いているがゆえ、近年起こった大阪地震や西日本豪雨に、われさきにと見返り求めずボランティアに向かう信者がたくさんいます。あの有名なスーパーボランティアじいちゃんだけが、崇められる存在ではないのです。天理教の人たちは、もっと昔から、ずっとずっと頑張っているんだから! みんな! もっと褒めてあげて!

 一方、やっぱりクーラーの効いた部屋でスーファミをやっていたい子どもだったわたしは、1年に1回だけそのボランティア精神に触れ我が身を省みるくらいでちょうどいい、と思うのでありました。

(文・有屋町はる)

(おわり)

<「天理教のツマ、『宗教合宿』2泊3日潜入記」バックナンバー>

■(第1話)夫の実家は「天理教」!? 
■(第2話)「宗教都市」はディズニーランド!?
■(第3話)喜捨精神、奉仕の心、“宗教あるある”に翻弄された私
■(第4話)“天理教ド素人”の私が、たった2日で「仕上がった」!?
■(第5話)天理教「潜入」2泊3日、“私”の信心が「急激に冷めたワケ」