脱北への道は、以前にも増して険しくなっている。
北朝鮮東海岸、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の花台(ファデ)郡から木造船に乗り、自由を求めて海に出た住民4人が、あえなく保衛局(秘密警察)に捕らえられた。
現地のデイリーNK内部情報筋によれば、事件が発生したのは先月末のことである。
花台沖の日本海を航行していた1隻の小型木造船が、待ち伏せしていた海上警備艇に拿捕され、乗っていた4人は咸鏡北道保衛局に引き渡された。
この4人については、すでに以前から「疑わしい」との通報が保衛当局に寄せられていた。郡保衛部は、彼らの動向を事前に把握し、行動の一挙手一投足を監視していた。そして、脱北を実行に移した場合は現場で現行犯逮捕する方針のもと、警備艇を待機させていた。
4人は警備艇の接近に気づき、逃走を試みたものの、木船に何らかの機械的なトラブルが発生し、逃げ切ることができなかった。結局、抵抗も弁明もできぬまま、なす術なく逮捕されたという。
逮捕された4人のうち3人は家族であり、残る1人は血縁関係のない船長であった。この船長は水産事業所に所属し、漁業の経験を持つ人物で、家族とともに脱北を企てたとみられている。
情報筋は、「道保衛局は現在、4人を別々に拘束して取り調べを行っている」とし、「背後に脱北を指示した組織や人物がいるのか、すなわち外国との繋がりがあるのかどうかを中心に追及している」と述べた。
今回の脱北未遂の動機については、深刻な経済的困窮によるものであると考えられている。
4人はいずれも取り調べの中で、「食べていくのも難しく、勤労動員が多すぎて商売をする暇もなく、将来の展望が見えなかった」と供述したという。
彼らを取り調べた保衛員たちは、「苦しいのはお前たちだけか?今、いい暮らしをしている人などどこにいるのか?苦しくてもみんな我慢してるんだ」と叱責した一方で、北朝鮮の現在の劣悪な経済状況を暗に認める発言もあったという。
情報筋によれば、「この事件は中央当局にも報告されており、逮捕された4人は、韓国への脱出を企てた行為により、管理所(政治犯収容所)へ送致される見通しである」とのことだ。それも、死ぬまで釈放が許されない完全統制区域に入れられる可能性が高く、もはや生きて戻って来ることはないだろう。
情報筋はまた、「この事件を契機に、沿岸部の監視強化と漁船への点検指示が下された」とも伝えている。
一方で、事件に関連し、保衛当局は「韓国に行こうとして捕まったという事件について語ること自体が反国家的な世論を喚起する危険な行為である」とし、外部への情報漏洩を防ぐため、住民に対して口止めを命じた。しかしすでに事件の噂は、花台郡一帯の水産事業所を通じて広く住民の間に知れ渡っているとのことである。