2025年9月3日、北京で開かれた中国抗日戦争勝利80周年記念行事において、北朝鮮の金正恩総書記がひな壇に姿を現し、習近平国家主席の両脇をプーチン大統領とともに固めた。
金正恩氏は1日、通称「1号列車」と呼ばれる専用列車で北朝鮮を出発し、2日に北京へ到着。北京駅では中国共産党序列5位の蔡奇・政治局常務委員や、王毅・政治局員兼外相らが出迎えた。その場で注目を集めたのは、金正恩氏の実娘ジュエ氏の姿が確認されたことだ。
これまで国内行事でしか姿を見せなかったジュエ氏にとって、今回の「初外遊」は単なる家族的演出ではなく、北朝鮮が国際政治において新たに打ち出す「血統外交」の象徴とみるべきだろう。
ジュエ氏はこれまで、弾道ミサイル発射実験の視察や軍需工場の訪問といった演出を通じ、「後継者候補」として国内外に印象づけられてきた。今回の国外デビューは、北朝鮮にとって最重要の政治資産である「白頭の血統」の継承を内外に強く訴える狙いがあると考えられる。血統に根ざす「革命の正統性」を国際舞台で示すことは、対外的な威信の誇示であると同時に、国内への体制安定メッセージでもある。
今回の金正恩氏の訪中で中朝関係がより改善に向かえば、台湾問題をめぐる中国の軍事的ポジションを相対的に有利にする。さらに、ロシアが欧州における脅威として存在感を高めている状況は、二正面作戦を嫌う米国の戦略的計算を複雑にし、中国にとってプラスとなる。ロシアはウクライナ戦争を継続しており、北朝鮮の軍事支援明言もあって、協力関係は当面続くとみられる。
北朝鮮は2002年、当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領からイラン、イラクとともに「悪の枢軸」と非難された。しかし、その実態はしばしば誇張と批判されてきた。それに比して、現在の中露朝の結びつきは、より現実的な「枢軸」、すなわち自由世界に対抗する「脅威の枢軸」に近づいているのではなかろうか。
ジュエ氏は軍事パレードのひな壇に立つことこそなかったが、今回の訪中・初外遊によって「後継者」としての存在感が一層強まったのは確かだ。もしこの出来事が彼女の後継への第一歩だとすれば、後世において「脅威の枢軸の申し子」と称される日が来るのかもしれない。