中国で9月に開催された「戦勝節80周年記念閲兵式」をめぐり、習近平国家主席が北朝鮮の金正恩総書記やロシアのプーチン大統領を天安門広場の中心に立たせたことに対し、批判や中傷の投稿が中国内のオンライン・コミュニティに拡散した。これを受け公安当局が徹底的な検閲と取り締まりを展開する中、身分証を持たない脱北女性までもが調査対象となり、不安が広がっている。

中国に潜伏する脱北者は3万人から5万人と見られているが、20万人規模の可能性があると指摘するレポートもある。中国の脱北者は難民とは認定されずあくまでも「不法滞在者」だ。北朝鮮に対する配慮から、中国政府は難民とは認定しないことから、韓国へいくこともできない。ロシアを通じて、韓国への脱北を試みようとする北朝鮮人もいるが、成功する可能性は低い。


結果、中国に限らずロシアでは不法滞在として潜伏せざるを得ない。こうした中、複数のデイリーNK現地消息筋によると、微博などでは「文化大革命の精神が刻まれた天安門に金正恩とプーチンを並べたのは歴史への冒涜だ」とする批判が拡散。特に金正恩に言及した投稿を契機に、公安は脱北女性を“危険対象”として扱い、関連性を疑って調査を進めたという。

複数のデイリーNK現地消息筋によると、微博などでは「文化大革命の精神が刻まれた天安門に金正恩とプーチンを並べたのは歴史への冒涜だ」とする批判が拡散。特に金正恩に言及した投稿を契機に、公安は脱北女性を“危険対象”として扱い、関連性を疑って調査を進めたという。

実際に湖北省や湖南省、重慶、上海、天津などで公安が脱北者の家に押し入り、携帯電話やパソコンを押収。本人を派出所に呼び出して事情聴取する事例が相次いだ。機器が返却されないケースも多く、住民に強い不安を与えている。

上海に住むある女性は「北送されるのでは」と恐れ、子どもを姑に預けて夫と共に親戚宅へ避難。天津では、金正恩が自ら訪中したことから「今回の検閲は性質が違う」と怯え、精神的に追い詰められて病院に運ばれる女性もいた。重慶では子どもたちが母を守ろうと夜通し玄関を見張り、その話が村中に広がった。中国人住民からも「批判したのは中国人なのに脱北者にとばっちりが来た」との同情や「中国人と家庭を築いた脱北者はそっとしておいてほしい」という声が出ている。

一部公安は「今回の取り締まりは閲兵式を侮辱した中国人の摘発であり、北送とは無関係」と説明している。実際、湖北省襄陽では47歳の男性が閲兵式を批判するコメントを投稿したとして逮捕され、その様子が映像ニュース専門メディア『掌聞視訊』で報じられた。映像には彼が実際に書き込んだ文章も紹介され、注目を集めた。

公安は表向き中国人の処罰を強調する一方、内部的には脱北女性を重点的に調査対象とした。背景には、身分証を持たない彼女たちが携帯電話を自分名義で契約できず、他人名義を借りて使っている点がある。公安はこれを「潜在的に不穏分子と関わる危険性」とみなし、調査拡大の口実とした。

中国当局は「北送とは関係ない」と繰り返すが、脱北者社会には恐怖が再び広がっている。ある消息筋は「公安の動きは、彼女たちにとって強制送還の悪夢を思い出させた。安心して暮らすことが一層難しくなった」と語った。

今回の一連の動きは、中国社会の政治的敏感さを映し出すだけでなく、最も弱い立場にある脱北女性が“防波堤”として犠牲になっている現実を浮き彫りにしている。閲兵式批判という中国人による行為が、思わぬ形で彼女たちに飛び火した構図は、中国国内でも波紋を広げている。

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