北朝鮮が「祖国解放戦争(朝鮮戦争)勝利の日」と呼ぶ休戦協定締結72周年の記念日にあわせ、全国各地で青年舞踏会が開催された。しかし、参加した若い女性たちの服装から経済格差が露わになり、「こんな行事ですら劣等感をあおる」との声が上がっている。
デイリーNKの咸鏡北道の情報筋によると、27日の戦勝節に清津市で行われた青年舞踏会でも、参加者の着用するチマチョゴリ(伝統衣装)が家庭の経済状況を映し出しており、参加した若者の間で不快感や違和感が広がっていたという。
北朝鮮では、戦勝節や青年節(8月28日)などの主要な記念日や国家行事にあわせて青年舞踏会が開かれる。特に女性の参加者にはチマチョゴリの着用が奨励されており、今年の戦勝節でも多くの女性がチマチョゴリ姿で出席していた。
しかし近年では、チマチョゴリがその家庭の経済力を示す「物差し」となりつつあり、それに対する若者たちの反発が強まっている。
情報筋によれば、デザインが古く、生地も安価なチマチョゴリを着てきた女性たちは、心理的な引け目を感じていたという。体裁を保つため、親戚や近所の人から衣装を借りて参加する人もいたが、それもできない場合は、白いチョゴリに黒いスカートという最も簡素な服装で出席せざるを得ず、強い劣等感に苛まれていた。
男性の場合は、白や青系のシャツに黒などの濃い色のズボンを合わせれば、しっかりアイロンがかかっていれば高価かどうかは目立たない。しかし、女性のチマチョゴリは色合いや生地、デザイン、装飾の違いがはっきり表れるため、誰が高価な服を着ているかが一目でわかってしまう。
実際、今回の舞踏会で女性たちが着用していたチマチョゴリは、大きく3つのタイプに分かれていた。
ひとつ目は、市場で高値で取引されている「高級型」。広い襟が特徴的なデザインで、洗練された色彩や高級な生地を使った流行のスタイルだ。これは経済的に余裕のある家庭の若者が身につけていた。
ふたつ目は、流行遅れのデザインに安価な生地を用いた「中間型」。裕福とは言えないが、飢えに苦しむほどではない家庭の若者が主に着ていた。
みっつ目は、白いチョゴリに黒いスカートを合わせた「基本型」。公式行事や団体活動でよく見られるこのタイプは、日々の食事すらままならないような貧しい家庭の若者が着ていた。
割合としては、10人中2~3人が高級型、4~5人が中間型、残りの2~3人が基本型だったという。
情報筋はこう語る。
「服装を見るだけで、どの家庭が裕福で、どの家庭が貧しいかがすぐにわかってしまった。もともと生活に困っている若者たちは、日常から引け目を感じながら暮らしている。そんな彼女たちにとって、公の場で経済格差を突きつけられるのはつらいことだ」
実際に今回の舞踏会に参加した清津市の20代女性Aさんも、次のように心情を吐露している。
「まともなチマチョゴリがないと、本当に参加したくなくなる。でも欠席は許されないので、恥ずかしさをこらえて、舌を噛むような思いで参加した。自分だけが古びた服を着ているような気がして、顔を上げるのもつらかったし、相手と目を合わせるのも苦痛だった」
そして、こう続けた。
「舞踏会は表向きには笑って楽しく踊る場だけど、実際には自分の立場をあらためて思い知らされる、苦しい時間でしかなかった」