生理前だけ“うつ病”に!?  PMSより強いイライラや情緒不...の画像はこちら >>
生理前に、心身の不調に悩む女性は少なくない。胸が張る、過度の眠気、肌荒れ、食欲が増す、便秘、集中力低下、イライラする、無気力感といった症状をもたらす「PMS(月経前症候群)」はよく知られているが、PMSより精神的症状の深刻度合いが大きいとされる「PMDD(月経前不快気分障害)」という疾患をご存じだろうか。
PMSと比較して認知度が低く、またPMSと勘違いされることもよくあるというPMDD。そこで今回、その実態を探るべく『月経の前だけうつ病になってしまう女性たち―PMDD(月経前不快気分障害)を治す』(講談社)『月経前不快気分障害(PMDD)』(星和書店)などの著者である東北医科薬科大学・山田和男病院教授に、PMDDの症状や治療法についてうかがった。

PMDDは“うつ病”の一種!? PMSとの違い

――「PMDD(月経前不快気分障害)」とは一体なんでしょうか。

山田和男医師(以下、山田) 一言で表すと「月経の前ごとに(非定型)うつ病を呈する疾患」です。医学的にうつ病の一種だと考えられており、具体的には生理前の7~10日間程度、過食と過眠、全ての物事がつまらなく感じる、絶望的な気持ちになる、自己卑下、強度の不安やイライラ、情緒不安定といった抑うつ症状が続きます。また、否定的なことを言われると涙を流してしまったり、些細なことでもカッとなって、職場や家庭で口論をしてしまうことも。

さらに、疲れやすく集中力がないといったうつ病によくある病状が出る方もいますね。

――PMSにも精神症状がありますが、PMDDと明確な違いはあるのですか。

山田 確かに、PMSとPMDD は似た症状ですが、精神医学の診断上、別の疾患なんです。PMSは体の不調が中心で、PMDDは精神的な症状が強く現れます。PMDDはすでに、アメリカなどの海外で、うつ病の一種として認知度が上昇しているものの、日本ではあまりなじみがないため、PMSとPMDDを混同する臨床医が多いのが実情です。

 PMSにはないPMDDの特徴を見ていくと、PMDDは生理前の7~10日間ぐらい“だけ”、抑うつ気分がうつ病に匹敵するほど重症化し、“社会的機能”がガクッと落ちます。

具体的には「学校や仕事を欠席せざるを得ない精神状態になる」「仕事の効率が著しく下がる」「周囲の人間と口論になる」「子どもを言葉の暴力で傷つけてしまう」など、つまり日常生活に支障を来すほどの症状であれば、PMDDの疑いがあります。自身でコントロールできる程度のイライラであればPMSだと考えられるでしょう。

 また、うつ病と比較すると、うつ病の場合は、上記のような症状などが2週間以上続きますが、PMDDの場合は生理が来ると必ず消えます。ほとんどの患者が月経の1~2日目に精神症状がなくなりますね。そして、また生理の7~10日前ぐらいに病的な不安や抑うつ気分になり、それが月経周期に沿って繰り返されるわけです。

――PMDDを発症する誘因はわかっているんですか。

山田 何らかのライフイベントを契機に発症することが多いと言われています。実際に診察していると、20代以降の人に多く、就職や転勤、結婚、出産、介護など大きなライフイベントと密接に関係していることがわかっています。


――PMDDをセルフケアする方法があったら教えてください。

山田 精神疾患なので、自身でケアするのはちょっと難しいですね。強いて言えば、エアロビクスのような有酸素運動などをすると症状が少し軽くなる人もいますが、PMDDを専門とする精神科医を受診することが最善策と言えます。

 実際に、「PMDDなのでは?」と来院する人のうち、1~2割程度はPMSで、PMDDの診断基準を満たす人は3~4割ほど。

残りの4~5割は2年以上軽いうつ状態がダラダラと続く「持続性抑うつ障害」など何かしら別の精神疾患を抱えているんです。生理が終わった後も精神症状が残っていれば、PMDDではなく持続性抑うつ障害や何らかの精神疾患かもしれません。

――PMSとPMDD、持続性抑うつ障害の治療法は違うのでしょうか。

山田 そうですね。それぞれの疾患に適した治療法があるので、まずは根底に精神疾患がないかをきちんと調べることが重要。PMSの場合は、生活のリズムを整え、漢方薬を用いることで改善する人が多いです。

PMSに対して、PMDDの治療薬を使うのは過剰医療になりますし、持続性抑うつ障害とPMDDの治療法も異なるので、正しい診断をしないと明後日の方向の治療になってしまいます。

 ただ、持続性抑うつ障害は「病院で診てもらおうかな……」と思うほど、ひどい症状が出ないことが多いので、自覚している人が少ない。そのような精神状態にPMSが加わると、「生理前にだけ症状が悪化している」と錯覚し、それをPMDDのように感じることもあります。反対にうつ病の治療中、うつ病自体は良くなっているものの、PMSだけ残っていると生理前だけ悪化しているように感じて、それをPMDDだと勘違いする人も。最善の治療法を見つけるためにも、その人がどのような精神疾患を抱えているかを見抜く必要があるんです。

――PMDDを専門に扱う病院は少ないと思います。

どのような病院に行けばいいのですか。

山田 産婦人科よりも精神科や心療内科をおすすめします。もちろん、産婦人科の先生でPMDDについてよく知っている人はいますが、精神疾患を見抜けなかったら大問題ですから。先ほどもお話しましたが、自称PMDDの方の半数近くが、ほかの精神疾患にかかっています。まずは精神科や心療内科に「PMDDの“治療経験”はありますか」と聞いてみてください。冒頭でもお伝えしましたが、「PMDDの名前は知っているけど、実際に診たことはない」というように臨床経験がなかったり、PMDDを正しく理解せずPMSと混同している医師が多いので。

――PMDDと診断された場合、具体的にどのように治療していくのでしょうか。

山田 「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(通称SSRI)の間欠療法」というのが一般的な治療になります。詳しく説明すると、SSRIという抗うつ薬を黄体期のみ服用し、生理が来たら薬をストップするという治療法。PMDDの治療経験がない医師は、漢方薬しか出さなかったり、「毎日薬剤を服用(継続療法)してください」という治療をしがちですが、それはあまり良くないですね。

人によって効果が出る薬の量や期間は異なるものの、薬がその人にピタリとハマれば、飲み始めたサイクルから、すぐに月経前のうつ病の症状は消えます。しばらく間欠療法を続けてもらいますが、寛解状態(症状が落ち着いて安定すること)に入ってからおよそ1年間、症状が出なければ、その後は薬を減らしてゼロにしていく。ただ、大きなライフイベントがあると再発してしまう人もいるので、ゆっくり治療していくことが大切です。時間はかかるように見えますが、一般的なうつ病と比べて治療成績は高いので慌てず付き合っていきましょう。

山田和男(やまだ・かずお)
1967年東京都生まれ。91年、慶應義塾大学医学部卒業。2002年、慶應義塾大学医学部東洋医学講座講師。03年に山梨大学医学部精神神経医学・臨床倫理学講座講師。05年、東京女子医科大学東医療センター精神科講師を経て、11年同教授。17年より東北医科薬科大学医学部病院教授に着任し現在に至る。著書に『月経の前だけうつ病になってしまう女性たち―PMDD(月経前不快気分障害)を治す』(講談社)『月経前不快気分障害(PMDD)』(星和書店)『パニック障害の治し方がわかる本』(主婦と生活社)などがある。