中国税関総署の統計によれば、2024年上半期における北朝鮮の対中かつら・つけまつげ輸出額は1億548万ドル(約1,400億円)に達し、全体の60%を占める異常な比率を示した。国連制裁で繊維輸出が禁止された2017年以降、北朝鮮は非制裁品である美容製品に狙いを定め、外貨獲得の“裏口”を築いたとみられる。

こうした中、女性の髪の毛が「黒い黄金」と化し、その裏側では女性や子どもまでもが“髪狩り”の犠牲となり、人権蹂躙が日常化していると、韓国の独立系メディア「サンドタイムズ(ST)」が伝えた。

北朝鮮当局や業者は中国から髪を輸入して加工する一方、国内住民から大量に髪を集めている。生活苦にあえぐ女性たちは「元手のいらない商売」として髪を伸ばし、自らの体を切り売りして日銭を稼ぐ。髪を買い集める業者は地方農村にまで足を運び、20センチ以上の髪を基準に買い取る。短ければ価格は半額に叩かれる。

しかし問題は、これが単なる取引にとどまらず、露骨な搾取や暴力を伴っている点だ。髪を切る業者は切った毛束の半分を懐に隠し、残りだけを見せて代金を支払う。さらに悪質な例では、学校前でお菓子を餌に8歳の少女の髪を丸ごと切り取った事件まで報告されている。もはや「髪の毛注意報」が北朝鮮女性たちの間で現実の警告として広がっている。

当局は公安を動員して取り締まりを試みているものの、実態はワイロで簡単に骨抜きにされる。住民は自然に抜け落ちた毛髪を集めて売ろうとするが、重量が足りず商売にならない。こうした“闇取引”は制度疲労を抱える北朝鮮社会の縮図であり、国家が住民の人権を守るどころか、むしろ住民の体を資源として外貨に換える構造を温存していることを物語っている。

北朝鮮産かつらは最終的に中国経由で世界市場に流れ込み、アメリカ市場にも「中国産」として堂々と輸出されている。専門家は「北朝鮮は美容製品の収益を核開発に充てている」と指摘し、強制労働が絡む製品は米国の「CAATSA(敵対国制裁法)」違反として没収の可能性もあると警告する。

北朝鮮女性や子どもの髪の毛までが核開発資金の一部に組み込まれるという現実は、単なる経済問題ではなく、国際人権と安全保障に直結する問題である。生活苦が生み出した「黒い黄金」は、体制の残酷さを照らす鏡である。

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