英「ITV」局で2010~15年に6シーズンにわたって放送された、大ヒットドラマ『ダウントン・アビー』。イギリスの田園地帯に建つ大豪邸ダウントン・アビーに暮らす貴族クローリー家の面々と、使用人たちの日常を描いた作品だ。
物語はフィクションだが、1912~25年に起きた事件や社会情勢を忠実に踏まえ、ストーリーは展開していく。タイタニック号沈没事故、第一次世界大戦、スペイン風邪など、歴史に詳しくない人でも知っているような大きな出来事が、イギリスの貴族や使用人にどのような影響を与えたのかがよくわかり、興味深いものになっている。世界中から愛されるドラマだったが、2015年に惜しまれつつ幕を閉じた。終了時、キャストも制作陣も「よいタイミングで終わることができた」と満足していたが、ファンの大きな期待を受け、ドラマの主要キャストたちが再集結した映画化が実現。
日本でも1月10日に公開された映画版の舞台は、ドラマの最終回から約2年後の1927年。
昨年11月にはプロデューサーが映画版続編に向けた動きがあることを明かすなど、なにかと話題の『ダウントン・アビー』。今回は、そのドラマ版のトリビアをご紹介しよう。
「ダウントン・アビー」には住人がいる:『ダウントン・アビー』トリビア1
ダウントン・アビーのモデルとして撮影が行われている「ハイクレア・カースル」には、実際に人が住んでいる。カースル(キャッスル)とついているが、実際には城ではなく17世紀に建てられたカントリー・ハウスで、3代目カーナーヴォン伯爵が、英国会議事堂を手がけたチャールズ・バリーに設計を依頼したゴシック・リバイバル建築である。
代々、カーナーヴォン伯爵とその家族が暮らしており、現在は8代目が当主。第一次世界大戦中は負傷した兵士を治療する病院のような役割を果たし、第二次世界大戦中には貴族たちの疎開場所として邸宅の一部が使われていた。『ダウントン・アビー』以前にも映画やドラマの舞台として撮影場所を提供しており、映画『ラルフ一世はアメリカン』(91)、『ロビン・フッド』(91)、『アイズ ワイド シャット』(99)の撮影もここで行われた。
ハイクレア・カースルはイベントスペースとしても提供されており、200人までのゲストを迎えた挙式を行うことも可能。邸宅内を見て回るるガイドツアーも開催されている。
ハイクレア・カースルは、主に外観やダイニング・ホール、玄関にあたるエントランス・ホール、階段などが撮影に使われている。メンテナンスをして大切に使われているものの、厨房や使用人たちの部屋の状態はあまりよくなかったため、撮影には適さないと判断され、これらのシーンの撮影はロンドン西部にある「イーリング・スタジオ」(1902年設立)で行われているのだ。
ドラマに登場するベッドルームのセットは実はひとつしかなく、同じベッドを登場人物によりデコレーションを変えて使い回している。同作の美術監督ドナル・ウッズはアメリカの番組の取材に対し、「ベッドルームの窓に注目してみれば、窓から見える景色が常に同じだと気づくでしょう」とコメントしている。
ナポレオン愛用の品々が!?:『ダウントン・アビー』トリビア3
ハイクレア・カースルにはアンティーク家具がたくさんあるが、その中で最も歴史的価値が高いのは、音楽室にあるマホガニー製のデスクとイスだろう。フランス皇帝のナポレオン・ボナパルトが所有していたものだからだ。
米アンティーク専門誌『Southeastern Antiquing and Collecting Magazine』の取材に応じた、8代目カーナーヴォン伯爵夫人フィオーナによると、デスクとイスはナポレオンが1821年に亡くなった後、3代目カーナーヴォン伯爵が購入。
ナポレオンはこのデスクとイスを最期を迎えたイギリス領セントヘレナ島の家ロングウッド・ハウスにも持っていき、亡くなるまで愛用していたそう。ナポレオンが退位文書に署名したのはこのデスクだという説もあるが、定かではない。夫人は「大切なものなので、撮影には使わせない」と笑っていた。
