タワマンやダムなどの巨大建設を次々と進めている北朝鮮だが、住宅の修理や小規模な建築を担う日本の工務店のような業者は事実上、存在してこなかった。各市や郡には国営の建設事業所があり、大都市には補修専門の事業所もあるが、住民のニーズに応えるサービスはほとんど機能していないのが実情だ。
そんな中、最近では、報酬を受け取り、決められた期間内に家の新築や修理を請け負う「個人建設業」が各地で盛んになっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
南浦市の情報筋は、「各地方で工場や農村住宅など国家建設が進む一方で、個人の建築業も活況を呈している」と伝えている。南浦では、4~6人で構成された民間の建築チームが家主と契約し、住宅の新築や内装工事を請け負っているという。
たとえば、ある除隊軍官は、当局から家を建てる土地を与えられ、掘っ立て小屋を建てて10年近く暮らしてきたが、今春、個人業者に建築を一括依頼。資材費と人件費をまとめて支払い、わずか2カ月で立派な住宅が完成したという。
同様の動きは咸鏡北道でも見られ、現地の情報筋は「国営よりも民間の建築業者を信頼する空気が広がっている」と話す。ここでもチームは4~6人単位で、かつて軍の工兵部隊で10年以上勤務したり、民間で経験を積んだ熟練者が中心だという。
「時にはトラブルもあるが、個人業者は工程を丁寧に説明し、仕上がりも満足のいくものなので信頼を勝ち取り、次の仕事にもつながっている」と情報筋は語る。政治的な事情から無理な工期を設定し、完成後にトラブルが続出する国家事業よりよほど仕事の質が良いのかもしれない。
また、親戚も個人業者に依頼して家を建てたが、責任者は軍の建設専門部隊「第7総局」にいた人物で、技術も経験も豊富だったとのこと。完成した家は非常に満足度の高いものだったという。
民間業者を使うメリットは他にもある。たとえば、工事期間中の食事提供が不要な点だ。情報筋によれば、「彼らは作業中に食事の接待を受けず、ほぼ自前で食事を済ませるため、毎日4~5人分の昼食・夕食を用意する手間と費用がかからない」とのことだ。
ただし、当局はこうした個人建築業を「資本主義的行為」として取り締まっている。しかし、摘発されても「親戚や友人が手伝っているだけ」と言い逃れたり、タバコや現金を渡してごまかすケースもあるという。
当局は、2010年代以降に急速に発展した民間的な企業活動や雇用の動きを取り締まっているが、需要があるところには必ず供給が生まれる。それが経済の原理である。この需要と供給すら満足にコントロールできない中央集権型の計画経済は、今後ますます現実に押し流され、崩れていくだろう。