北朝鮮当局がロシア派兵戦死者に対する表彰に続き、その遺族を対象とした優遇策として「携帯電話用SIMカード」の半額販売を実施したことが分かった。しかし、対象範囲が広げられたことで実質的な恩恵は薄く、見守る人々の間からは「それっぽっちか」という非難の声も相次いだという。

平安南道の情報筋が8日、デイリーNKに証言したところによれば、当局は今月1日から1週間、各地の指定通信サービスセンターでロシア派兵戦死者遺族のほか、「愛国烈士」や「栄誉軍人(傷痍軍人)」の家族を対象にSIMカードを国定価格63ドルで販売した。市場では約130ドルで取引されているため、実質的に半額の破格措置だった。

平城市の指定サービスセンター前では夜明け前から住民が列をなし、徹夜で順番を待つ人々まで現れた。だが、列に割り込む住民をめぐって口論や小競り合いが発生し、安全員が出動する騒ぎにも発展したという。

「実際には携帯電話本体を持っていなかったり、通信料を払えなかったりする人も多い。それでも『今買っておけば得だ』という心理に加え、将来的に高値で転売できると踏んでいる人が殺到した」と情報筋は語る。

住民の間からは、「家族を失った犠牲者が、たかが67ドルの恩恵を得ようと炎天下で争っているのはあまりにも痛ましい」「数は限られているうえ、実質は“割引販売”に過ぎず、遺族同士の争いを招いただけ」といった冷ややかな声も相次いだ。

かつては党が主導して英雄遺族を祝う行事や慰問会を開いたが、今回はそうした象徴的な催しはなく、「SIMカードの割引」という限定的な施策にとどまったことにも不満が出ている。表向きは遺族への配慮を示しつつも、結果的には社会の冷笑を招く格好となった。

もっとも、遺族への優遇策が他にもあるのかどうかは定かでない。すでに高層マンションをあてがわれているといった情報もあるが、これにも不満が出ているようだ。

さらに、今回の対象がロシア派兵戦死者遺族に限定されなかった点をめぐっても憶測が広がっている。

ある住民は「もしロシア戦死者の家族だけを対象にすれば犠牲者数の多さが露見し、国内に動揺を招くからではないか」と語った。

サービスセンターに長蛇の列ができる様子を目の当たりにした住民の中には、「こんなに多くの遺族がいるのか」と驚く声もあったとされる。半額SIMカードという前例のない優遇策は、むしろ北朝鮮社会に戦死者の存在を強く印象づける結果となったようだ。

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