ほかにも、バロックの期の画家アンソニー・ヴァン・ダイクの絵画や、5代目カーナーヴォン伯爵が古代エジプトのファラオ・ツタンカーメンの墓の発掘資金提供者だったことから、数多くの発掘品を所持しているそう。
18年8月に、英国映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)が『ダウントン・アビー』に特別賞を授与した。その際に流された祝福のビデオで、俳優アンソニー・ホプキンスやウーピー・ゴールドバーグらに混ざり、「番組の大ファン」として登場したのが、英国王室のウィリアム王子。BAFTAの会長を務める王子は、「ビデオに参加できてとてもうれしい。特別賞を贈ると知った時に感激した。キャサリンと私にとって、大好きな番組のひとつだから」「世界中で大ヒットした英国ドラマは多くない。
キャサリン妃は15年に番組の収録スタジオを訪れ、キャストたちと交流。クローリー家の次女イーディス役を演じるローラ・カーマイケルは、米エンタメチャンネル『E!』の取材に対し、「素敵な方でした。すごく普通で。みんなが言うことですが、周囲がリラックスするように努めてくださるんです」と大興奮。キャサリン妃が熱心にキャストたちの話に耳を傾け、またうれしそうな顔でセットを見回す写真や映像が公開され、「本当のファンなんだ」と話題になった。
著名な英国王室評論家で、多くの伝記を書いたブライアン・ホーイは、エリザベス女王も番組のファンなのだと英紙「デイリー・テレグラフ」に打ち明けており、「女王は、(英国の伝統的なパレード)トゥルーピング・ザ・カラーのシーンで、若い将校の胸につけられたメダルの順番が間違っていたことや、別の将校が(第一次世界大戦を時代背景としているのに)第二次世界大戦時のメダルをつけていることなどを指摘されていた。実に細かいところまで見ながらドラマを楽しんでいる」「女王はカーナーヴォン一族と交流があり、ハイクレア・カースルも何回か訪問しているため、親しみを感じながら熱心にご覧になっている」と語った。ちなみに、エリザベス女王は8代目カーナーヴォン伯爵のゴッドマザーである。
ブライアンだが、「カミラ夫人も毎回楽しみに視聴しておられる。見逃したことはないほどだ」「チャールズ皇太子は、あまり熱心にはご覧にならないけれど……」とも明かしており、英国王室にはドラマの大ファンが何人もいるのだとファンを喜ばせた。
臭すぎる衣装:『ダウントン・アビー』トリビア5
ドラマでは実際に、20世紀初頭に作られた衣装が多く使われている。取り扱いにも細心の注意が求められるため、役者たちは洗っていない衣装を着用しているとか。ほかの番組で使用したドレスを使い回すことも多く、伯爵の三女シビル(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)やマシュー・クローリー(ダン・スティーヴンス)が着ているドレスは、英BBCのドラマ『The Duchess of Duke Street』で使用されたもの、伯爵の長女メアリー(ミシェル・ドッカリー)が着用した赤のドレスは映画『奇術師フーディーニ ~妖しき幻想~』(08)でキャサリン・ゼタ=ジョーンズが着用していたドレスを着ている。
また、当時のキッチンで働くスタッフは役割上、服を洗う必要はないとみなされていたため、ドラマもその習慣に沿って、キッチン・スタッフの服は洗わないとのこと。英紙「デイリー・メール」は、厨房メイド/料理人助手デイジー役を演じたソフィー・マックシェラの、「私たち、すごい悪臭がするのよ。衣装を洗わないから」「脇の下に妙なパッドが縫い付けられていて、それは外して洗えるのだけど」という暴露話を紹介している。
また、男性が首につけているカラーズ(つけ襟)は非常につけ心地が悪いことを、グランサム伯爵役のヒュー・ボネヴィルは、番組ガイドブック『The Chronicles of Down Abbey: A New Era』の中で語っている。しかし利点もあるそうで、「つけていると、態度や振る舞いがそれらしくなる。また、正しい姿勢で立つことができる」と説明したという。