【その他の写真:ヤシ酒は白く濁り、甘酸っぱい香りがする(ヤンゴン郊外、撮影:北角裕樹)】
この酒がユニークなのは、実を発酵させるのではなく、高い木の上で切った枝から滴る樹液をためて酒にする点だ。半日程度で壺がいっぱいになるが、貯めている間も発酵が進み、朝晩に壺を回収する時にはすでに発酵による泡でいっぱいになっている。さらに数時間待つと、ちょうどよい飲み頃になるという。
筆者が訪れたのは、ヤンゴン郊外のタンリン地区にあるチャイカウ・パゴダの門前にある村だ。タンイエは古都バガンなどミャンマー中部が有名だが、タンリンでも飲めると聞いて飲める場所を探し回った。パゴダ近くでシュロの実を販売している屋台が並んでいたので聞き込みをすると、近くの村にタンイエを出す店があることが分かった。村の奥に入ると、草ぶきの掘っ立て小屋のような軽食店があった。土の上に建てた高床式の座敷がある。聞くとタンイエがあるという。
タンイエは、ゆうに1リットル以上はありそうな素焼きの壺で提供された。壺ひとつで2,000チャット(約160円)。
樹上で壺で樹液を集めるという性質から、ミャンマーでは5月中に始まる雨季に入るとタンイエは姿を消す。今だけしかも都会にはないまさに幻の酒だ。タンイエを飲むために都会を離れて農村を訪れる旅に出る価値はあるだろう。
【執筆:北角裕樹】