北朝鮮は覚せい剤やアヘンなどの違法薬物の取り締まりを強化しているが、売人(バイニン)も常習者も、さまざまな手口で当局の目をかいくぐっている。

咸鏡南道のデイリーNK内部情報筋によれば、厳罰化に伴い、咸興市内の取引場所は「路上」へと移りつつある。

「以前は個人宅での取引が一般的でしたが、今は人が多く集まる場所で、ほんの一瞬のうちに取引が行われるようになっています」(情報筋)

従来は購入者が売人宅を訪れる形だったが、監視強化でそれも困難に。すでに当局にマークされており、不審者の出入りはすぐに摘発対象となる。

先月27日、咸興市の住宅地で50代のAさんが売人宅を訪れた後、帰り道で安全員(警察官)に身体・荷物検査を受けた。薬物は見つからなかったが、ポケットのドル紙幣3枚が見つかり、タバコ1カートンをワイロにして解放された。

情報筋は「もしAさんの身体からピンドゥ(覚醒剤)が出ていたら、すぐに連行され、少なくとも1500ドル(約21万7500円)を支払わなければ釈放されなかったはずだ」と話す。

こうした背景から、売人と購入者は屋外で密かに接触する方法に移行している。市場や駅前で、すれ違いざまに薬と金を瞬時に交換し、その場を離れる。接触日時や服装の情報は事前に共有され、互いに目配せで確認し合うという。

売人は顔が知られていない第三者を代理に立てるほか、薬物を小分けにし、購入者は経済状況に応じて量を選ぶ。

「売人は通常、0.2グラム、0.5グラム、1グラム単位で販売します。少量ほど割高で、実際には表記量に満たないことも多いため、仲間同士でまとめて買って分け合うケースもあります」(情報筋)

ただし、この手法は一人でも摘発されれば、他の購入者にも捜査が及ぶリスクがある。

北朝鮮では法律は「自分を守るもの」ではなく「苦しめるもの」と見なされ、摘発回避に知恵を絞る傾向が強い。

情報筋は「当局が取り締まりを強化しても『やめよう』とは思わず、どう逃れるかを考える」と述べ、「公開批判や矯正施設送りでも、取引は止まず、むしろ巧妙な方法が増すだけだ」と語った。

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